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ここって異世界ですか?  作者: 瑠紆
王都編
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敵か味方か?

ユースケ視点



拠点に戻り、カイルとルナを余っていた客室に案内する。

フィーとユキナ、ルミナスは風呂に入りにいったようだ。

それを確認して自室に戻った俺は、カイルと初めて会ったときの事を思い出していた。



初めはいけすかないヤローだと思った。

わざわざ挑発するような言葉を吐いて、戦った。

今思えば、焦っていたのかもしれない。

フィーの口からカイルという名前が出たときから。


フィーは大切な仲間だ。

好きか嫌いかと聞かれたら、間違いなく好きだと即答できる。

だが、どう好きなのかと聞かれたら、わからないと答えるだろう。

仲間として好きなのか、妹のように好きなのか、それとも女として好きなのか。

自分の気持ちがわからない。ただ、何があっても守りたいと思う気持ちは本物だ。

それが仲間に対する俺の執着だったとしても。


とにかく、死んだように生きていた俺を救い出してくれたとも言える、やっと出会えた仲間の口から出た知らない名前に無性にイラついて、子供のような行動をとってしまった。

だが、それに対しては、反省はしていない。


その行動でカイルを秤にかける事が出来たのだから。



草原でカイルと戦った時、正直いって失望しかけた。

あぁ、この程度かと。

嫉妬に狂った目に、でたらめな剣筋。

こんなんじゃフィーを任せることなんて出来ないと思った俺は、こんな茶番は早めに終わらそうと魔法を放とうとした。

でも、その時ちょっとしたイタズラ心が沸き上がった俺は、カイルに一言囁いた。


「フィーは命を狙われてるぞ」


間違ってはいない。事実、魔族から狙われている。

命を狙われているかどうかは定かではないが。


それはともかくとして、ただの嫌がらせで放った一言だった。

悪質かもしれないが、こんな奴を二度とフィーに近付けたくなかった。

だが、俺が囁いた一言を聞いたカイルは、一瞬で纏う空気を変えた。

嫉妬に塗られていた目は冷静さを取り戻し、纏った雰囲気は熟練の戦士を思わせる程に。

その変貌ぶりに、俺は思わずたじろいだ。そして愕然とした。

今の今まで、完全に下に見ていた奴にたじろいだ自分が信じられずに。

だが、同時に歓喜した。

フィーを守りたいという、自分と同じ気持ちをもつ人間に出会えたことに。


戦いが終わったあと、俺の予想通り、カイルは仲間になった。

この世界の人間で初めての仲間だった。


それから二ヶ月、俺たち三人は、がむしゃらに能力の向上につとめた。

俺とフィーは、圧倒的に足りていない経験を補うことを目的とし、カイルは純粋に剣技やパーティーでの戦いを学ぶために、魔物やモンスターを狩り続けた。


そして今日、やっとというべきか、カイルが拠点に引っ越してくることとなった。

カイルには頑張ってもらわなければ。

キャラメイクで、1500歳に設定した俺の寿命は、恐らくあと少し。

最近は、明らかに衰えていく外見を隠すために、魔法で若い姿になったまま生活してはいるが、その姿でさえ、自分の中の命の灯が力をなくしていくのがわかる。




コンコン


「ちょっといいか?」


そんなことを考えていると、来訪を告げるノックと共に、カイルの声が聞こえた。

考えに耽っていた頭を起こし、カイルを部屋の中に促した。

俺は再度ベッドに腰をおろし、カイルに椅子をすすめる。


「どうした?カイル。荷ほどきは終わったのか?」


カイルが椅子に腰掛けたのを確認して、声を掛ける。


「あ、ああ、なんとかな。残っている分は、少しずつ片付けるつもりだ。それよりも…」


「ちょっと待て!」


カイルの話を遮って、部屋に防音の結界をはった。


「これでよし。で?シリウス王子はどうだった?」







疑念を感じた。

ユキナが現れた時に。


ゲーム時代、俺がギルドマスターをつとめていたギルドの一員だったユキナ。

一年前にこの世界に落とされたのにも関わらず、なぜすぐに拠点に来なかったのか?

この世界がユグドラシルだと気付いたのなら、普通は自分が知っている場所に行こうと考えるだろう。

人間の心理に基づいた、当たり前の行動だ。

それなのに、ユキナは今までここに来なかった。

絶望を感じていたのなら。もしくは、何もかも諦めていたなら、ここに来なかったのも理解は出来る。

だが、今日会ったときのユキナは、そんな様子はなかった。

むしろ、不自然な程に明るかった。

ゲーム時代の仲間に、いや、地球の仲間に会ったにも関わらず、驚くことさえしなかったのだ。

そう。まるで、この世界に俺たちがいるのを知っていたかのように…。





意を決したようにカイルが口をひらいた。


「今日、自宅に戻った時に、父が居たので聞いてみた。王家に何かなかったか?と。父は驚いていた。なぜ知っているのかと。」


「それで?」


「今の王には三人の子供がいる。第一王子のリカルド様、第二王子のシリウス様、王女であるアリア様だ。」


「じゃあ、ユキナが言ってたのは第二王子ってことか。」


「ああ、そうだ。だが…シリウス王子は妾腹なんだ。それもあってか、第一王子のリカルド様とは仲が悪い。というか、シリウス王子が一方的に敵意を抱いている。」


「つまり、正妃の息子であるリカルド王子を一方的に恨んでいると?」


「そうだ。だが、恨んでいるとは言っても、今までは表立って何か行動をおこすことはなかったらしい。それが一年ほど前から、リカルド王子が暗殺者に狙われるようになったらしい。シリウス王子が指示しているかはわからないが…。」


カイルが苦い顔をしながら吐き捨てるようにいった言葉に、ユキナへの疑念が膨らんだ。

ユキナがシリウス王子と知り合った時期と、リカルド王子が狙われるようになった時期が一致するのだ。

果たして、それは偶然なのだろうか?

俺が目でカイルに先を促すと、驚くべき言葉がカイルの口からこぼれた。


「シリウス王子の近くにはいつもユキナという少女と、魔術師の男がいるようだ。噂によると、魔術師の男の目は…血のように赤いらしい。」




繋がった。

今、考えられる最悪の状況に。

でも、それなら魔族の狙いは何なんだ?

俺たちをこの世界に呼んだやつの願いは?




なぁ、ユキナ?

俺は知ってるんだ。

お前が、のんびりした話し方をする穏やかな性格の少女という仮面を被っていることを。

本当はプレイヤーキラーを好む、狡猾で計算高い性格だということを。

ある日、偶然見てしまったんだよ。

お前が笑いながらプレイヤーを殺しているところを。

それを見られたお前は監視する俺に敵意を向けはじめた。

俺は、それくらいどうでもよかった。

仲間に害がなければ、捨て置くつもりだった。

ゲームだったから。



だが、今はゲームじゃない。現実だ。



お前は敵か味方か?

味方ならばお前を守る。命を掛けても。過去なんてどうでもいい。

だが、敵だったら…

お前を…殺す!!!俺の命を犠牲にしてでも。


お前にその覚悟はあるのか?






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