指輪
翌日、旅の疲れからか高級ふかふかベッドで寝ていた私が目を覚ましたのは日が高くなる頃だった。
部屋を見渡してもルミナスは居らず、フラフラとホールへ向かう。
ホールに入ると、ルミナスとユースケが仲良くランチの最中だった。
食欲をそそる匂いに私のお腹がグゥとなる。
その音二人が振り向き、私に気付いた。
「おう、起きたか。飯作ってやるからちょっとまってろ。」
ユースケがキッチンへ向かっていったのを見ながらルミナスの隣に座る。
どうやら今日のメニューは魚のフライらしい。
「主様、おはようなのじゃ!」
ルミナスがフォークを片手にこちらへ向いて挨拶をするが、口のまわりがタルタルソースで白くなっている。
その様子にクスリと笑い、アイテムボックスから取り出したハンカチで口を拭ってあげると、嬉しかったのかニパッと笑った。
「おはよ、ルミナス。ご飯食べちゃいなさい。食べたら一緒にお風呂入ろうか?」
「!?わかったのじゃ!」
どうやらお風呂が大変気に入っているらしい。
フォークを握りしめて、すぐさま食事に集中しだしたルミナスを見て顔が緩んだ。
「出来たぞ!食え。」
「…」
「どうした?」
「いや、ユースケってマメだよね。」
苦い顔をしたユースケと共に食事を済ませ、待っていたルミナスとお風呂に向かった。
お風呂は凄かった。
魔法でお湯は適温に保たれ、常に浄化されているお湯は綺麗なまま。若干、硫黄の匂いがしたので温泉だろうか?興奮してのぼせるまで入ってしまったのは致し方ないと思う。
ルミナスとホールに戻ると、ユースケがお茶を飲んでいた。涼むためにユースケの前の席に座る。
「お風呂お先しましたー。」
「ああ。なぁ、お前、昨日の神竜の言葉、どう思う?」
「あぁ、あれね。よくわかんないけど、要約すると、やることあるから頑張って!元の世界にはもどれないけど。ってことでしょ?」
「……はぁ、お前に聞いたのが間違いだった。」
「なんで?」
「あの時、神竜はこれ以上は言えぬって言ってたよな?」
「うん。」
「それって誰かに口止めされてるってことじゃねぇのか?」
「そうだろうね。」
「いや、お前、そうだろうね。って。」
「うん、多分、口止めしたのもこの世界に呼んだのも、同じ人?だよね。でもそれってそんな重要?」
「…重要じゃ…ない。」
そうなのだ。誰の仕業かはわからない。
だが、神竜は元の世界には戻れないとハッキリ言った。
確実なのは、私達がこの世界で生きなくてはいけないということだけ。
今、私達が出来ることなんて…何もない。
「はぁ、そうだよな。考えるだけ無駄だってことか。」
「うん。いつ、時が来るのかも分かんないしね。」
「そりゃそうだ。よし!気分転換にどっか出掛けるか!」
「ほんと?じゃあ準備してくる!」
私とルミナスは出かける準備をするために部屋へ急いだ。
「で?あんた誰?」
準備が終わった私とルミナスはホールへ戻って来た。
出掛ける為にユースケを待っていたのだが、私達の目の前にはイケメンが立っている。
背は180㎝程だろうか。さらさらの銀の髪を肩ほどまで垂らし、切れ長の瞳は深い碧。スッと通った鼻筋に少し薄めの唇。
若干、中二病くさい容姿のまごうことなきイケメンがそこにいた。
イケメンはニヤリと笑うと、
「ユースケだよ。」
と爆弾を投下した。
「どちらのユースケさんでしょうか?」
私が胡散臭い顔でたずねると、ルミナスが、
「主様、この男はユースケ殿じゃ!同じ魔力を感じる」
と再度爆弾を投下。
私は頭を抱えることとなった。
かなりの高度な魔法で姿を変えたユースケと並んでユーランの街を歩く。
ユースケが高度という魔法なのだから、恐らく今の世では誰も見破ることは出来ないだろう。
辛うじて声は変わっていないが、爺の時も声は若いので、今の姿の方が違和感はない。
