まさかの出会い
「カイル!そっちいったよ」
「ああ!疾ッ!ユースケ!後ろのやつら頼む!」
「はいはい、わぁったよっと!」
カイルが私たちの仲間になってから二ヶ月がたった。
私達は今、大霊山の麓近くで アイスゴーレム 三体と戦っていた。
あれからひとつきほどは王都の冒険者ギルドの高ランク依頼を片っ端から片付けた。
そのお陰でギルドの依頼票は過去に例を見ないほどに片付いたらしい(ライオンさんなギルドマスター談)。
だが、片付けすぎたらしい。
他の高ランク冒険者から『受ける依頼がない』との苦情を受けたギルド側からストップがかかり、シュッペンへ移った。
ユースケの転移魔法は一度行った事がある場所じゃないと移動が不可能のようで、王都からシュッペンに行くまでは徒歩だったが。
久し振りに会うシュッペンのギルドマスターやウィンディへの挨拶もほどほどに、王都と同じように高ランク依頼を受けまくった。
最初は溜まっていた依頼票を片付けては喜ばれていたものの、半月もしないうちに王都と同じ理由でストップがかかった。
ユーランに冒険者ギルドはないのか聞いたところ、ユーランは魔術師ギルドの管轄らしく、冒険者である私達は特例以外では依頼を受けられないとのことだった。
で今に至る。
他にも小さな町や村にも冒険者ギルド支部はあるらしいが、高ランク依頼は王都や大きな街に送られると聞いた私達は依頼ではなく勝手に討伐をしているという訳だ。
今の世の冒険者達ではなかなかに討伐は難しいだろう魔物やモンスターがいる大霊山。
ここならば、他の冒険者の仕事の邪魔にはならないだろうとの全員の意見の一致という表向きの理由を掲げてはいるが、実際はパーティーに入れてくれと声を掛けてくる冒険者達が煩わしくなっただけである。
全て知って仲間になったカイルはまだしも、さすがに何も知らない人を仲間に加えるわけにはいかない。そこまで巻き込むことはできない。
あれから魔族が接触してきてはいないと言っても気は抜けないのだ。
実際、パッと見ただけでも声を掛けてきた冒険者の力量が低かったからというのも理由の一つではあるが。
閑話休題
この二ヶ月でカイルは驚くほど強くなった。
それまでも強かったが、ここ二ヶ月の内にめきめきと力を上げたようで、今のカイルの剣技には洗練さが備わったというか、無駄な動きがない。
ユースケも最近のカイルの動きには満足そうに口角をあげているくらいだ。
本来なら後衛である魔法職のユースケと前衛であるカイルは共闘するとなると相性がいい。
最初はユースケから怒声を浴びせられていたカイルも、今はパーティーでの戦いかたを学び、ユースケとのコンビネーションは目を見張る程である。
私いらなくない?なんて思っていることは秘密だ。なんか切ないから。
「お疲れー」
臨戦態勢を解いた二人に私が声を掛けると、二人が同時にこちらへ振り向いた。
「ああ、お疲れ」
「お疲れーじゃねぇよ!お前も戦えっつーの!ったく。あー腹へった」
そうなのだ。私は今回、注意を促しただけで戦っていない。
みーてーたーだーけーである。
「ったく、拗ねてないでちゃんと働け。」
「だってぇ、二人で倒せそうだったからさっ」
私が少し膨らませ、柄にもなくぶりっこしながらユースケに言い返すと、隣にいたカイルは、え?拗ねてたの?とでも言いたそうな顔でポカーンとしていた。なぜか顔が赤い。
なんで顔赤いの?と私が首を傾げていると、その様子を見ていたユースケが盛大に溜め息をついた。
「お前って…まぁ、いいや。アイスゴーレムからはとれる素材もねぇし、さっさと帰るぞ。」
どうやら腹ペコらしいユースケの台詞に私とカイルは慌てて転移の魔方陣に飛び乗った。
「主様!お帰りなのじゃっ!」
三人で拠点に戻ると、エプロン姿のルミナスが片手におたまを持ちながら飛び付いてきた。
