新たな仲間
時はユースケが命の灯を消す直前まで遡る。
未開の地に三人の魔族が集まっていた。
「あら、エイムがやられたみたいよ?」
妖艶な女が水鏡を見ながら男に話し掛ける。
「人間どもと馴れ合って失敗したんだろう。まあいい。あいつは一番弱かったからな。」
バカにしたように男がいうと、もう一人の男がピクリと反応を示した。
「人間など滅びればいいのだ。我らを虐げた人間どもに裁きを!」
憎しみに支配された男の腰に妖艶な女の腕が絡み付く。
「ふふっ、そうね。人間と仲良くしようとしていた私達をいきなり襲って、戦って負けたからって、また封じ込めた人間なんて滅びてしまえばいいのよ」
今から150年ほど前、抗うことのできない力で魔族である四人は、この地に縛り付けられていた。
そこへ人間がやって来た。
寂しかった四人は歓喜に打ち震えた。
だが、その人間達はいきなり斬りかかってきた。
まるで敵を見るかのような目をして。
四人は戦った。自分達を守るために。
戦いに勝った四人は、また抗うことのできない力でこの地に縛り付けられた。
訳がわからなかった。
ただ、嬉しかっただけなのに。友達になりたかっただけなのに。
どうして?どうして?
悲しみが憎しみに変わるのに時間はかからなかった。
これは、とても悲しい昔々の物語。
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「お久しぶりです、姐御!!」
私が笑顔で言った言葉を噛み締めるかのように、姐御の表情が次々と変わる。
まるで百面相のようで、自然と顔が緩む。
「あんた!やっぱりフィーじゃないか!元気だったかい?」
駆け寄ってきた姐御に肩を揺すられ、首がガクガクとしている私は、なんとか「はい!」とだけ答えた。
「あ、すまないね。つい興奮しちまって。」
軽くグロッキーになっている私に気付いたようで、申し訳なさそうに肩から手を離す姐御を見て、何だかとても嬉しくなった。
(姐御、変わってないなぁ…なんかとっても懐かしい。)
にこにこしている私に、姐御は困ったような顔をして爆弾を投下した。
「フィー、ここはどこなんだい?」
え?そこからですか?
幾らなんでも食堂で離す内容ではないので、私の泊まっている部屋に移動し、今までの事を話した。
ルミナスは最初、姐御を敵かと身構えていたようだが、精霊化して食堂でのやり取りを見ているうちに『何度か一緒にクエストを受けた人』だと思い出したようで、今は大人しく椅子に座っている。
「はぁ、やっぱりここはユグドラシルの中だったか。しかも150年後とはねぇ」
話を聞き終えた姐御はため息をつきながら、自分の言葉を噛み締めているように見えた。
「はい。私もびっくりしたんですが、ステータスも確認しましたし、スキルも使えますから間違いありません。それにルミナスも居ますし…」
「そうだね。精霊王が日本にいるわきゃないからね。それにしても大変だったんだねぇ」
「はい…」
「あんたが落ち込むことなんてなんにもありゃしないよ!ユキナは自業自得だし、ユースケの爺はアイテムで生き返るんだろ?なら、いいじゃないか」
俯く私に姐御が言った言葉は、ストンと心に落ちた。
この人はゲーム時代からいつもそうだ。
決して甘やかすことは言わない。
口が悪くても、何故かとてもあたたかい。
そんな優しい人。
だから信用できる。
「あの、姐御!私達の仲間になってくれませんか?」
「……」
私の言葉に、姐御はぽかーんと口を開けて固まっていた。
「いや、無理ならいいんです。でもさっきも話した通り、魔族とも戦うことになるだろうし、ユースケも生き返らせたいし、なんていうかっ…あっ、やっぱ無理で「いいよ。」へっ?いいんですか?」
「ああ、いいよ。ユースケの爺のことも気になるし、こっちからお願いしたいくらいさ。これからよろしく頼むよ!」
涙目になって狼狽える私に姉御が手を差し出す。
私は、その手を力強く握り返した。
「あのー、主様。妾はいいんじゃが、一応カイルにも知らせておいた方がいいのではないか?」
「あっ!そうだった!」
ルミナスに指摘され、急いでカイルの部屋へ向かう私が聞いたのは、姐御の楽しそうな笑い声だった。
私がカイルの部屋の前に着くと、中からカイルが出てきた。
どうやらバタバタと足音が聞こえていたらしい。
「フィー?どうした?そんな急いで何かあったのか?」
「カイル、あのね、仲間が増えたんだけどいい?」
「ふむ。全く意味がわからん。とりあえず落ち着け。」
「あー、もう、上手く説明できないっ!とりあえず私の部屋に来て!」
「フィーの部屋?いいのか?でもさすがに…こんなところでは…」
姐御に会った興奮がいまだおさまらない私は、なんかブツブツ言っているカイルを無理矢理引っ張り、とりあえず私の部屋につれていくことにしたのだった。




