家に帰ろう
私が泣き笑いで言ったおかえりの言葉は皆に伝染したらしい。
カイルやルミナス、ルナはもちろんのこと、姐御やルマンさんまで笑顔で口々におかえりと声を掛けた。
掛けられた方のユースケはというと、やっと状況が飲み込めたようだ。
「お、俺、生き返ったのか?」
「うん。そうだよ。皆の協力で蘇生アイテムが手に入ったの。」
「まぁ、私とルマンは何もしちゃいないがね。ルマンに至っては取っ捕まってただけだしね。」
ユースケが唖然としながら口にした言葉に私が答えれば、姐御が横から口を挟む。
「捕まってた!?」と呆然としているユースケと、「フィーとユースケがキス…でもあれは助けるためであって…」と一人ぶつぶつ言っているカイルは放置だ。
とりあえず。
あくまで私とカイル、ルミナスとルナの手柄だと言わんばかりの姐御の不器用な優しさに、私は姐御に向かって微笑みを返す。
「ありがとうございます」という言葉を込めて。
そうすれば、姐御の顔がみるみる真っ赤に染まった。
「全く!爺が全部悪いんだからね!勝手に死んだりして!殺しても死なないような性格してる癖にさ!とりあえずあんたのギルド拠点にお邪魔するよ!んで、説教だね!」
どうやら照れ隠しの矛先はユースケへ向かったようだ。
顔は笑顔のままだが、目が笑っていない姐御にそう言われたユースケは、顔を青くしながらコクコクと首を縦に振る人形のようだったとだけ言っておこう。
「はぁー、こんな便利なもんがあるんだねー」
「流石です。ユースケさんは魔法の天才ですね!」
とは、ユースケの転移魔法を経験した姐御とルマンさんの言葉である。
二人とも転移酔いはしない体質のようで何よりです。はい。
「フィーなんて気持ち悪いーって大変だったのにな」
「うるさい!今は平気だもん!」
あの後、ドラちゃんとの別れと神竜へのお礼を済ませ、転移で拠点へと戻ってきた。
当たり前だが、ユースケが居なくなったという報せを聞いて飛び出してから此処へは戻っていない。
あの報せを聞いたとき、肝が冷えた。
大霊山でユースケが息をしていなかった時、もうだめかと諦め掛けた。
でも今は、またユースケと軽口を叩きあえる。
それに心強い仲間が二人も増えた。
絶望を感じ掛けた拠点のホールという忌まわしかった場所が、今という幸せな記憶に上塗りされていく。
それがとても嬉しかった。
「フィー、なにニヤニヤしてんだ?」
「いや、幸せだなーって」
「そうか…なんか悪かったな。疲れてるだろ?お前とカイルは部屋に戻れ。俺は姐御とルマンに聞きたいことがある。特にルマンにな。」
「うん、わかった」
有無を言わせぬようなユースケの声音に思わず頷く。
こうゆうところが大所帯だったギルドのギスマスっぽいよなーと呑気な事を考えながら部屋に戻るべく廊下を進んだ。
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Side???
ユーランの街中を少女と少年が歩いていた。
少女の背中の羽根はいまは消えてしまっている。
少女からは、どこかの御令嬢かと思われるような品のよさが滲み出ているため、街中ではとても目立っていた。
気付かないのは、本人とフレイと呼ばれた少年だけである。
「このあたりだったと思うのですが…」
「リリス、もしかして迷ったの?」
「違いますわ!ちょっと街の雰囲気が変わったものだから…」
「………」
少女達は迷っていた。目的の場所が見付からないのである。
ジト目で見てくるフレイを扇子で叩いた少女リリスは、また歩き出した。
「はぁ、早く着かないかしら…」と愚痴をこぼしながら。
Side Out
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自室へ戻った私とルミナスはやることもなく、ダラダラとしていた。
眠ろうとしても、嬉しさで興奮している頭は眠ってくれないのだ。
「ねぇ、ルミナス、お腹すかない?」
「すいたのじゃー。でもホールはユースケ殿が使っておるぞ?」
「だからさ、外で買い食いしない?」
「なぬっ!する!するのじゃ!」
どうやらルミナスも私の提案に大賛成らしい。
横になっていたはずの体が飛び起きて右手を目一杯挙手するほどに。
そうときまれば実行あるのみ。
お風呂に入りたい気持ちもあったが、姐御と一緒に裸の付き合いをするために後へとっておこう。
勝手に自己完結した私は、ルミナスと共に着替えを済ませ、街へと繰り出した。
もちろん、怒られない為に、ピアスでユースケへ念話を済ませてから…である。




