二人きりかと思いきや
久し振りのユーラン。
しかも、良いことがあった日ともなれば、テンションはだだ上がりだ。
ルミナスと二人きりというのも本当に久し振りで、楽しくて足取りも軽い。
ルミナスをチラリとみればスキップしそうなほど浮かれていた。
それでもちゃっかり目は立ち並ぶ屋台へと釘付けである。
ユーランの街には王都とは異なる屋台が目白押しだ。
風と炎の魔法で作っている綿菓子や、魔道具のフライパンで焼いた炒飯など、殆んどが魔法でまかなっているといっていい。
アミューズメント気分で、目にも楽しい屋台街を二人でてを繋いで歩く。
それだけでも充分楽しいのだが、お腹が空いている私たちにとって、そこらじゅうから立ち上る食べ物の匂いははっきり言って少々酷である。
と言うことで、早速買い食いに専念することにした。
「主様!あれはなんじゃ!?あ、あれも美味しそうなのじゃ!」
「はいはい。一つずつ見ていこうね。」
私と再開してから、すっかり食いしん坊になったルミナスが、ぐいぐいと私の腕を引っ張るのをたしなめる。
この調子でいくと、全部の種類の食べ物を買い占めそうで怖い。
なかばお金を持っているだけに、冗談か本気か判断がつけづらいところである。
それはともかく、屋台を冷やかしつつ、どうにか炒飯とバーベキュー串、デザートに洋ナシのシャーベットを買った。
それを近くのベンチに座りながら食べる。
「美味しい?ルミナス?」
「美味しいのじゃ!主様のご飯には遠く及ばぬがの。」
もくもくと食べ進めているルミナスに声をかければ、なんとも嬉しい返答が返ってきた。
口のまわりにお米やら串のタレやらを付けながらでは全く真実味がないが…。
まぁ、とにかく、久々ののどかな時間を私達は楽しんでいた。
そう。この時までは…。
「あら?やっぱりフィーお姉さまじゃありませんこと!?」
「お、ルミナス様じゃねーかー」
私たち二人がデザートであるシャーベットを食べはじめようと口を開けた時だった。
後方から声がかかる。
二人揃って「「げ!?」」と下品な声を出してしまったのは仕方ないことだ。
何故なら声の主に覚えがあるからである。
私をお姉さまと呼ぶのは、後にも先にも一人しかいない。多分。
しかも、その後に聞こえた少年の声も台詞もいけない。
もういろいろ吹っ切れて、ルミナスを実体化させて連れまわしてはいるものの、正体を見破った者は居ない。
しかも様付けときた。
誰がどう考えても私達の関係者なのは確定である。
おそるおそる振り向くと、やはりというべきか、予想通りの人物が居た。
「はぁー、やっぱりリリスとフレイか…」
「フレイか…」
私とルミナスがため息をつきながら言えば、二人は心外だとばかりに顔をしかめる。
「まぁ!お姉さまにお逢いしたくてユーランに宿を取っていましたのになんですの!?」
「そうだよ!ルミナス様もフィーねぇちゃんも僕らに会えて嬉しくないわけ?!」
ぎゃんぎゃんと子犬が吠えているようにしか聞こえない。
私がため息をついたのには理由があった。
このリリスという少女、年齢は確か16歳だったと思うのだが、かなり厄介なのである。
性格は良い、礼儀正しい、そして美人とくれば、普通は人気者間違いなしだ。
だが、リリスにはゲーム時代から、友達と呼ぶ間柄の人間が極端に少ない。
それはリリスの種族に原因があった。
リリスの種族はヴァンパイア、所謂、吸血鬼である。
βテスター限定のレア種族。しかも不遇の。
ヴァンパイアは戦闘力は飛び抜けてはいるが、色々と規制が多い。
昼間は全てのステータスが3割減るとか、血液補給を必要とするとかだ。
何より厄介なのは後者である。
血を下さいなんて言われた日には、100年の恋も覚めるというものだ。
かくゆう私も言われた一人で、一度だけ与えてしまったことがある。
ゲームの中なので、殆ど痛みもなかったのだが、何となくやるせない気分になったものだ。
それからというもの、何かと付きまとわれる事になつた。
理由は「血が美味しいから」だそうだ。
と言うわけで、『信用には値するし、良い子なんだが苦手』という人物に分類されているわけである。
フレイは…まぁどうでもいい。
ルミナスは、私とのデートを邪魔されてご立腹のようであるが。
「まぁいいや。で?何でユーランに?」
気を取り直してリリスに尋ねれば、パアッと花が咲いた様な笑顔を浮かべてこちらを見てくる。
笑顔が眩しい。
「少し前に大霊山でお姉さまとユースケさんともう一人男性のかたを見ましたの。声をかけようとしたのですけど魔法で消えてしまわれて…」
成る程。
つまり、私らしき人物とユースケらしき人物がセットで居たから、私達のギルドの拠点があるユーランまで来たと…うん。ストーカーですね。
「で?この辺ふらふらしてた理由は?」
「あ、あのその…実は少し買い物を…」
「おい、リリス!迷ってたって素直に言えばいいだろ!」
「フレイ…あなた後で覚えてらっしゃい!お姉さま、実は少し…少しだけ迷っておりましたの」
ふむ。フレイの言う通り、ただ迷っていただけらしい。
と言っても、うちの拠点は分かりづらくしてあるから当然とも言える。
それにしてもフレイの契約主がリリスだとは驚いた。
血を与えなければいけないという恐怖で、リリスから逃げ回っていた私が知らなかったのも当たり前かもしれない。
「はぁー、んじゃとりあえず拠点いく?色々聞きたいことや話したいこともあるし」
私の一言で、拠点にに二名様ご案内となった。
ちなみに、久し振りのデートを邪魔されたルミナスはずっとフレイを睨んでおり、睨まれているフレイは終始青ざめていたのは余談である。




