予感
二章開始です。
Side???
岩山に一人の女が立っていた。
視線の先にはリザードマンが10体。
明らかに女を狙っている。
「まったく、どうなってんだい。ここはどう見ても日本じゃないじゃないか!…まずはこいつらをどうにかしなきゃなんないか。はぁ…めんどくさいねぇ、かかってきな、蜥蜴!!」
数分後、そこに女の姿はなく、変わり果てたリザードマンが転がっていた。
Side Out
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「そろそろ休憩しようか?」
「ああ、そうだな。」
王都を出立して三日。
比較的、大きな街道の上をドラちゃんに乗って飛んでいたからか、魔物やモンスターも見かけず、順調にガーディナルへと近付いている。
はじめはあせる気持ちが大きく、休憩や夜営を挟むという考えも浮かばなかった私だが、今は最低限の休憩や睡眠をとることを大切にしていた。
多少の心の余裕が出来たのは、一緒にいる仲間のお陰だと言えるだろう。
同じ願いを持つ仲間の存在は安らぎを与えてくれる。
傷付き、焦りに支配された私の傷んだ心に、確かな温もりが染み込んでいくのを実感していた。
「フィー?どうかしたか?」
「カイル。私は幸せだよ。」
「っっそうか。フィーのそんな笑顔を久々に見た。やっぱり破壊力が半端じゃないな…」
「ん?なんか言った?」
平和である。
「「「「『ごちそうさまでしたー』」」」」
平野に降り立ち、朝作っておいたサンドイッチを食べ終わった私たちは再びドラちゃんに乗り込み、地上を後にした。
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Side???
ガーディナルの国境近くで一人の男が呟いた。
「どの世界でも屑は居るのですね。まさか子供を盾にするとは…紳士の風上にもおけません」
男の足元には六人の人間と魔物の亡骸があった。
近くにある馬車は魔物の襲撃で大破しており、馬車のなかには首輪と枷を付けられた子供が恐怖に彩られた表情で事切れている。
どうやら奴隷商人が魔物の襲撃にあい、奴隷である子供達を盾に逃げのびようとしたようだ。
「間に合わなくてすみません。どうか安らかに…」
男は魔法で首輪と枷を壊し、子供達の瞼をそっと閉じた。
Side Out
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「ドラちゃん、大丈夫?疲れてない?」
『だいじょうぶー。ぼくはしんりゅうだよ!これくらいへいきだもん』
「ふふっ、そうだね。ドラちゃんは神竜だもんね。」
ずっと飛び続けているドラちゃんが心配で声を掛けたものの、どうやらふてくされてしまったらしい。
ルミナスは「主様は妾が守るのじゃ!」と意気込み、精霊化してドラちゃんと並行して飛びながら辺りを警戒してくれている。
ルナはカイルに甘えているうちに眠ってしまったようで、安らかな表情でカイルにへばりついていた。
そんな皆が可愛くて頼もしくて?自然と頬がゆるむ。
私は気付かなかった。
カイルがそんな私をじっと見つめて蕩けそうな笑みを浮かべていることに。
ガーディナルの国境まで後一日ほどという場所。
「主様!下に馬車が見える!」
『でも、こわれてるよー』
ルミナスとドラちゃんの言葉を聞いた私はカイルと顔を見合わせ、急遽街道へ降り立つことになった。
「これは…」
「ひどい…まだ小さな子供なのに…」
急いで馬車に駆け寄り中を確かめると 、数名の子供がいた。
だが、どの子も息をしていなかった。
蘇生魔法を行使するも、魔力が減っていく感覚はいつになっても訪れることはなく、子供達が息を吹き返すこともなかった。
「フィー…どうやらこの馬車は外に死体があった魔物に襲われたようだ。」
外を確認していたカイルが項垂れている私に近付き声を掛ける。
「魔物に?でもこの子達みんな綺麗だよ?」
子供たちは襲撃の跡が残る場にそぐわないほど綺麗な状態だった。
体が欠損していたり、服はボロボロだが、血もついていなければ、汚れも見当たらない。
それに何より、全員がいい夢を見て眠っているかのように、口元には微笑をたたえている。
「確かにそうなんだが…外には魔物と男達の死体があった。恐らく商人だろう。この子達は…奴隷だ。」
「奴隷!?奴隷が許されてるの?」
「いや、奴隷は法律で禁止されている。それでも違法に売買をするものたちはいるんだ。」
奴隷という言葉に憤りを感じてカイルに詰め寄ったものの、歯を食いしばりながら悔しそうにしているカイルを見て、何も言えなくなってしまった私はその場を後にした。
下を向いたときに見えた首輪と枷を目に焼き付けながら。
ドラちゃんに乗り込んでその場を離れる。
しばらくすると頭も冷え、疑問が沸き上がってきた。
(魔物に襲われたのに、何であの子達はあんなに綺麗で安らかな顔をしていたんだろう…。普通、商人なら、奴隷を囮にして逃げるよね?でも、商人たちも殺されていた。魔物はグレイウルフだったけど、子供たちにも商人たちにも魔物に襲われた様な傷はなかった…。何故?)
考えれば考えるほど、訳がわからない。
そのまま私は思考の渦に飲まれていったのだった。
お陰様で二章開始することができました。
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