目覚め
『ごめんな。』
息苦しくて目が覚める。
頬には涙がつたっていた。
夢を見たような気がする。
とっても悲しい夢を…。
(何時なんだろう)
ベッドから上半身だけおこし、時計を見る。
時刻は10時を少しまわったところだった。
ふと、瞼が重いのに気付く。
触ってみると、熱をもって腫れていた。
それを確認した途端、胸に締め付けられるような痛みが走る。
記憶が曖昧ながらも、思い出されるのは、昼間にユースケから聞いたユキナの正体。
そして、私を闇から救い出してくれた、誰かの温もりだった。
(とりあえず起きよう)
のろのろとベッドから立ち上がろうとすると、乱暴に部屋の扉が開く。
驚きながらも、扉を開けた人物を見ると、顔を涙でグシャグシャにしたルミナスだった。
また心配させてしまったのかとまだ働かない頭で考えていた私の耳に入って来た言葉は、私を完全に目覚めさせるには充分すぎるものだった。
「ユースケ殿が…行方不明じゃ…」
「どういうこと?!」
ルミナスに詰め寄り、肩を揺さぶった。
自然と声が震える。
そんな私から目を離さずに、ルミナスは言った。
「アクアから今、連絡が入ったのじゃ。ユースケ殿が魔族の男と一緒に転移で居なくなったと。」
「なんで…?嘘でしょ?」
体の力が抜けて、茫然とした私を辛そうな顔で見ながら、ルミナスは話を続けた。
「先程まで、城内で戦闘があったようでの。知らせるのが遅くなったとアクアが謝っておった。ユースケ殿が居なくなったのは…今から三時間程前だそうじゃ。」
足が勝手に動いた。
部屋を飛び出しホールへ向かう。
ルミナスの言葉を信じなかった訳じゃない。
それでも確かめずには居られなかった。
ユースケがいなくなるはずない!
ホールに行けばいつものようにユースケがお茶を飲みながら寛いでいるはず…。
そう願いながらたどり着いた先にユースケは居なかった。
かわりに居たのは、厳しい表情をしたカイル。
それを見て膝から崩れ落ちた私に、カイルが近付く。
私がカイルへと顔をあげた瞬間、怒声と共に、頬に痛みが走った。
「フィー!!いい加減にしろ!!いつまで目を背けるつもりだ!今、この瞬間もユースケは一人で戦っているかもしれないんだぞ!」
痛みが熱さへと変わり頬を打たれたのだと気付いたのは、カイルの言葉を理解した後だった。
そうだ。ユースケが魔族相手に一人で戦っているかもしれないという時に、私がいつまでも悲観に暮れているわけにはいかない。
立ち上がり、カイルと向き合う私の目には、確かな光が宿っていた。
ユースケの元へ向かいたい気持ちはあるものの、居場所がわからない私たちは途方に暮れていた。
ルミナスにユースケの魔力を探してもらってはいるものの、契約主ではない者の魔力探知はかなり難しいようで難航している。
悪い想像ばかり膨らみ、私たちは焦っていた。
その時、胸のネックレスが光る。
ドラちゃんと別れる際、通信用に渡したアイテムの片割れだ。
光に驚いていると、懐かしいドラちゃんの声が念話として聞こえてきた。
『おねぇちゃん!たいへんだよー!』
だが、その声は緊迫している様だった。
ユースケの事は心配だが、ドラちゃんを捨て置くわけにはいかない私は何があったのかと尋ねる。
『ドラちゃん、どうしたの?何かあったの?』
『ぼくはだいじょうぶー、でもおじいさんのおにいちゃんがたいへんなのー!』
『おじいさんのおにいちゃん?』
『うん。ぼくをおくってくれたときのおじいさんだよー!えっと、いまはおにいちゃんだけど…とにかくたいへんなの!このままじゃしんじゃう!!』
『わかった!今すぐ向かうから!』
思わぬところからの情報で、ユースケの居場所はわかったものの、ユースケが居ない今、大霊山までどうやって行くかという問題が出てきた。
歩いて向かえば少なくとも4日は掛かる。
私だけなら精霊ジェットコースターで向かえば、最速で明日の昼には着けるかもしれないが、魔族がいるならば私一人行ったところで返り討ちにあうのが落ちだ。
そうなれば、ユースケも助けることは出来ないだろう。
頭を悩ませていると、どこからか女の子の声が聞こえた。
「わたち、がんばるよ」
不思議に思って顔を上げると、カイルが固まっていた。
「え?カイル?どうしたの?てか、今の声誰?」
キョロキョロと声の主を探していると、カイルが小刻みに震える手で指を指した。
指の先を辿ると、そこにはルナの姿。
「ごちゅじんちゃま、指をさしゅのはダメでちゅよ!もう!」
ルナがフェンリルとして目覚めた瞬間だった。
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