考察
ギルドを出てカイルと合流した。
「カイル待たせてごめんね。」
「おぅ、大丈夫だったか?」
「うん、賞金貰えたよ!後で分けようね♪」
「いや、アギトの奴等を倒したのはフィーだ。それはフィーのものだ。」
「え?でもっ」
「俺達は商会の護衛任務についてる。フィーのお陰で、任務も完遂出来そうだ。だから、いいんだよ。」
「うーん、わ かった!じゃあ、武器を買う!魔法だけじゃ心許ないし。」
「お、お前、魔法使いじゃないのか?」
カイルが焦って聞いてきた。
「え、違うよ。私はオールラウンダーって言ってもわかんないか、えーっと魔法剣士みたいな感じかな。」
何だかカイルの顔色が悪い気がする。
「どうしたの?」
「あれで、魔法がメインじゃないだと。剣があれより得意だとしたら、もしかしたら俺よりもいや、そんなはずは」
と、なんだか一人でブツブツ言っている。
放っておこうかとも思ったが、このままじゃ、武器屋も宿屋の場所でさえわからない。この街は、確かに見覚えがあるのだが、150年もたてば色々変わっているだろうし、実際さっき、街の名前をさりげなく聞いてみたが、知らない名前だった。
よし、思いきってまだブツブツ言っているカイルに声を掛けてみよう。
「ねぇ、カイル、今日はカイル達もこの街に滞在するんだよね?」
「あ、あぁ、王都までの食糧の補給もしなきゃならないからな。」
「そっか、あのさ、いい宿屋とか教えてもらえないかな?出来れば武器屋も。」
「ああ、いいぞ。宿屋は今日は護衛の連中は『竜の尾亭』に泊まるんだ。食事も旨いし、フィーもそこに泊まったらどうだ?武器屋は、俺の贔屓にしている店が王都にある。頑固なドワーフのじぃさんの店だが、腕は一級品だ。気に入らないと売って貰えないが、フィーなら大丈夫だろう。」
何をもって自信満々に大丈夫だと言っているかはわからないが、どうせならいい武器がほしい。
それに精霊の谷に行くには、どうせ王都を通らなければならない。
「わかった。じゃあ、お願いしてもいい?」
「おう!」
「ねぇ、カイル、お腹すいた」
「ハッハッハ、そろそろそんな時間だな!じゃあ、宿屋に行って飯でも食うか?」
「うんっ」
「いや、だからその顔はやべぇだろ」
「ん?」
「なんでもない」
なんか、カイルがまたブツブツ言っているようだが、とりあえずご飯だ。
『竜の尾亭』に着いた。
入り口で、カイルが顔見知りらしい宿屋のおかみさんに部屋が空いているかを尋ねる。
「あらあらあら、カイルじゃないかい。久しぶりだねぇ、後ろの別嬪さんは誰だい?部屋なら空いてるよ!」
「こいつはフィー。冒険者だ。王都まで一緒に行くんだ。一泊一部屋追加で頼む。それと今から飯の用意を頼めるか?二人前お任せで」
「あいよ。今日はホロウ鳥の唐揚げだよ。すぐ準備するから、まっとくれ!あと、これは鍵だよ。」
カイルと私に鍵を渡そうとする。
「はじめまして、フィーです。なりたてですが、冒険者です。一晩宜しくお願いします。あと、このあと出掛けたいので鍵は預かっておいて貰えますか?
」
「俺もこのあと明日の打ち合わせと、補給があるんだ。だから鍵は後でいい」
「そうかい、わかったよ。ところで、フィーちゃんはどこへ出掛けるんだい?」
「あの、洋服を買いに行きたいんですが、この辺でいいお店ないですか?今みたいな服がいいんですけど」
「それなら、三軒隣にマギーさんがやってる洋服屋があるよ。」
「ありがとうございます。行ってみます。」
「はい、ご飯出来たよ!パンはお代わり自由だから、たんとお食べ」
「頂きます」
「おお、旨そうだな。」
ホロウ鳥がどんな鳥かは分からないが、唐揚げはかなり美味しかった。
「カイル、私は洋服屋さんに行ってくるね!」
「おう、わかった。俺は補給とエルダーさんのとこに行ってくる。また夜な!」
食事をした後カイルと別れ、洋服屋に向かう。服屋はすぐ見つかった。扉を開けると、カウンターに座っているお婆さんと目があった。多分この人がマギーさんだろう。
「あの、竜の尾亭のおかみさんに聞いてきたんですが、洋服を見させて貰って良いですか?」
「あぁ、好きに見ておくれ。」
と優しい笑顔で答えてくれる。
そんなに広い店内ではないが、洋服がところ狭しと置かれていて、目移りしてしまう。それでもなんとか、日除けの薄紫のローブと、丈夫そうなブーツ、深緑のキュロット、白いシャツを買った。
買ったものをアイテムボックスに放り込み宿屋に戻るとおかみさんに迎えられた。
「あら、フィーちゃん、おかえりなさい。」
洋服屋さんのお礼を言ってから、お風呂はあるのかを尋ねると、銅貨二枚だとのことだったので、お金を渡して、鍵を受け取りお風呂に向かった。
お風呂は小さめの公衆浴場のようだった。体を洗い、湯船につかる。
「ふぅ、久しぶりのお風呂だぁ、きもちいいー」
ゆっくり湯船に浸かりながら、この世界に来てからの事を考える。
この世界は150年後の、【ユグドラシル】で間違いはない。ウィンディやルミナスが居ることからもわかる。しかも、この世界は現実だ。そして、今まで受けたクエストの効果も受け継いでいると考えてもいいだろう。だが、なぜ私がフィーとして、この世界に来てしまったのかはわからない。
はっきりいって、前の世界に未練はない。私は孤児だった。親や仲のいい友達も居ない。
「考えても仕方ないか。とりあえず早くルミナスにあって色々聞こう。多分人間よりも精霊のほうが色々詳しいと思うし。」
ルミナスに会うことを第一目標に定め、浴室を後にし、部屋に向かった。
部屋に入ってアイテムボックスから買った洋服を取りだし、着替える。いい加減着替えたかったのだ。
普通の洋服屋で買った服なので、もちろん効果は付いていないが、可愛くて気に入っている。
流石にドラゴンや、上級ボスランクの魔物と戦うのは無理だが、道中の盗賊や、魔物くらいなら大丈夫だろう。
時間があれば素材を集めてまた作ればいい。
「こんなことなら、ユグドラシルサービス終了前にギルドの保管庫に放り込まなきゃよかったって、ギルド!ギルド残ってたら出せるじゃん!どっちにしろ、精霊の谷の逆方向だから、ルミナスと合流してからだな。」
150年経っているが、トッププレイヤーが持てる力を出して作ったギルドは、残っている可能性が高い。防御力もかなりのものだし、侵入者用のトラップのレベルも高い。
「暫くは冒険かな。」
解らないことだらけで、不安は残るが、まだ見ぬ世界を思うと胸の高鳴りを感じずにはいられなかった。




