ガーディナル
ザクッザクッ
てくてく
とことこ
バラバラな足音を響かせながら、私たち一行は漸く国境に着く事が出来た。
ちなみに、てくてくはルミナスで、とことこはルナである。
それはともかく、私は初めて見る国境に驚いていた。色んな意味で。
「えっと…カイル?ここが国境でしょうか?」
「あ、ああ、そうたが…どうしたんだ?」
私が敬語になってしまったのも致し方ないことだと思う。
そんな私に何故か引いているカイルは置いておこう。今は。
目の前には大きな砦。
入り口には屈強な騎士達が私たちを阻むかのように立っているのだ。
はっきり言って、戦うとなれば負ける気はしないが、強面の騎士が何人もいるという状況は怖い。
日本生まれの日本育ちである私が、逆立ちをしても経験できない恐怖であろうものが目の前に…。
軽くトラウマになりそうである。
ガシャガシャと鎧をならしながら近付いてきた騎士に「ヒッ!!」と言ってしまったのも当然だと言える。
そんな私を背にかばいながら、カイルが騎士と話し出した。
「ここを通りたいんだが。」
「旅券はあるか?」
「ああ、ここに。」
私があらかじめ渡しておいた旅券を、カイルが騎士に見せる。
それを確認のために目を通している騎士の顔がどんどん青白くなっていった。
「なっ!これは隣国の王家の紋章ではないか!しかも、国王様直々の署名まで!」
驚いて大声で叫んでくれたお陰で強面騎士が、わらわらとこちらへ寄ってくる。
砦の責任者だという男性まで出てきて大変だったが、なんとか通してもらうことができ、私たちはガーディナルの地を踏むことが出来た。
「そろそろ大丈夫かな。ドラちゃんお願い。」
『うん、わかったー』
国境から少し離れたところでドラちゃんに乗り込み、街を目指す。
国境で少々手間取ったお陰で、すでに夕日は地平線に隠れようとしていた。
それから四時間後、街へ着いた私達は、さっそく宿をとり、久々のベッドでぐっすり眠ることになった。
翌朝、何やら騒がしい音で目が覚める。
どうやら食堂で何かがおきているらしい。
急いで食堂へ駆けつけると、そこにはガラの悪そうな男が三人いた。
その男達の前には、一人の女性が立っている。
「おい!お前を俺たちのパーティーに入れてやるっていってんのに、その態度は何だ!!」
「だから、さっきから断るっていってんだろ?私はあんたたちより強いんだよ!」
「何だと!てめぇ人が下手に出てりゃえらそうに!」
どうやらチンピラだと思っていた男たちは冒険者だったらしい。
私からだと背中しか見えない女性は、パーティーに誘われていたようだ。
あれが誘いと呼ぶかは、甚だ疑問ではあるが。
(それにしても、いつ下手に出たんだろう?)
どう考えても見下していたように見えた男の発言に首を傾げていると、キラリと光るものが見えた。
「危ない!!」
それを男が抜いた剣だと気付いた私は、急いで注意を呼び掛け、飛び出そうとした。
のだが…次の女性の行動に呆気にとられて、足を動かすことが出来なかった。
「はぁ、まったくどいつもこいつも面倒だねぇ。」
女性はあきれた顔でそう呟くと同時に、空間から斧を取りだし、斧をふった風圧で、三人を気絶させたのだった。
その一部始終を見ていたであろう他の宿泊客や、宿の女将さんからは、女性に対して割れんばかりの拍手が送られている。
「ねぇちゃん、すげーな!」
「助かったよ。あいつらは街のゴロツキでねぇ。」
「いやぁ、スカッとした!」
口々にそう囃し立てる人達の言葉も耳に入ってこない。
なぜなら…私の記憶が確かならば、その女性は知らない人ではなかったから。
「それにしても、どこから武器を出したんだ?」
「それは企業秘密だよ!」
客と女性のそんな会話を聞いた私は無意識に呟いていた。
「アイテムボックス…」
私が呟いた言葉を聞いた女性はこちらに振り向き、驚いた顔をしている。
「あんた…もしかして…」
目が飛び出そうなくらい驚いている女性に、私はニッコリ笑って言った。
「はい、お久しぶりです。姐御!!」
かつてのユグドラシルでの攻略ギルド『斧闘会』のギルマスであった【姐御】がそこにいた。




