エルフの歓迎
サーズさんに促されるまま5分程進むと、エルフの里が見えてきた。
先程、私達が座り込んでいた所から、そう遠くない場所に位置している里に、森の中をあれだけ歩き回ったのは何だったのか?と微妙な気持ちになる。
カイルや姉御も同じ気持ちのようで、苦笑をこぼしていた。
なんにしろ、ルミナスのお陰でサーズさんから概ね好意的に接して貰えているし、エルフの里へ辿り着けないという最悪の結果からは逃れられたので、よしとしよう。
「さて着きましたぞ。エルフの里へようこそ。」
サーズさんの歓迎してくれている言葉なんて、ほとんど耳に入ってこなかった。
なぜなら、当たり前だがエルフしか居ないのだ。
エルフという種族は総じて美男美女が多い。
つまり、エルフ特有の尖った耳を持つ、美男美女パラダイスなのである。
私とカイルは口をぽかーんと開けて唖然としているし、姐御と、いつのまにか起きていたルナは面白そうにキョロキョロしている。
ドラちゃんは、私の頭の上にいるので様子はわからないが、忙しなく動いているようなので、こちらも想像に難くない。
ルミナスはというと、一人だけやけに冷静だった。
「ルミナス様から用件はお聞きしました。まずは私の家でお話ししましょう。」
そんな私達の様子にに苦笑しながらサーズさんが言った言葉に頷いて、いまだ夢心地のまま移動を開始したのだった。
サーズさんの家は大木に巻き付くように建てられたツリーハウスだった。
日本にいるときにはテレビでしか見たことのなかったツリーハウスに感動を覚えつつ、螺旋階段を登って家の中に入る。
「狭くて申し訳ないですが、どうぞおくつろぎください。」
そう言って出されたお茶を啜りつつ、私は自己紹介を兼ねて本題を切り出した。
「申し遅れました。私はルミナスの契約主であるフィーと言います。頭の上にいるのは神竜のドラちゃんで、隣はカイルとフェンリルであるルナ。その隣にいるのは姐御です。」
「ご丁寧にありがとうございます。先程も申しましたが、私は里の長であるサーズと申します。それにしても凄いメンバーですな。まさか精霊王様や神竜様、フェンリルまでおられるとは…いやはや、長生きはするもんですな。ところで月光樹の雫がお入り用とのことでしたが。」
「はい。実は仲間が一人命を落としてしまいました。仲間を生き返らせる為に必要なんです!」
「ふむ。そうでしたか。しかし月光樹の雫はエルフにしか効果は御座いませんが…」
「それなら大丈夫です。生き返らせたい仲間はハイエルフなんで。」
「なんと!ハイエルフとは本当ですか!?エルフの王族であるハイエルフの方をお助けできるならば、こちらとしても否はありません。すぐに準備しましょう!」
どうやらユースケの種族が決め手になったらしい。
話は呆気ないほどうまくいった。
「少々お待ちください」と言って部屋を飛び出していくサーズさんの後ろ姿を見送り、私達は安堵の溜め息をついたのだった。
「今、月光樹の雫の手配をしております。明日の昼には準備出来ると思いますので、どうぞ今日はこちらへお泊まり下さい。」
数分後、部屋に戻ってきたサーズさんの言葉を聞いた私達は思わず顔を見合わせる。
確かに森の中で夜営をしなくていいのはありがたいが、ここまでお世話になってもいいのだろうか?
そんなことを考えていた私達に、今まで黙っていたルミナスが言った。
「主様。精霊たちも主様が居ることに喜んでおる。ここは世話になってもよいのではないか?」
その言葉を聞いた私達は、サーズさんの厚意をありがたく受けることにしたのだった。
「カイル、姐御。」
「フィー、皆まで言うな。」
「これは予想外だったねぇ。」
私達は今、里の皆に囲まれている。
手にはコップ。もちろん中身は酒だ。
どうしてこうなった?
あの後、サーズさんの「なにもないところですが里を見学してみますか」との一言で、私達は外へ繰り出した。
集落というのが一番しっくりくる里を、観光気分で回っていた。
閉鎖的かと思っていたエルフの里だが、細工の見事なアクセサリーの店やら、素晴らしい技術で作られた武器の店やらを回り、買い物しながら冷やかしつつ歩いていたはずだ。
それが一軒回るたびになぜか好意を示されて、里をまわりきる頃には大名行列かのように、私達の後ろには人だかりができていたというわけだ。
そこからは、あれよあれよという間に宴会に変わり、今の状況に陥っている。
「はぁ、こんなことしてていいのかなぁ。ユースケが大変だって時に‥」
「いいんじゃないか?ユースケは心配だが、どうせ明日にならなければアイテムは手にはいらないんだから。」
「そうだよ!あの爺がそう簡単にくたばってたまるかってんだ!」
お酒の味がわからない私がちびちびと飲んでいるのに対し、カイルと姐御はガブガブと酒を煽っていた。
どうやら今飲んでいる酒は、エルフの里でも最高級の物らしく、かなり美味しいらしい。
ルナはカイルが飲んでいる酒に興味を示して一舐めしたが撃沈して夢のなかだ。
ドラちゃんは『ぼく、ねてるー』と言ってサーズさんの家に帰ってしまったし、ルミナスにいたっては、今日の主役とばかりにエルフの民の人だかりの中心にいる。
姐御はかなり出来上がっているようなので、ユースケは今死んでいるんですけど…という突っ込みはしないでおいた。
絡まれては堪らない。
お酒って恐い。と私が軽く震えていたのは余談である。
「た、大変だぁ!エルナのやつの病気が…」
そんなことを考えながらお酒をちびちびやっていると、一人の若いエルフの男性が宴会場と化した集会場に飛び込んできた。
愉しく飲んでいた人達に一瞬にして緊張が走る。
そんな中、さすがと言うべきかサーズさんが状況を把握しようと一歩進み出る。
「落ち着くのだ。ヤハル。エルナがどうかしたのか?」
ヤハルと呼ばれた男性が息を整えながらサーズさんと目を合わせ言った。
「エルナの病気が治ってるんだ!」
(え?それって良いことなんじゃないの?)
私は首を傾げる。
何故、こんなに慌てているのか意味がわからない。
だが、次に男性から発せられた言葉に驚くことになった。
「余命幾ばくもないって言われてたエルナが、捕らえている人間に会ってみたいっていうから俺が会わせてやったんだよ。そしたら…人間が魔法を使った途端、体が楽になったって!医者にみせたら完治してるって!」
男性の説明を聞いて私は立ち上がっていた。
無意識だった。
「その人、その人間の元へ私を連れてってください!」
気付けばそう口に出していた私に、皆の驚いた顔が向いていた。




