フェンリル
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皆さま、ありがとうございます。
「るるるるるる、ルナ?!」
キャラ崩壊寸前とも言えるカイルの物凄いうろたえっぷりを横目でみながら、たどたどしいしゃべり方のルナに「なにが出来るのか?」を確認する。
私も驚いてはいるものの、カイルのうろたえっぷりに圧倒されて、逆に冷静になれたと言えるだろう。
ルミナスは、どうやらルナの魔力が大きく変化したのを察知していたようで、一人でうんうん頷いていた。
閑話休題。
目覚めたとはいえ、まだフェンリルとしても幼いルナは、自分の能力を把握しきれていなかった。
それでも幾つかは『出来ること』として認識しているようで、その中の一つが『巨大化して私達を背に乗せて駆けることができる』というものらしい。
まだ幼いルナに無理をさせるようで気は進まないが、状況が状況だけにそうも言ってられない。
完全なルナ頼りの移動手段に不安に感じつつも、時間が惜しい私達は、急いで拠点を後にした。
銀色の毛並みを波打たせながら、ルナが大地を駆ける。
騒ぎになるのを避けるために、ユーランを出たところでルナを『巨大化』させ、その背に乗った私達は、大霊山に向けて移動を開始した。
ルナのスピードも乗り心地も想像以上だった。
風の抵抗を感じさせない為にルミナスが結界をはっているし、ルミナスにお願いされた風の精霊たちも後押ししてくれていることから、精霊ジェットコースターよりも早く大霊山に着くことが出来るだろうと予測できる。
それでもユースケの安否が気遣われて、私は焦る気持ちをおさえることが出来なかった。
「もうすぐつきまちゅよ!」
ルナの言葉でボーッとしていた意識が現実に戻される。
考えていたのは、私が目覚める前に見ていた夢。
とっても悲しい夢。
『ごめんな』
と言った人は、誰に何を謝っていたのだろうか?
夢に出てきた輪郭のはっきりしない人物に、何故だかユースケの姿が重なって、私の背中に冷たい汗が落ちるのを感じた。
「つきまちた!」
大霊山の麓へ到着したことを伝えた瞬間、ポンッと音がしたかと思うとルナの体がもとに戻る。
まだ薄暗い中、周りを見渡すと、地形が変わっているのではないかと思うほど、大地が抉られ、裂けていた。
驚きつつ、目的であるユースケの姿を探すも見つからず、かわりにドラちゃんがチビ竜の姿で待っていた。
『おねぇちゃん!!』
こちらに気付いたドラちゃんが一目散に駆け寄ってくる。
いつもの間延びした話し方ではないドラちゃんの様子に、嫌な予感が更に強まるのを感じながら、私は次の言葉を待った。
『おじいさんのおにいちゃんは、おかあさんのところにいるよ!』
「わかった!ありがとうドラちゃん。」
「フィー、なんだって?」
私がお礼を言うと、カイルが状況を尋ねてきた。
カイルがドラちゃんの言葉を解せないことを、完全に失念していた私は、神竜の元にユースケがいるということを伝える。
『ぼくにのって!』というドラちゃんの背に乗り込み、私達は神竜のいる頂上へ向かった。
ルミナスが可視できないようにしてくれたお陰で魔物の襲撃にも遭わず、すぐに到着することができた大霊山の頂上には神竜がいた。
その脇には横たわるユースケの姿。
「「ユースケ!!」」
「ユースケ殿!」
遠目から見ても満身創痍といった様子のユースケに脇目もふらずに駆け寄る。
とにかく嬉しかった。
一時は居場所がわからず途方にくれた。
それでもまた会えた。
そのときの私は、完全に喜びに支配されていた。
なぜ神竜の元にユースケがいるのか?
なぜドラちゃんが焦っていたのか?
そんなことを考える余地などない程に。
でもそれはすぐに、間違いだと気付かされる。
なぜなら…
「え?息…してない…」
駆け寄った先で横たわるユースケは、ただそこにいるだけの人形のように無表情で、人間には必要不可欠である呼吸すらしていなかったのだから。
「ユースケ…?いや…嫌だ!いやぁーー!!」
今、目の前にある事実を受け入れる事を拒否した私の意識は真っ黒に染まり、そのまま闇にのまれていった。
想像といえば聞こえはいいが、妄想というと一気に危険な人の香りがしてくるのはなぜだろう。
そんな事を考える私は、100%妄想で書いております(笑)




