過去との決別
微グロ注意です。
「ドラちゃん、ありがとう」
大霊山を出発した次の日の夜、王都に到着した。
時間が惜しいこともあり、ルミナスの力で姿を隠した私達一行は、王都内にそのまま降り立ち、王城へ向かうことにしたのだ。
深夜ということもあって人の姿が殆ど見えない。
暗闇と静寂が支配する街を抜けて王城に近付くと、不自然に明るい場所があった。
「カイル、あの光何?」
「わからないな。城内であることは間違いないようだが…」
まるでそこだけがライトアップされたように、建物の輪郭を浮かび上がらせている。
(観光客用のライトアップ?)とも思ったが、王都出身のカイルがわからないと言うなら、違うのだろう。
イレギュラーな事態が王城で起こっているのではないかと考えた私たち一同は歩を進めた。
「なに…これ…」
震える唇からようやく絞り出した言葉。
それも、場の喧騒に掻き消える。
光を頼りに、不用心すぎると言っても過言ではない警備を抜け、たどり着いた場所は、城の敷地内にある修練場だった。
おそらく城に勤める騎士達がの修練をする場だと思われるそこは、むせかえるほどの血の匂いが充満していた。
100人程の人が松明や武器を持って中央を取り囲むように立っている。
外から見えた不自然な光は、大量の松明からの灯りだろう。
(皆、顔が青い…一体、何が…)
血の匂いに吐きそうになりながら、私達は人を掻き分け、修練場の中央へと近付いた。
現状を把握しようとしたためだ。
一歩進む度に、大きくなっていく叫び声や怒声。
そして濃くなる血の匂いで、嫌な予感が膨らんでいく。
だが、そんな私のもとに届いた笑い声が、予感を確信に変えた。
(まさかっっ!!)
脇目もふらず人波をくぐり抜け、たどり着いた場所には凄惨な光景がひろがっていた。
おびただしい血の海に、肉片。
沢山の、無念に散らされた命の残骸。
そして全身を血に濡らしながら、愉しそうに人を切り続ける少女。
「ユキナッッ!!あなたなんて事を!!」
怒りが沸々と込み上げる。
そんな私に気付き、人を切り続けていたユキナがこちらを向いた。
「あ、フィーちゃん。どうしたにゃー?」
「どうした?って。あなた、自分が何をしてるかわかってるの?!なんでこんなことっ!!」
私の問いかけに対する、ユキナの答えはただ一言。
「愉しいから」
それを聞いて、私は思った。
ユキナを説得することは無理だろうと。
ならば、戦うしかないと剣を構える。
「フィー!俺も戦う!」
剣を構えたところでカイルが言葉と共に飛び出してきた。
ルミナスとドラちゃん、ルナも同じ気持ちのようで、真剣な顔でこちらを見上げている。
ルナはなんとも言えないが、確かに、カイルやルミナス、ドラちゃんが居ればかなりの戦力になるだろう。
それでも私は…
「ごめん。私が一人で相手をする。これはけじめなの。だからカイルたちは、この場にいる人の避難をお願い。本気で戦うから。」
「っっ、わかった。」
カイルが急いで周囲の人を避難させるべく駆け出した。
本気で戦うと言ったのは嘘ではない。
ユキナは700レベルの盗賊だ。
いくら私がカンストレベルとは言っても、楽に勝てる相手ではない。
しかも、素早い動きを得意とする盗賊。
それも700レベルともなれば、スピードは私よりも勝る。
それに加えて、ゲーム時代から今まで、人を相手に戦った経験の差は歴然。
それでも、やらなければならないことがある以上、私はユキナになぶり殺しにされるつもりなど微塵もなかった。
「ねぇ、もういいかにゃー?じゃあいくよ!」
「っ!」
ユキナのメインウェポンである、青竜刀での斬撃を
避けきれず、私の肩に血が滲む。
「ありゃ?本気で行ったのにかすっただけかにゃ?あ、腕輪つけてるんだっけ?」
「うるさい。桜花乱舞!」
ユキナのふざけた物言いと傷口の熱さに、沸騰していた頭が冷えていくのを感じつつ、私は伝家の宝刀とも言えるスキルを発動させた。
「な!そんな…っっ…っ!」
ゲーム時代、私がこのスキルを使うことは殆どなかった。
なぜなら、強力すぎて弱い相手なら、すぐに死に至らしめてしまうから。
いくら相手が強くても、戦闘不能まで追い詰めてしまうのだ。
仲間と一緒に協力しながら戦う事が好きだった私には不似合いなスキルだったと言える。
それを仲間であったユキナに使うことになるとはなんという皮肉だろうか。
まさか私がこのスキルを発動させるとは思っていなかったのだろう。
ユキナの驚きと焦りの混じった声と共に、花びらに模した剣先が舞う。
乱舞が終わったその場所には、青竜刀を握ることもままならない様子で膝をついて血を流し、呆然とするユキナの姿があった。
「ユキナ、さよなら」
私の剣がユキナの胸を貫く。
沸き上がった苦い気持ちと涙を無理矢理飲み込んで剣を抜き、カイルたちの元へと向かった。
次回で王都編終了です。




