どうしてこうなった
ユースケと話し合った後、武器などを装備して二人で王都の近くに転移した。
なぜかユースケはまたイケメンバージョンになっていたが、気に入ったのかもしれないと詳しくは聞かずにおいた。
ルミナスは情報を集めるといって、精霊たちに会いに行った為に、一週間ほどは別行動。
ユースケに何度も「主様をよろしく頼むのじゃ」と言っていたルミナスの迫力にユースケがタジタジになっていたのは余談である。
相変わらず転移酔いはなれないものの、最初よりは幾分ましだった。これから慣れるかもしれないと思えることが唯一の救いだ。
そんなことを多少グロッキーになりつつも考えながら王都に入り、冒険者ギルドに向かった。
今日の目的は高ランクの討伐をかたっぱしから受けるためである。
幾つも一気に受けることが出来るのだが、依頼を失敗すると、そのぶんの罰則金がかかるため、普通の冒険者は受けたとしても2つか3つくらい。
ユースケと一緒に依頼が張ってある掲示板を見上げ、高ランクの討伐依頼を13枚剥がす。
相変わらずギルド内に入るとザワザワした空気が一瞬で静まり、依頼票をはがしたところでこそこそと話す声が聞こえたが、いい加減慣れたこともあって大して気にもならない。
そのまま依頼票を持って受付に向かい受理してもらった。
知らない受付の人だったので、一言くらい何か言われるかとも思ったが、ユースケと一緒にギルドカードを見せると、呆気ないほどすんなり受理された。
どうやら、先日、ランクアップするために無茶をしたユースケの依頼票を受理した受付嬢だったようだ。
軽く遠い目をしていたような気もするけど、今の私たちも同じような事をしている自覚があるのでなんとも言えない。
とりあえず心の中で謝っておいた。
それはともかく、依頼の期限はさまざまで、三日から一週間。期限に余裕のない依頼からこなすべく、急いでギルドから出て討伐に向かう…はずだった。
「えっ、わ、びっくりした」
ギルドから出た私の胸に飛び付いてくる小さな影があった。思わずキャッチして抱き上げる。
白銀の毛並みにつぶらな金色の瞳。
そう、ルナである。
驚きつつも、久し振りのルナに嬉しくなってだっこしながらもふもふを堪能していると、隣にいたユースケからただならぬ気配を感じて顔をあげた。
「フィー…」
顔をあげた先には私の名前を呼びながらなぜか顔を歪ませたカイル。
視線は私の左手の指輪に落としている。
何でそんな顔をしているのかわからない私は首を傾げながら、抱いていたルナをカイルに渡した。
「久し振り、カイル。あ、ごめん、ルナ返すね」
「あ、ああ。それよりも…」
ルナを受け取って腕に抱いたカイルは戸惑うように私とユースケを交互に見ている。
「あ、こちらはユースケ。今、一緒に住んでて私の大切な人(仲間)なの。」
私がユースケをカイルに紹介すると、目に見えて落胆している様子だが鋭い目をしたカイルと、笑顔だが目が全く笑っていないユースケの間に火花が散った…ようにみえた。
どうしてこうなった
今、私はルナを抱きながら王都から少し離れた草原でにらみ合いながら武器を構えたカイルとユースケを見て途方にくれていた。
はじまりは30分ほど前、ユースケがカイルに向かってボソリと言った「弱そ」の一言。
私にも聞こえたその言葉に盛大に慌ててフォローしようとしたものの、時すでに遅し。
カーっと頭に血がのぼったカイルがユースケに戦いを申し込み、申し込まれたユースケが嬉々として受け入れたからである。
ユースケの転移魔法で近場の草原まで移動し、
戦うことになったというわけだ。
なぜユースケが挑発するような事を言ったのかは不明なままだが、この状況が非常にまずいことは理解していた。
カイルは強い。トップクラスの実力を持ち、一緒に旅をしていたときはだいぶ助けられた。
今の世の人はゲームだった頃に比べてレベルという概念では低いが、トップクラスの冒険者ともなれば、経験も含めてカンストレベルとも戦える実力はあると思う。
カイルしか知らない私が言えることではないが、少なくともカイルはそうだ。
ならば何がまずいのか?
相手がユースケだということだ。
ユースケは魔法使い。しかもカンストレベルの。
いくら、カイルの剣技が優れているとは言っても、魔法に対してはあまりに無防備。
カイルがユースケに勝てる可能性は今のままでは万に一つも…ない。
「いくぞ!」
カイルがユースケに向かっていく。
ユースケに向かって剣を振るうが、剣先はすべて見えない壁のようなものに阻まれていた。
それでも剣を振るい続けるカイルに向かってユースケが何かをささやいた後に放った最初の魔法で決着はついた。
風属性の『ウィンライド』ゲーム内では比較的早い段階で覚えることができる、圧縮した風を対象に当てるだけの魔法。
それを受けて10メートルほど吹っ飛んだカイルはそのまま倒れた。
私の腕の中にいたルナがスルリと腕から抜け出しユースケを威嚇したあと、倒れたカイルに一目散に走っていく。
私も向かおうとすると、いつの間にか後ろに立っていたユースケに肩をつかまれた。
「ユースケ!離して!カイル、怪我してるかも!それに気を失ってるかもしれない!」
「そんなヘマはしねぇよ。それにほら。」
ユースケが指を指した方に目を向けると、カイルがヨロヨロと立ち上がり、ルナを抱き上げてこちらに歩いてくる。
私たちの目の前で立ち止まったカイルは、ユースケに向かって頭を下げた。
「頼む!俺は強くなりたい。大切なものを護れるように。だから、一緒に行動させて貰えないだろうか?」
頭を下げたままのカイルに、私は意味がわからずユースケを見る。
ユースケは私の視線に気付いてフッと笑ったあと、カイルに向かって言った。
「いいぜ。ただ、俺達は命を狙われてる。俺達と一緒にいるってことは、お前も狙われるってことだ。それでも来るか?」
カイルはパッと頭を上げて真剣な顔でこう言った。
「ああ、それでも共に。」
ガッチリとにこやかに握手を交わした二人を見て、一人取り残された感のある私は叫んだ。
「二人で話を進めるなーー!!!」
私の叫び声はむなしく風に流され、かわりに二人の笑い声が草原に響いていた。