実はこのルミナス、一週間調査に行ったものの、結局何も情報が流れていなかったらしく、私のもとに帰ってきたときは「妾は役立たずなのじゃ」とズドーンと落ち込んでいた。
私がいくら慰めても効果はなく、困り果てていたものの、一晩たったらけろりとしていた。
エプロン姿で。
どうやら私が眠っている間にユースケに「主様の役にたつにはどうすれば.…」と相談したところ、眠かったユースケの「フィーの喜ぶことをすればいいんじゃね?」との適当な返事を自分なりに解釈した結果が主婦になることだったらしい。
さすが長寿の精霊。
予想の斜め上を行く解釈っぷりである。
とはいえ、私には到底わからない解釈ではあっても、キッチンでユースケに料理を教わったり、ホールで掃除をしているルミナスはとてもイキイキと楽しそうで、何も言わずそのままにしてある。
「ただいまルミナス、いいこにしてた?」
あれから何度か見てはいるものの、かわいらしい格好のルミナスに自然と頬が緩む。
私が頭を撫でると気持ち良さそうに目をつぶっている。
「ハッ!料理の途中だったのじゃ!」
撫でられていたルミナスが「今日はビーフシチューなのじゃー」といいながら慌ただしくキッチンに戻る姿に、ユースケと顔を見合わせて笑った。
カイルは「精霊王のビーフシチュー‥」と何やら茫然としながらブツブツ言っていたが、とりあえずそっとしておいた。
「はぁ、美味しかったぁ。ご馳走さまー」
「ルミナス腕をあげたな!流石、俺の弟子だ。」
「お粗末さまなのじゃ。師匠!今度はムニエルとやらを教えてほしいのじゃ!」
食事を済ませ、お茶を飲みながら(いつルミナスはユースケの弟子になったんだろ?)と考えつつ、ゆっくりした時間を楽しむ。
カイルは居心地が悪そうにキョロキョロしていた。
今まで宿や自宅から私達に合流して討伐へと行っていたカイルは、この拠点に来るのは初めてだ。
(何度か一緒に住もうと誘ったのだが、「実力が伴うまでは」と、頑として首を縦に振らなかった。同じ理由でルナも自宅でお留守番らしい。)
しかも、今の世では半ば伝説化されているらしい『精霊王』。
しかも四代精霊王のさらに上であるルミナスがエプロン姿でおたま片手に迎えたのだ。
そりゃビックリもするだろうと思うし、一種の要塞といっても過言ではない、この拠点を見て居心地が悪いのはわかる。
でも、それは慣れて貰うしかない。
ルミナスはおそらく暫くはこのままだろうし、ユースケに認められた今日からカイルはここに住むことになるのだから。
「よし、じゃあそろそろ王都に行くか!」
ルミナスと話終わったらしいユースケがカイルに向かって声を掛ける。
カイルの自宅にルナを迎えにいって、荷物を取ってくる為だ。
「あ、ああ!」
ボーッとしていたカイルがユースケの声に我に返り、立ち上がろうとしたその時だった。
「たのもー」
拠点の入り口の方から声が聞こえ、声の主だと思われる人物の足音が一歩づつホールへと近づいてくる
。
カイルは臨戦態勢を取っていたが、私とユースケは違う意味でドキドキしていた。
ユースケが結界を張っているこの拠点に侵入者はあり得ない。
いくら魔法形態が違うという魔族であろうと、認証システムが作動していては無理だ。
ということは、ギルド員が招いた者か、ギルド員のみ。
そして私とユースケが招いたのはカイルだけ。
そうなるとこの足音の人物は…
「んにゃ?やっぱ誰もいないのかにゃー?あ、居るじゃん!やっほ!元気?」
私達が目を凝らしていた場所に現れたのは、ミルクティー色のふわりと柔らかそうな肩口までの髪にピコピコと動く白い耳。ゆらゆら揺れる細長い真っ白な尻尾が特徴的な少女。
かつてゲームだった頃のギルド員、虎人族の『ユキナ』がそこにいた。




