冒険者
盗賊達を倒したあと、場は静寂に包まれていた。
いち早く正気に戻ったらしい壮年の男性が、こちらに近づいてくるなり、頭を下げた。
「私はエルダー商会のエルダーと申します。この度はありがとうございました」
「いえ、頭を上げて下さい。皆さん無事ですか?」
「はい、お陰様で、一人の死者もなく、盗賊を倒すことが出来ました。ですが…」
エルダーさんはなぜかとても言いにくそうに顔をしかめている。
「どうしました?」
「いえ、実は、護衛に付いていた冒険者のリーダーのカイルという者が重症でして、街に着くまではとても持ちそうにないのです。折角助けて頂きましたのに」
私が尋ねるとエルダーさんの顔が悲痛に染まった。目には涙が見える。
この人はいい人だ。商会の名前と同じ名前ということは代表か何かなのだろう。
護衛の冒険者の為に、涙を流せる人はどれくらいいるだろうか。
恐らく一番前で戦っていたあの男性がカイルさん。カイルさんが私に会ったときに言った言葉といい二人はお互いに信頼しあえる大切な仲間なのではないだろうか。
「カイルさんはどちらにいらっしゃるんですか?」
それならば…私が助けよう。
商会の皆や冒険者たちが心配そうに、こちらを見ている。その中で私はカイルさんに向かって蘇生魔法を使った。
治癒魔法より蘇生魔法のほうが、命の灯が消えかかっているカイルさんに負担が掛からないのではないかと思ったからだ。
「我願う、想いは光となりて降り注げ、ホーリースピリチュアル」
オレンジ色とクリーム色の中間のような色の光が優しく降り注ぐ。
光がおさまると、カイルさんの体の傷は跡形もなく癒えて、荒かった呼吸は穏やかなものに変わっていた。
わあっという歓声を聞きながら私は崩れる。蘇生魔法は消費魔力が多いのだ。
エルダーさんに支えられて、何度もお礼を言われながら、私は意識をなくした。
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目が覚めたら馬車の中だった。
「目が覚めましたかな?」
「はい、すみません、エルダーさん。ご迷惑をお掛けしました。」
私が頭を下げようとすると、手で制される。
「いえ、こちらこそお礼を言わなければなりません。カイルを助けて下さってありがとうございました。それで失礼ですがあなた様は…」
「あ、遅くなってすみません、私はフィーと言います。えっと、旅人です。」
私の言葉を聞いたエルダーさんは、考えながら、
「旅人…ですか。先程カイルを助けた魔法は蘇生魔法とお見受けしました。現在、蘇生魔法を使えるものは、レムリア教の巫女姫様しかおられません。あなた様は一体…」
と聞いてきた。
「(え!?そうなの?!)あの、私は巫女姫様ではありません。ですけど、蘇生魔法を使ったことは秘密にしておいてもらえませんか?」
ヤバいと思いながら慌てて頼むとエルダーさんは笑みを深めた。
「それがお望みなら、もちろんです。あなた様は私達の命の恩人ですから」
「ありがとうございます(あーよかった~)」
「ところで、カイルがお礼を申したいと言っておるのですが、宜しいですかな?」
「あ、はい」
「嬢ちゃん、ありがとう。」
「頭を上げて下さい。それから私はフィーと言います。」
このまま嬢ちゃんと呼ばれ続けたら堪らない。思わず訂正してしまった私にカイルさんは目を丸くした。
「ハッハッハ、すまない。ところでフィーは冒険者なのか?」
「いえ、違います。旅人です。あの、冒険者ってどうやってなるんでしょう?」
「フィーは冒険者になりたいのか?」
「はい。良ければ教えてもらえませんか?」
「うーん…まぁ、フィーなら大丈夫だろう。次の街に冒険者ギルドがある。紹介状を書くから、受付に渡せばいい。あと、敬語はなしだ。俺の事はカイルでいい。」
「うん、わかった、カイルありがとう。」
ニコッと笑うと、カイルの顔が真っ赤になった。どうかしたのだろうか?
「おいおい、今のはやべぇだろ」
「え?なんか言った?」
「なんでもない」
私はカイルの態度に首をかしげたのだった。