私の覚悟
泣き崩れた私は、ユースケとカイルに支えられて、ホールへと移った。
心配そうに寄り添うルミナスや、ユースケ、カイルに申し訳ない気持ちで一杯になる。
私の涙が止まったのを確認して、ユースケが今わかっていることを話し出した。
全てを聞き終わって、止まったはずの涙がまた溢れて、私の瞳を濡らした。
歯を食い縛ってこぼれそうになるものを無理やりせき止め、叫びたくなる気持ちをのみ込む。
何よりも辛かったのは、甘い気持ちは仲間を危険に晒すとわかっていながらも、いまだにユキナを信じたいという気持ちが残っている私自身を抑えること。
お人好しだと言われようと、はいそうですかと感情を割り切れる程、私は強くも大人でもない。
それでも、今ここにいる仲間を守りたいという気持ちは本物で、その為に、ユキナと敵対しなければならないであろう事くらいわかっている。
ユースケは「まだ全て本当だと決まった訳じゃない」と言ったけど、私は確信してた。
ルミナスは私に言った。
「自分から望まぬ限り、魔力の質は変えられぬ」と。
「主様に接触した魔族と思われる男と同じ種類の魔力だった」と。
ここまで確定的なものが揃えば、自ずと答えは見えてくる。
足りないものは、私の覚悟だけだ。
その後、解散となって、ユースケとカイルが部屋に戻るのを確認したあと、私はルミナスと共に…こっそりと拠点を出た。
夜でも魔法の灯で明るいユーランの街を一人歩く。
ルミナスが精霊化しているのを見るのは久しぶりで、懐かしく思いながらも、隣に誰も居ないこと
に無性に寂しくなった。
私はいつから一人が寂しいと思うようになってしまったんだろう。
この世界に来るまでは一人でいるのが当たり前の日々だったのに。
ユーランを出た私はルミナスに頼んで、風の精霊たちを呼んで貰った。
精霊の力を借りて、目的地へ早く着けるようにするためだ。
精霊たちは私の指輪の効果もあってか、沢山集まってきてくれた。
これだけいれば、寝ずに走って、朝までには着けるだろう。個人でしか使えないことと、かなり疲れることが難点だが、今はそんなことを言ってられない。
向かうは王都。
ユキナのいる街。
私は王都に向かって駆け出した。
「つつつ、ついたぁー。」
朝方、王都の近くに着いた私は情けない声を出したあと、震える足を押さえて道にうずくまった。
私が今までこの方法を使わなかったのは、こうなることがわかっていたからだ。
実はこの方法、かなり怖い。
自身に結界を張って、風の抵抗はなくしたものの、ジェットコースターなど比べ物にならないくらいの加速をずっと続けるわけだから当たり前である。
しかも、光の精霊王であるルミナスにお願いされた精霊たちが喜びすぎて張り切ってしまったのだ。
さらには精霊の力を強める私の指輪の効果。
完全に事故だ。
もう二度とこの方法は使うまいと心に決め、やっと震えがおさまってきた足を引きずりながら王都の門をくぐった。
まだ早朝の王都は昼間に比べれば活気はない。
それでも、市場に行けば沢山の人で溢れかえっている。
精霊化を解いたルミナスと共に市場を歩いていると、声がかかった。
「おう!早いなお嬢ちゃん。お、ルミちゃんも一緒か!これ食ってけ。なぁにサービスだ!」
焼き鳥屋台のおじさんだ。
実はこの屋台、私とルミナスの大のお気に入りで、王都で依頼を受けていた頃は、毎日といっていいほど通っていた店。
ちなみに、ルミナスが実体化している理由は、実体化したルミナスを見て光の精霊王だとわかる人が居ない事に気付いたからだ。
それでも、ユーランは魔法都市なので一応警戒して精霊化させてはいる。
閑話休題。
「ありがとう、おじちゃん!」
「ありがとうなのじゃ!」
「おう!いいってことよ!」
おじさんに貰った焼き鳥を一本ずつ二人で分けた私達がお行儀悪く、歩きながら食べているときに事件は起きた。
「きゃ!」
「主様!」
私が道端に転がって、ルミナスが駆け寄る。
そう。こけたのだ。
それも盛大に顔から。
歩きながら焼き鳥を食べていたために、受け身を取れず、顔から地面にダイブした。
完全に自業自得である。
「いたたた。」
「主様!鼻を擦りむいておるのじゃ!あ、膝もなのじゃ!大変なのじゃー!」
私が鼻を擦りながら立ち上がると、ルミナスがあわあわしながら右へ左へ忙しなく動いていた。
「主様?痛くないのかの?」
市場のど真ん中で盛大にこけた私は恥ずかしさもあって、すぐさま市場の脇にある広場のベンチに移動した。
ルミナスがまだ心配そうに尋ねてくるので、大丈夫だというように頭を撫でておく。
撫でられたルミナスは気持ち良さそうに目を細めていた。
そんなのどかな時間を楽しんでいると、急に背後から影が射した。
驚いて振り返ると、40代くらいのナイスミドルという言葉がぴったりな男性が立っていた。
警戒しようとした私は、男性の後方から走ってくる人物を見て、完全に警戒が解けた。
と同時に混乱した。
「え?カイルのお父さん?」
「なんや、カイル坊の知り合いやったんか。」
私が呟いた言葉を聞いて、ナイスミドルな男性がにこやかに私を見るも、私はいまだに混乱の最中だ。
「(え?カイル坊?カイルのお父さん、何で冒険者みたいな格好してるの?この人誰よ?てか、何で関西弁?)」
私が困惑しながらカイルのお父さんを見ると、困った顔をして首を振っている。
ルミナスを見ると、焼き鳥の最後のお肉にかぶり付くところだった。
それを見て、混乱しているのが馬鹿らしくなった私は、単刀直入に聞いてみることにした。
「あの、あなたは誰ですか?」
「ああ、すまんすまん、俺はヴェルム。この国の「あー、やっぱりおねぇちゃんだー」」
ナイスミドルな男性はヴェルムさんというらしい。
そんなことよりも、いきなり私の目の前に現れた少女の方が、今は問題だ。
なぜこうも、私の周りには話の腰を折る天才が多いのか。
結局名前しかわからなかったではないか。
「はぁ、ヴェルムさん、この子は知り合いですか?」
「あ、ああ、そうや。」
ため息をつきながら尋ねると、なぜか驚いた様子ではあるが、ヴェルムさんから出た言葉は肯定。
私がチラリと視線を移した先には水色の髪をツインテールにした年端もいかない少女。
水の精霊王、アクアがいた。




