振り回されて
冒険者ギルドの前でいまだにポカーンと口をあけている私の手を引いて、ユースケがギルド内へ入ると、ギルドの音が止んだ。
ユースケは気にせずにズンズンと受付に進む。
受付にいたのはミケさんだった。ようやくハッとなった私はミケさんに話しかける。
「こんにちは、ミケさん。今日は冒険者登録と素材を買い取ってもらいたくて来ました。」
私がそう言うと、ボーッとユースケを見ていたミケさんは慌てて私へ向き直った。
「あ、フィーさん、お久し振りニャ。冒険者登録は隣の男性ですニャ?こっちで説明するニャ。素材の買い取りとのことですが、なんの素材かニャ?」
私が答えようとすると、隣からユースケが口を挟む。
「説明はいい。素材はブルードラゴン、ホワイトダイアウルフとか、色々だ」
「ちょ、ちょっと待つニャ!」
ユースケの言葉を聞いた途端、ミケさんは目にも止まらぬ速さで奥へ行ってしまった。
というか、いい加減このパターンにも慣れた。
予想通り、奥からライオンさん、もとい、ギルドマスターが出てきて、奥の部屋に通される。
「どうぞお掛けください。」
マスターに促されて、お馴染みのソファーに腰掛ける。となりにはユースケが座っている。
マスターがお茶を淹れて、私達の前に座った。
「さて、フィーさん、素材の買い取りとの事ですが。」
「あ、はい。えっと」
目の前のテーブルにアイテムボックスから出した素材を並べていく。マスターは最初は、ほぉ!とか、これは!とか言っていたが、素材が置けなくなって私が積み上げ始めると顔色が悪くなっていた。心配になったので声を掛けてみる。
「えっとマスター?」
「あ、いや、流石と言ったところだの。ところで、まだあるのかね?」
マスターの精神衛生上よくないと思ったので、とりあえず半分ほどの量を買い取りしてもらうことにした。
「いや、すまなかった。あまりの量に驚いたのでな。ところで、どこまで行っていたのかね?」
「あ、大霊山です。」
「なんと!?大霊山!?そうか、あの子を送っていったんだね?」
「はい。」
「一人でかね?」
「あ、いえ、隣にいるユースケとルミナスとです。」
神竜の事を知っているマスターは驚きはしたがすぐに納得したようだ。ユースケが同行したことを告げると、マスターはユースケに向き直り頭を下げた。
「ユースケ殿、遅くなったが私はここのギルドマスターをしておる、レオナルドと言う。今日は新規登録との事だが、大霊山に同行できるユースケ殿をさすがに低ランクに置いておくことはできん。素材の中にはSSランク相応の魔物もおったようだし、Bランクからスタートということでよろしいかな?」
ユースケが何やら考えたあと首を縦に振り、話はまとまった。
「フィーさん、ユースケ殿、素材の買い取り計算が終わったようだ。受付で受け取ってくだされ。ユースケ殿はギルドカードもな。」
マスターに挨拶をして私達は部屋を出て受付に向かった。
「あら?フィーちゃんじゃない!」
受付に着くと、後ろから声を掛けられた。
振り返るとナージャさんがいた。
私はユースケにお金を受け取るよう頼んでから、ナージャさんに駆け寄る。
「ナージャさん!お久し振りです」
「フィーちゃん、お久し振り。元気だった?」
「はい!ナージャさんも元気そうでよかったです。」
「あらありがとう。ところで…さっき一緒にいた格好いいお兄さんはフィーちゃんの彼?」
「ちが「そうだ。」」
私が否定しようとすると、後ろからユースケの声が飛んできた。
「ちょっとユースケ何言って!?」
私が抗議すると、隣に来たユースケが私の腰に手を回してくる。
あまりの驚きに何も言えずにいるとナージャさんが「あらあら、お邪魔しちゃってごめんなさいね、またね、フィーちゃん」と言いながら手をパタパタ振って行ってしまった。
「なっなっなっ、ユースケー!!!」
王都の冒険者ギルドに私の叫び声が木霊した。
「ちょっとした冗談じゃねぇか!」
「冗談であんなこと言うんじゃないわよ!」
冒険者ギルドを出てから、私とユースケはギャーギャー言いながら街の中を歩いている。
しばらく言い合ったあと、
「すまん。この通り!」
とユースケが頭を下げて謝ってきた。
どう見ても反省している様には見えないが、頭を下げられて、まぁいいかと思ってしまう私は甘いのだろうか。
「はぁ。今回は許すけど、もうしないでよね。」
「気を付ける。ところで、どこに向かってるんだ?」
「武器屋だよ。ああ、ここ」
言い合いをしていたら何時の間にか武器屋に到着していた。店の扉を開けて中に入り声を掛ける。
「イドさーん、いますかー?」
私が声をかけると、今日はすぐ返ってきた。
「おう!嬢ちゃん、どうしたんだ?修理か?」
イドさんがのそのそ歩いてきた。
「こんな早く修理なんて要りませんよ。今日はお土産持ってきたんです」
「土産ー?」
「はい!これどうぞ。」
私はアイテムボックスから出したブルードラゴンの鱗を数枚イドさんに手渡した。
「ドラゴンの鱗か!?でもこんな色は知らねぇな」
「ブルードラゴンの鱗です。いっぱいあるんでお裾分けに」
「ブルードラゴンだと!?」
「はいっ。」
「はぁ、もう嬢ちゃんには驚くのが無駄な気がしてきたな。ありがとよ。それでそっちの兄ちゃんは?」
イドさんはやれやれといった様子で鱗を眺めていたが、ユースケの方を見て、私に尋ねてきた。
「あ、えーっと、私の戦友というか‥…ユースケです。」
「そうか。」
イドさんは聞いたくせにあまり興味がないといった感じの返事を一言言うと、黙ってしまった。
魔法使いだからだろうか?
そのまま武器屋を後にして、食事の為にレストランに向かった。
貴族街の入り口にあるレストランの個室で私は困惑していた。
目の前には大量の金貨が入った布袋。
ユースケに取り分だ!と渡された素材を売って得た報酬である。
「これっていくらあるの?」
「んあ?金貨千五百枚だな。」
私の問いに、ステーキを食べながらユースケが答える。
個室に入ってすぐに実体化したルミナスは、お金に全く興味がないといった様子でハンバーグを頬張っていた。
「いや、簡単に言える金額じゃないでしょ!千五百枚だよ?千五百枚!」
「そんなこと言ったって真っ当な報酬の半額なんだから仕方ねぇだろ。」
「はぁ、とりあえず百枚だけちょうだい。後は拠点にしまっておいて。」
「おう、わかった」
ユースケはそういうと布袋から百枚だけ金貨を取りだしテーブルの上に置いた。私はそれをアイテムボックスにしまうと、食事にとりかかる。
なんだか金銭感覚が狂ってしまいそうで、ちょっぴり不安になった私だった。




