再会
驚いた皆の顔にハッとなる。
(なんであんなこと言っちゃったんだろう…酔ってるのかな。)
自分でも何故会わせてほしいと言ったのかわからなかった。
でも、どうしてか会わなければいけないような気がしたのだ。
「まだ尋問も終わっていません。危険です。」というサーズさんの言葉にも耳を貸さず、「同じ人族ですから大丈夫です。それに拘束されてるんですよね?」と答えれば、溜め息が聞こえてきた。
「長、フィーは言い出したら聞かない。どうかその人の元へ案内してやってくれないか?」
カイルが溜め息と共に言った一言に、サーズさんは仕方ないと言ったように首を振る。
「はぁ、お客様を危険かも知れない目にあわせるのはこちらとしても本意ではありませんが…仕方ありませんね。ヤハル、ご案内して差し上げなさい。」
サーズさんに名前を呼ばれて緊張を隠せない様子のヤハルさんに案内され、私達は捕らえている人間の元へ向かうことになった。
「こちらです」
ヤハルさんが立ち止まった先は一軒の民家。
この家の地下に件の人族が捕らえているという。
エルフにとっての罪人に会うというのに、私の心は不思議と安らかだ。
カイルや姉御、ルミナスも気負っているようには見えない。
(なんか心が暖かい?)
自分の感情に首を傾げつつ、民家の地下へと歩を進めた。
地下に捕らえている人物を見た瞬間、私と姐御は驚愕で目を見開いた。
カイルは、そんな私達と捕らえている男を不思議そうに交互に見詰めている。
「フィー?どうかしたのか?」
カイルの問いかけで、私と姐御がハッと我に返る。
そして言った。
「えっと…ル「あんた!ルマンじゃないか!なんでこんなところでとっ捕まってんだい?!」」
姐御の大声に遮られたが。
はぁ、なぜ私の周りの人達は話をすぐかっさらっていくのだろう。
なんだか少し切なくなる。
閑話休題。
ルマンさんとは、自称ジェントルマンの略だ。
ユグドラシルでは、紛れもないトッププレイヤーだった。
もちろん私や姐御、ユースケだってカンストレベルのトッププレイヤーだが、ルマンさんはなんというか次元が違う。
『困った時にはルマンに頼め!』といわれるほど秀逸な回復魔法を使いこなす、ゲーム内では替えがきかないとまでプレイヤーに言わしめた回復の『天才』。
そんなルマンさんがなぜここに囚われているのか?と思ったのは私だけではなかったらしい。
姐御も一言言って満足したのか、苦虫を噛み潰したような微妙な顔をしていた。
「あのー、何でルマンさんがここに?」
気を取り直して私が問うと、手枷を私達に見せるようにして困ったようにルマンさんは口を開いた。
「それがお恥ずかしい話なんですが…道に迷いまして…気づいたらこんなことに。」
それを聞いた私達の気持ちは察してほしい。
ほんとにこれ、ルマンさんか?と少し疑いの目を向けてしまったのは余談である。
その後、囚人が私達の知り合いだと知ったヤハルさんがサーズさんに報告に行き、ルマンさんは無事釈放されることとなったのだった。
場所は変わり、私達はサーズさんの家へ戻ってきていた。
もちろんルマンさんも一緒にである。
宴会は主役が居なくなった時点でお開きとなったので、今は寝るために与えてもらった私の部屋に全員が集まっていた。
とは言っても、ドラちゃんとルナは夢のなかであるが。
「さて、ルマンさんにいくつか聞きたいことがあるんですがいいですか?」
「ええ、何なりと」
「まず、国境付近で馬車を見ませんでしたか?」
私がそう問いたずねた途端、カイルとルミナスが緊張したのがわかった。
それに気付いたルマンさんは悲しそうな顔をして言った。
「はい。見ました。奴隷の子供たちが乗った馬車を。」
「そうですか…」
やはりあれはルマンさんが関わっていたのかと納得した。
ルマンさんのジョブは僧侶だ。
『至高の僧侶』そう呼ぶ人たちも居たくらいの。
ゲーム時代でも、悪い噂など聞いたこともないくらいの聖人君子だったが、ここは現実。
馬車に乗っていた子供たちの様子から、ルマンさんがあの子たちを殺したとは考えられない。
なぜなら、自ら手を下した相手に浄化を掛けることは、ゲーム時代不可能だったから。
今はどうかはわからないが、ゲームシステムが今も忠実に再現されている事を考えれば、恐らく不可能だろう。
ならば商人と魔物だけを手にかけたと思うのが自然。
ならば私が言うことは何もない。
実際、ゲーム時代、私は何度もルマンさんの回復に助けられていた。
優しい人だと、頼りになる人だと、思ったのも一度や二度ではない。
他のプレイヤーも然り。
姐御だって、ユースケだってその内の一人だろう。
だが、命のやり取りが当たり前となった今だからこそ、聞いておかなければいけないことがある。
私はルマンさんの目を真っ直ぐみつめ、尋ねた。
「ルマンさん、貴方は…私達の敵ですか?」
皆が息をのむのがわかった。
それでも私は目をそらさなかった。そらす訳にはいかなかった。
もう嫌なのだ。
ユキナの時のような気持ちになるのが。
私の甘さで仲間を危険にさらすのが。
そんな私を見て、ルマンさんは微笑んで言った。
「私は…貴方達の味方ですよ。魔族と争うことになろうとも」
貴方が聞きたいのはそういうことでしょう?と言わんばかりの返答に、私達は驚きを隠せなかった。