「で?何ですか?その中二心満載の容姿は。」
「フィーと街を歩くのに爺じゃ援交みたいだから変えた」
「いや、援交って‥…」
「それに、目の色と髪以外はリアルのままだぞ?」
「はぁ??あんたそんなにイケメンだったの?それでなんだって爺プレイなのよ。」
「楽しいから。」
もう何も言うまい。
街行く人の視線をビシビシ感じながら、ユースケお薦めの魔道具店に到着した。
扉を開けると狭い店内の中に所狭しと置かれている魔道具の数々に目を奪われる。
その中で一際私の目に留まったものがあった。
見切り品のワゴンの中に入っている古びた指輪。
だが、私はその指輪から目が離せなかった。
私の様子に気付いたユースケがワゴンの中から指輪を手に取り、カウンターにいるお爺さんの元へ持っていく。
戻って来たユースケはおもむろにその指輪を私に向かって放り投げた。
私はあわててそれをキャッチすると、先に店を出たユースケを追いかける。
「ちょ、まってよユースケ!」
「ん?」
「この指輪…」
「あ?欲しいんだろ?やるよ。」
「あ、お金…」
私がアイテムボックスからお金を出そうとすると手で制される。
「プレゼントだ。安物だけどな。お前にはピッタリの効果の指輪だよ」
「え?どういう意味?」
「は?お前気付かずに見てたのか?その指輪は精霊の力を増幅させる。あの店の爺さんが言うには、今の世は精霊と契約できる人間が少ないから買い手がいなかったんだと。」
私は手元にある古びた指輪を観察する。
ゴールドの環に不思議な模様が刻まれている。
古びているように見えるが、磨けばきれいになるだろう。
私は指輪から視線を上げるとユースケにお礼を言った。
拠点に戻り、部屋の中で指輪を磨いていると、ルミナスが後ろから覗き込んできた。
私は手を止めて振り返る。
「ん?ルミナス、どうしたの?」
「
その指輪、精霊文字が刻まれておるのじゃ。」
「精霊文字ってこの模様のこと?」
「そうじゃ。その指輪を主様がつければ妾はもっと主様の役にたてるのじゃ!」
ルミナスの言葉が嬉しくて、ルミナスをギュッと抱き締める。今でも充分なのに、もっと役に立ちたいと思ってくれることが嬉しかった。
早速、磨いた指輪をはめてホクホクしながらホールへ向かう。サイズの合う指が薬指しかなかったことと、剣を持たない左手ということで、左手の薬指にはめることになったが、深い意味はない。
絶対に!
ルミナスとホールへ行くと、イケメンバージョンのユースケがいた。
ユースケは私の左手の薬指にはまっている指輪をチラリと見ると、
「よし、今から王都に行こう!」
と言って、ホールの床に魔法陣を書き始めた。
「ちょ、ユースケ何やってんの!?」
「あ?魔法陣かいてんだよ、転移の。」
「え?転移って、魔方陣って。しかもギルドで魔法は使えないんじゃ」
「あぁ、うるせぇな、後で説明してやるからとりあえず来い!」
私とルミナスは、ユースケに半ば無理矢理、陣の上に乗せられ、混乱したまま拠点を後にした。
「うぅ、気持ち悪い」
無理矢理の転移で王都から少し離れた場所に一瞬で移動した私達は今、王都の冒険者ギルドの前にいる。
そして私は転移酔いというやつで、かなりグロッキーになっていた。
ここに着くまでにユースケから説明された話によると、ゲーム時代になかった転移という魔法は、この世界に来た時にはもう出来ていたらしいが、魔力をかなり使うので普通の人には発動すら出来ないらしい。
ギルド拠点で魔法を使えたことについては、ギルド改造した。の一言だった。
「うぅ、で?何で王都?何で冒険者ギルド?」
「あぁ、俺も冒険者ギルドに登録しようと思ってな」
ニヤリと笑いながらユースケが言った言葉に開いた口が塞がらなかった。




