最高権力者ですか?
今、私の前では喧嘩が繰り広げられている。
「気安くおねぇちゃんなどと呼ぶでない!妾の主様じゃぞ!」
「えー、いいじゃん、ルミナスさまーのケチー!」
「ダメじゃダメじゃ!」
余りにも低レベル、かつ、どうでもいい喧嘩に私の堪忍袋の緒が切れた。
「ルミナス、アクア、いい加減にしなさい!」
「「すいませんでした」」
怒られてしゅんとしている二人を放置して、ヴェルムさんに向き直る。
なぜかヴェルムさんとカイルのお父さんがビクッと肩を震わせたような気がするが、気のせいだろう。
「さて、うるさいのは黙らせましたんで、お話の続きをしたいんですが」
私がそう言うと、ヴェルムさんは流石と言うべきか、すぐに意図を察してくれた。
私はなぜヴェルムさんに近付いてこられたか、全くわからないのだ。
「あ、ああ、すまんな。俺は人族やねんけど、魔法を使えん代わりに魔力察知に優れてんねん。散歩しとったら、凄い魔力を感じて、ここに来たっちゅーわけや」
「はぁ」
はぁとしか言えなかった。
確かに私は魔力が多い方だが、私で凄いなら、ユースケなんて化物クラスだ。
それになぜ魔力を感じただけで、わざわざ来たのかわからない。
「反応薄いなー。まぁ、ええわ。で?お嬢ちゃんは何者なん?」
いきなり空気が変わった。
私に向けるヴェルムさんの目が、鋭くなった。
それを感じたのか、ルミナスが素早く私を庇うように臨戦態勢をとる。
「申し遅れました。私はフィーと言います。しがない冒険者ですよ。ところでヴェルムさんは?なぜカイルのお父さんと一緒にいるんですか?そんな格好で」
私が逆に聞き返すと、鋭かった目が柔らかくなった。
「すまん、すまん。不躾で悪かったわ。最近、悪いことするやつがおってな。そいつらの仲間かと思って警戒しただけや。まぁ、お嬢ちゃんは違うようやし、すまんかったな。それと、質問の答えやけど、ここではまずい。場所かえよか?」
周囲を見回すと、いつの間にか人が増えていた。
その言葉に頷いて、カイルのお父さんに促されるまま、精霊化したルミナスとアクアと共にヴェルムさんのあとを追った。
少し歩いて、もうすぐクリスの店の前というところで、私のピアスから怒鳴り声の念話が届いた。
『おい、フィー!勝手にいなくなりやがってなに考えてやがる!今から行くから待ってろ!そこ動くなよ!』
ユースケだ。かなりお怒りでいらっしゃる。
完全にピアスの存在を忘れていた。
ギルド員同士が通信できるアイテムである、ピアスの存在を。
しかも今からここに来ると言うものだから私は焦った。
『いや、ちょっと待って!今、一人じゃなくて、街中でクリスの店で』
パニクった私の念話でおおよその事を察したらしいユースケだが、ここに来ると言うのは決定事項のようだ。
『じゃあクリスの店に転移するからそこにいろ!』
ヴェルムさんとカイルのお父さんに事情を説明した私は、急いでクリスの店まで移動する。
どうやら二人もついてくるらしい。
店に入って、私たちを見て驚いているクリスになんとか事情を話していると、店の床が発光した。
少しして光が収まった場所を見ると、かなりお怒りな様子のユースケと、驚いて口をパクパクしているカイルがいた。
そんなカイルをみたヴェルムさんは、楽しそうにニヤリと笑い、そんなヴェルムさんを見たカイルは慌てて膝をついて言った。
「お久しぶりでございます、国王様。」




