テンプレ乙です
「ユキナ!?」
「はぁ、お前か。」
「え???」
あまりにも軽い挨拶に面食らいつつ、それぞれが思い思いの行動をとった。
私は驚いて目を見開いている自信があるし、ユースケは頭を抱えている。カイルに至っては、頭の上にクエスチョンマークが見えるとこちらが錯覚しそうなほど微妙な表情をしていた。
久し振りですまされる状況ではないのは、ここにいる全員が知るところで突っ込みどころは満載だが、それを飲み込んだ上での発言である。
カイルはいまだに状況が飲み込めていないようだが、私とユースケの反応から、どうやら敵ではないと判断したようで、抜いていた剣を所在なさげにしまっていた。
ちなみにルミナスをちらりと見ると、食器を片付けながらテーブルを拭いていた。
こちらも突っ込みどころが満載である。
それでいいのか精霊王…。
閑話休題。
王都に行くのは一先ず延期になり、ユキナも共にホールのテーブルに着いて話をすることとなった。
「シリウスが最近、大霊山でバッタンバッタン討伐してる三人組がいるらしいって言っててにゃー、え?それってプレイヤーじゃないのー?って思ったから一応拠点に確認にきたってわけなのにゃー、いやぁ、それにしてもこのイケメンがギルマスだとは世の中不思議なことがいっぱいだにゃー」
とはユキナ談。
ちなみにこの話し方はゲーム時代からで、「虎の子供の鳴き声はにゃーらしいよー?」と不確定な情報を真に受けたユキナの拘りらしい。
最後まで誰も鳴き声うんぬんは信じていなかったが、特に害もないのでそのまま放置となったが。
それはともかく、突っ込みたいところがありすぎて何から聞けばいいかわからない。
そんな私に、気づいたユースケが、助け船を出してくれた。
「つぅかさ、お前いつこっちに来たの?てか、シリウスって誰?」
ユースケが聞いた途端に今まで笑顔だったユキナの表情が消えた。
「は?お前ってゆーなし!」
ユキナの鋭い声音の発言を聞いて、私は軽く頭痛を覚えた。
ユキナを見た時にユースケが頭を抱えた理由がこれである。
このユキナ、普段はのんびりとした話し方をする穏やかな少女なのだが、ユースケに対しては扱いが酷い。仮にも所属ギルドのギルマスであるユースケになぜ強く当たるのか?と以前聞いたことがある。
返答は「中途半端ななりきりは嫌い」の一言。
今のユースケはイケメンバージョンなので話し方も問題ないはずなのだが、長年の癖とも言うべき行動や言動がまだ抜けていないらしい。
「はぁ、ユキナ、とりあえず落ち着いて。で、さっきの質問答えてくれないかな?このままじゃ話が
進まないから」
私が頭痛のする頭を押さえながら声を掛けると、一瞬で元の笑顔に戻ったユキナが爆弾を投下した。
「うん。この世界に来たのは一年くらい前かにゃー。で、シリウスは王子だよ♪」
その発言に私とユースケは呆け、かわりにそれまで黙って聞いていたカイルが頭を抱える事になったのだった。
あれからなんとか私達は再起動を果たし、詳しく話を聞いた内容をまとめると、
ユキナがこの世界に来たのは一年ほど前。
何がなんだかわからずに、とりあえず人のいる場所を探しながら道を歩いていたら、盗賊に襲われている馬車を見つけた。
それを助けたところ、馬車にのっていたのは王子様だった。
馬車にのせてもらえることになったユキナは王都までの道すがら王子と意気投合して、今は仲良し♪
ということらしい。
なんというテンプレか。
そしてなんという主人公属性。
ユキナの話を聞いていく内に、私達が遠い目をしてしまったのは致し方ないことだと思う。
理解はしたが、感情が追い付かない私達は、部屋で休むにゃーと言っているユキナと掃除中のルミナスを置いて、三人で現実逃避という名の王都行きを決めたのだった。




