大霊山
私達が食事を食べ終える頃、倉庫へ行ったユースケが戻ってきた。
私はゲーム時代と同じユースケのお気に入り装備を見て思わず微笑む。
「ん?食い終わったか。じゃあ行くか。」
ユースケに促され私達は拠点を後にした。
ユースケと共に街の外へ向かう。
すれ違う学生らしき集団がユースケに気付き、走りよってきた。
「教授!何処か行くんですか?」
「ん?あぁ、これから大霊山まで行ってくる。」
「大霊山!?何でそんなところに…」
「まあ野暮用だ。じゃあな。」
ユースケが話を打ちきり再び歩き出す。
私は笑いを堪えるのに必死だった。
「ユースケ…ププッ、教授って何?」
「うるせぇ、笑うな!今、魔法学院の教授やってんだよ。」
「教授って!ユースケが教授って!ハハッ。」
「…やっぱ帰るか。」
「ウソウソ、ごめん。教授!いいと思うよ、うん。」
大戦力のユースケを失わないように、慌ててフォローをする。
ユースケはまだジト目で見ているが笑顔で誤魔化しておいた。
そんなこんなしているうちに街の外へ着き、私達はドラちゃんの背にのり大霊山へと向かった。
「寒い!凍死するわ!」
ユーランを出発して約5時間後、大霊山の中腹の洞窟の中で、ドラちゃんのブレスで焚き火をたき、私は震えていた。
「我慢しろ!死にはしない。」
「いや、ユースケ、そんなこと言っても…てかなんであんたはそんなに平気そうなのよ!?」
「俺はローブに温度調節機能が付いてるからな。」
「ずっる、あ、私もその機能ついてるローブもってるわ」
「「『……』」」
全員の痛い子を見るような視線を受け流し、アイテムボックスからクリスの店で買ったローブに着替える。
寒さが和らいだ所で夜営の準備を始めた。
今日のメニューはシチューだ。寒いから。
ユースケの「俺が作るか?」という言葉を全力で拒否し、アイテムボックスから出した材料でシチューを作る。
これ以上、女としての自信を砕かれるわけにはいかない。
出来上がったシチューを皆で食べ、ユースケに結界を張ってもらって、早々と眠りについた。
翌朝、一人早く起きてしまった私は朝食の準備をする。
維持の魔法が掛かっている為、まだ燃えている
焚き火で野菜スープを作ると皆が起きてきた。
野菜スープとパンで簡単な朝食を済ませ、ユースケが魔法で出した水で顔を洗った後、今日の予定を決める。ちなみに、同じカンストプレイヤーなのに、何故魔法で適量の水を出せるのか?と聞いたところ、魔力操作が上手いからとの答が返ってきた。
閑話休題。
「ユースケ、ドラちゃんの背に乗って、ここから神竜の居る山頂までどれくらいで着く?」
「何事もなければ昼前には着くな。それからどうなるかは分からんが、臨機応変に対応するしかない。」
確かにそうだ。
「じゃ、出発しようか」
私達はドラちゃんの背にのり山頂へ向かった。
山頂に着いたのは昼過ぎだった。途中でワイバーンの群れに遭遇したからだ。
ところが流石は廃人コンビ、ワイバーンごときには梃子ずりもしない。
魔法でバンバン打ち落として終了だ。
数が多かったために多少時間は掛かったが。
山頂に到着すると、大きな洞窟から神竜が出てきた。
なんだか臨戦態勢なのは気のせいだろうか?
「ユースケ…」
「うん、まずいな。」
ユースケと二人で戦闘に備えようと私は剣に手をかける。
ユースケは杖を握っていた。
『おかあさん!』
ピリピリした空気の中、ドラちゃんが私達の後ろから神竜へ話し掛けた。
神竜は目を細め、ドラちゃんを確認する。
その間も私達への警戒は続いている。
『人間、我が息子をどうしようというのだ?』
神竜が話し掛けてきた。
私は此処へ来た経緯を神竜へ伝えようと口を開いた。
「私達はあなたの息子を此処に送り届けに来ただけです。」
『それは真か?』
「はい。」
『おかあさん、おねぇちゃんは、ぼくをたすけてくれたんだ。ほんとだよ。ぼくがわるいにんげんにころされそうになってたのを、おねぇちゃんがたすけてくれて、ここまでつれてきてくれたの。』
慌てた様子でドラちゃんが口を挟む。
神竜の警戒が少し緩む。
『人間、息子の言っている事は真か?』
「はい、真実です。」
『おかあさん、ぼくかってにでていってごめんなさい。まいごになってこわかった。ごめんなさい』
ドラちゃんの言葉で完全に神竜の警戒が無くなったのを感じて、剣から手を離し、思わず息を吐き出した。
『息子よ、母はもう怒ってはおらぬ。よく無事に戻ってきてくれた。それから人間、息子の恩人に対しての無礼な態度、すまなかった。この通りだ。』
神竜が私達に向かって頭を下げる。
ゲームでも見たことのなかったその行動に私とユースケは目を丸くした。
いち早く立ち直ったユースケが神竜へと向き直る。
「俺は何もしちゃいねぇ。ただユーランから此処まで一緒に来ただけだ。あんたの息子を助けたのはこいつだ。」
ユースケの言葉を聞いて神竜が私へと視線を向けた。
『人間よ。息子を助けてくれて礼を言う。私が授けられるのは知識だけだが、何か礼をしたい。何か聞きたいことはあるか?』
聞かれた私は迷いなく答えた。
「お礼は要りませんと言いたいところですが、一つだけ聞きたいことがあります。150年前に何がおきたのか教えていただきたい。」
『ふむ。いいだろう。150年前、この世界から大勢の人間が消えた。お主らはその時消えた人間であろう。お主らがこちらへ来たことには意味がある。だが、この世界の理に組み込まれた今、元へ戻ることは叶わぬ。これ以上は言えぬ。すまぬな。』
「いえ、充分です。ありがとうございました。」
私はペコリと頭を下げ、ユースケを見た。
ユースケは何やら考え込んでいるようだった。
私は神竜の隣に移動したドラちゃんに話し掛ける。
「ドラちゃん、また遊びに来るからね。」
『おねぇちゃん…』
「また会えるから。寂しくなったり困ったことがあったら、ネックレスに魔力を込めながら話し掛けて。私と話が出来るからね。あとこれ約束のお菓子だよ。」
私は擦り寄ってきたドラちゃんにアイテムボックスから砂糖菓子を取り出して渡した。
『おねぇちゃん、るみなす、ありがとう。』
「うん、元気でね。」
「元気で暮らすのじゃ。また主様と来るからの。」
ルミナスをチラリと見ると、どこか寂しそうに見えた。
なんだかんだ言っても一緒に居る時間が楽しかったのだろう。
私達はドラちゃんと神竜と別れを済ませ、山頂を後にした。




