エンカウント
山火事の危機を乗り越え、歩くこと約1時間。
ようやく、森の終わりが見えてきた。
「長かった、ようやくかぁ」
嬉しくて思わず走りながら森を抜ける。眩しいくらいの日の光が瞼に飛び込んできた。と、同時に叫び声と、錆びた鉄のような匂いが、風に乗って運ばれてくる。
思わず、その方向を見ると、馬車を背にして何人かの人が戦っていた。
「盗賊?」
その光景は何度か見たことがあった。【ユグドラシル】の、中級用クエストでである。
違うのは、飛び散る赤い血。
「助けにいかなきゃ」
走りながら確認すると、盗賊と思われる集団が押している。
「まずい、助太刀します!」
駆け寄ると、馬車を守っている精悍な顔立ちの男性から
「嬢ちゃん、無理だ!下がれ。ここは俺達が、引き留める。荷物と商人を頼めないか?頼む!」
と声が飛ぶ。
私は驚きで目を見開いた。男性を見れば腕や脚から血が流れ出ている。これではいくら戦ったとしても僅かな時間しか持たないだろう。
「死ぬ気ですか?その怪我じゃ、持ちませんよ。血を流しすぎです。」
そう言うと男性の顔が苦痛に歪んだ。
それを見て…助けたい。そう思った。ここは現実だ。血の匂いがそれを物語っている。ゲームなら血は流れない。NPCなら、こんな会話はしない。現代日本で暮らしていた私が人を殺せるのだろうか。頭の中で想いと恐怖がせめぎあっている。でも…
「あなたたちは、誰一人死なせません。」
馬車を守りながら戦っていた人達に、かつてゲームだった頃のギルドメンバーが何故だか重なって見えた。現実含め私の唯一の居場所だったギルド。暖かくてやさしい人達。
これは現実だ。ゲームじゃないなら死に戻りなんてない。
馬車を守っていたメンバーの驚愕の顔を横目に私は魔法を放つ。
「サンダーレイン」
盗賊達に稲妻の雨が降り注いだ。
「なっ、雷属性を無詠唱だと!?」
誰が発した言葉だったのか?稲妻の雨が止んだときには盗賊達は一人も立っていなかった。