おかえり
行きはなんだったんだ?と言いたくなる程円滑に森を抜けた。
ドラちゃんの背に乗り込む際「一人増えたけど大丈夫?」と聞けば、『ぜんぜんへいきー』との答えが返ってきた。
幼竜とはいっても竜であるドラちゃんには一人くらい増えたところで問題にすらならないらしい。
なぜか誇らしくなって、チビ竜から変化したドラちゃんの頭をそっと撫でれば、嬉しそうに目を細める。
とにかく早くユースケを生き返らせてあげたい気持ちを胸に空へ飛び立った。
行きよりも早い日程で、大霊山へ戻ってきた。
行程を端折り過ぎというなかれ。
まるで何かに守られているかのように、道中、夜営時でさえも何も無かったのだ。
食料はエルフの里である程度買い込んだので、途中町に寄って補給する必要もなく、それでいて空型魔物からの襲撃もなかったとなれば当然の結果と言えよう。
頂上付近まで近付き、神竜の姿が見えたことで、ほっと息を吐く。
「ドラちゃん、お母さんの近くまで行ってから降りてくれる?」
『うん、わかったー』
間もなく頂上に降り立った私達は神竜と向かい合った。
近くには、ここを出発したときと変わらない場所で結界に守られているユースケの姿がある。
そちらに一目散に駆け寄りたい気持ちを抑えつつ、私は神竜に向かって口を開いた。
「まずはドラちゃんを同行させてくれてありがとうございました。お陰で予定よりも早く此処へ戻って来ることが出来ました。」
『よい。息子が役にたったようで何より。』
ペコリと私が頭を下げると、全員が後に続いて頭を下げた。
「それと…ユースケを守ってくれてありがとうございました!」
頭を下げたままお礼を言えば、自分の目から涙がこぼれるのを感じた。
いつまでも頭を上げようとはしない私の様子に姐御が気付き、肩を抱いてくれる。
「全く!泣くんじゃないよ!気が張ってたのは知ってたけどね。あの爺、生き返ったら説教だね!フィーを泣かせるなんてさ!ほら!早く爺を生き返らせておやり。」
『礼など要らぬ。我は息子の命の恩人に報いただけの事。それよりもはよう生き返らせてやれ』
姐御と神竜の言葉に背中を押された形で、私達はいまだ眠っているかのようなユースケへ近付いた。
私がアイテムボックスから『月光樹の雫』を取り出すと、ユースケを守っていた結界が消える。
それに驚きながらも、小瓶の蓋を開け中の液体を自らの口に含み、ユースケへ口移しで飲ませた。
皆が息を呑むのが聞こえる。
一秒、二秒がとても長く感じる。
反応がなく、私の口から液体が減る気配さえ感じず、焦り始めた頃、ユースケの喉が動き、確かに液体を嚥下したのがわかった。
「ッッ!ユースケ!!」
「ユースケ殿!!」
「おい!ユースケ!」
「爺!とっとと起きな!」
「ユースケさん!?」
『おじいちゃんのおにいちゃん!』
「おきて!」
全員でユースケに呼び掛ける。
それに答えるように、ユースケの瞼がピクリと動き、ゆっくりと目を開けた。
覗き込む私達の顔を見渡し、驚いたように自分の体を触りながら確かめ、やっと口を開いた。
「んあ?何で俺、生きてんだ?それに姐御とルマン?何で?ああ、久し振り?」
余りにも気の抜けたユースケの言葉に私達は盛大に固まった。
そんな中、いち早く我に返った私は、まだ涙の後の残る顔に笑顔を張り付けて言ったのだった。
「バカユースケ、おかえり」と。
あと三話くらいで結集編終了かな?
次章は、対決編ですよー。




