来るべき時の為に
パソコンの使いすぎで肩が炎症をおこしてしまいました。
若干投稿ペースが落ちるかもです。
いつの間にやら眠っていたらしい。
目を覚ますと、隣から視線を感じた。隣を見ると、心配そうな顔をしたルミナス。どうやらうなされていたようだ。
「(なんだかいやな夢を見たような気がする)」
夢の内容は思い出せなかったが、頭の中にもやがかかったような嫌な目覚めだった。
いまだに表情の晴れないルミナスをなだめた後、気分を変えるため二人で浴室に向かった。
お風呂に入って少し気分がスッキリした私が部屋に戻ろうとホールを通ると、まだ早朝のために薄暗いホールに人影があった。
「わっ!びっくりさせないでよ!こんな暗いとこで何してんの?」
目を凝らして確認したのはユースケの姿。暗いところで見る魔法爺の姿は、軽くトラウマになりそうな位ホラーである。
「フィー、起きてたのか」
いつもより覇気のないユースケの声に、私の胸に不安が広がる。
ユースケがこんな声の時は決まって厄介事だ。ゲーム時代もそうだった。毎回、無理難題を吹っかけられた挙句、結局全員死に戻りしたのは今となってはいい思い出。
でも、今は状況が違う。
死んだら終わりの現実世界。
不安になるのは当然といえるだろう。
薄暗さに慣れてきた私の目に映ったのは、覚悟を決めた男の顔をしたユースケの横顔だった。
「はぁー、んで?今回はどんな厄介事よ?まぁ、そんな顔してるって事はなんとなく想像つくけど」
不安を押し殺して、なるべく明るく笑顔でたずねた。ユースケは昔から優しすぎる。自分の懐に入れた仲間の危機には平気で無茶をする。自分を犠牲にしてでも。
さっき見たユースケの顔は、まさしくそんな時の顔だ。一人で全部背負い込もうと覚悟した時の顔。こんな顔をしたユースケに全て背負わせたくなかった。
だが、ユースケが放った言葉は、私の作り笑いを一瞬で消せるほどの威力を持った一言だった。
「新地区が開放されたかもしれない」
ユースケは何も言えなくなった私をチラリと一瞥した後、淡々と話し続けた。
とある突発クエストが鍵となっていた隠れ地区ゴラン。通称、最果ての地。
運営が試験的に追加した地区で、敵は魔族四人のみ。一度、最高レベルのプレイヤー六名のパーティーが開放したものの六人がかりで魔族一人にも敵わなかった。一度開放された地区をゲームシステムの関係で消去出来なかった運営は、二度と開放出来ないように鍵となる突発クエストを無くした後、厳重に結界をはって、魔族を封じ込めた。
「その時に魔族と戦ったプレイヤーの一人が俺だ。」
「え?」
「ギルドを作る前に、俺は六人のカンストプレイヤーでパーティーを組んでいた。ゴランを開放して意気揚々と敵に挑んだ俺たちは、魔族一人に手も足も出なかった。死に戻りした俺たちは、余りの理不尽さにその場で運営にメールを出した。その結果が地区の封鎖だ。」
「でもっ!!封鎖したんでしょ?なんでその地区が開放されるの?!」
「わからん。運営の言うことを丸呑みするなら、150年やそこらで破られる結界じゃないはずなんだがな」
ユースケの話を聞いて、運営の適当さに呆れた。
試験的にとはいえ、そんな地区作る必要あったのか、それに封鎖するならもっとしっかりやって欲しい。
とは言っても、この世界に私たちを飛ばした犯人が運営じゃないのなら、この事態は想定の範囲外だろう。
ユグドラシルのサービスが終了している今となっては、どう頑張っても文句すら言えない。
「はぁ、ゲームの中なら運営に文句のメールの一つも送ってやりたいところだけど…今となってはねぇ。それより…これからどうするつもり?」
私の問いかけに迷わず答えたユースケの言葉に私の中で何かが切れた。
「ふざけるなーーー!!!」
「あ、主様、落ち着くのじゃ」
フシューフシューと湯気をたてそうな私の様子に、今まで黙って話を聞いていたルミナスが必死に止めに入るが、私は聞く耳を持たなかった。
原因は今私の視線の先で正座しているユースケの「俺一人で戦うから」の一言だ。
「あんた昔ケチョンケチョンに負けてんでしょ?!一人で戦うとかバカなの?死ぬの?」
「…」
「黙ってないで何とか言ったら?大体ねぇ、昔からあんたのそういうとこ嫌いなの。あれですか?自分が犠牲になれば万事解決するとでも思ってるわけですか?はっ、ちゃんちゃら可笑しいわ!」
「…」
「相手は私に接触してきてるんだよ。あんたが一人犠牲になったところで撤収してくれるお優しい相手なわけ?」
「っ!それは」
今まで俯いていたユースケが思わずといった様子で顔を上げたところで私は一気に畳み掛けた。
「ユースケ、私を守ろうとしてくれるのは嬉しい。でもね、自分の命を粗末に扱うのはどうしても許せない」
「フィー…」
「あんたが仲間を大切に思う気持ちはわかる。でも私だって仲間が大切なの。」
「フィー、すまなかった」
どうにかユースケを改心させ、今後の事を話し合う。
結果、戦いに慣れるために冒険者ギルドの高ランク依頼を片っ端から受けることに決まった。
生身の体でどこまで戦えるのかを確認するためだ。
それに、予想でしかないが、魔族が狙うのはプレイヤーのみだと考えられる。
ということは、必ず私たちの前に現れるはず。
王都で会った男だって、街を破壊しようと思えばたやすく出来たことだろう。
それなのに私の元に現れた。
それだけ警戒されているのかもしれない。
この世界に来た意味と目的のわからない敵。
わからない事ばかりで不安は残れど、私とユースケの心は仲間を守るという決意に満ちていた。




