魔族の正体
ルマンさんの話を聞いても理解できず困惑していたカイルでさえ、魔族という単語が出た途端、表情を一変させた。
それほど今の私達には心の余裕がないとも言える。
ユースケが命をかけてまで戦い、倒した相手。
数ヶ月もの間、その影に怯えながらの生活を余儀なくされた私達。
それを造り出したのが、今、目の前にいる人物だと知らされた衝撃は想像に難くない。
憎しみさえ沸いてきそうになったが、ルマンさんの辛そうな顔を見て、その感情は霧散した。
今は、状況を確認することと、少しでも魔族との戦いに備え、情報を得ることが重要。
そう考えた私達は、ルマンさんに質問を浴びせかけた。
「なぜ、ゲーム終了から三年しかたっていなかったのに、こちらの世界では150年もの月日が流れているんですか?」
「それは私達が研究を破棄したからです。装置は時間の管理も可能でした。」
「つまりログインしていた時間は全て装置が時間を管理していたって事ですか。」
「いえ、そうとも言えますが、そうではありません。元々、地球とこの世界の時間が進む速度が違うのです。地球では三年でも、この世界では150年たっていることになります。私達がこちらの世界に干渉していた時だけ、進む時間の速度を管理して遅くしていたに過ぎません。」
なるほど。
私が納得していると姐御が口を開いた。
「私はあんたが何者でも関係ないよ!これから一緒に魔族だかと戦ってくれる仲間だってんならさ。それにこんなことになったのも、一人のアホな研究者が研究を続けたからなんだろ?あんたのせいじゃない!確かに実験体にされてたのは気分が悪いけど、私達はゲームを楽しんでいた。それは事実さ。だからもういいよ。大事なのはこれからさ!」
姐御の言葉を聞いたルマンさんの瞳から一筋の涙が零れ落ちた。
私が言いたかったことは、全て姐御が口にしてくれた。
それに相棒であり、今となっては頼りがいのある仲間でもあるルミナスと出会ったのがゲームではなく、現実だったということに喜びを感じたのも事実。
カイルという仲間や、クリスのような大切な人達にも出会えたこの世界。
はじめは戸惑ったが、今はこの世界で生きていくという覚悟も、描く未来もある。
何度もすみませんと謝りながら涙を流すルマンさんに、私達は笑顔を送ったのだった。
泣き止んだルマンさんはポツリポツリと話し始めた。
魔族は元々、モブ扱いの敵であった事。
地区解放したパーティーにはルマンさんも参加していたこと。
心があるかのような言動をする魔族たちに違和感を覚え、すぐに地区を封鎖したことなどだ。
「もしかしたらもうあの時にはAIの暴走が始まっていたのかもしれません。違和感の原因に気付けていれば…」そう締めくくるルマンさんはとても悔しそうだ。
それを聞いて、いままで話を聞いているだけだったカイルが口を開く。
「ユースケから魔族はとても強かったと聞いた。弱点はないのか?」
「弱点はありません。ゲーム内でプレイヤーが使用できなかった闇魔法を使いこなす魔族は強大な力を持っています。しかも、人間に並みならぬ憎しみを持っていると。」
「そうか…」
「ですが、力を削ぐことは出来るかもしれません。難しい方法ですが…」
「何!?難しくてもいい!教えてくれ!」
身を乗り出したカイルにルマンさんは問うた。
「貴方は魔族を愛せますか?」と。
「どういうことだ?ユースケを殺した奴らを愛せるわけがないだろう!」
カイルの発言は最もだ。
私や、死んだユースケを見ていない姐御だって無理だと思う。
「何でそんなこと聞くんですか?」
私がそう尋ねれば、ルマンさんはこう答えた。
「魔族は負の感情を糧に力を付けます。逆の感情で接すれば、自然と力は衰える。ただ、それだけのことですよ。」
それを聞いた私達は不安を色濃く滲ませた。
なぜなら…その内容は理解はできても、行動に移すには、余りにも難しいことだと知っていたから。
沈黙が支配する部屋の窓に目を向ければ、空が白みはじめていた。
もうすぐ夜が明ける。
苦い感情を胸に残したまま。




