ギルド拠点へ
宿に着いたが、そのまま部屋へ戻る気になれなかった私は、ルミナスとドラちゃんと共に旅の食糧を買いに市場に来ていた。
ルミナスとドラちゃんの食べたいものを買っただけだったので、思ったよりも時間が掛からず、宿へと戻ってきてしまった。部屋に入った私はいまだにさっきのカイルの言葉に引き摺られたままだった。
「主様、さっきの言葉を気にしておるのか?」
「ルミナス…うん、そうだね。私は何でカイルがあんな態度だったかわからないの。」
「妾は、カイルとやらは主様に頼って欲しがっているように思うのじゃ。」
「私に?」
「うむ。」
『ぼくは、かいるおにぃちゃん、さみしそうにみえた』
ルミナスとドラちゃんに言われると、なんだかそんなような気もするが、カイルを、あんなに温かい家族が居る人を、私の都合に付き合わせてはいけないという気持ちのほうが私の中では勝っていた。
「うん、どちらにしても、今回は大霊山。途中でギルド拠点にも寄ろうと思ってるし、カイルは連れていけないよ…」
そうなのだ。大霊山といえば、ゲームの中では、まごうことなき上級エリア。
大霊山程ではないにしても、ギルド拠点があるユーランも危険なエリアと言える。
いくらカイルが強いとはいえ、半分は完全な私用なのだから、私としては首を縦に振るわけにはいかなかった。
翌早朝、なんの答えもでないまま早起きして準備を整えた私達は王都を出発し、ドラちゃんに乗ってユーランへ向かっていた。
魔法都市ユーラン。
その名の通り、魔法職の聖地とも言われる都市。
人口の9割が魔法使いで、都市の中には魔道具専門店から魔法学院まで、魔法に関する建物がひしめいている。
私の所属していたギルド拠点は街の外れにあり、ギルド員以外にはわからないよう認識阻害の魔法が掛けてある。
ギルマスであり、カンストプレイヤーでもあるユースケが掛けた魔法なので、そうそう破られることはない。150年も経っていては、どうなっているのか甚だ疑問ではあるが。
ユーランの手前でドラちゃんから降りて街中へ向かう。念のため、ルミナスとドラちゃんには見えなくなってもらっている。
街へ入ると、王都との人種の違いに驚いた。
ほとんどの人がローブを着ているのだ。
ゲーム時代と同じ光景に思わず頬が緩む。
そのまま人をかき分けながら、街の外れにあるギルド拠点へ向かうと、発見した拠点は、ゲーム時代と全く変わっていないようにみえた。
入り口で認証を済ませて中へ入ると、一斉に明かりが灯る。
ちなみにこの拠点、魔道具での本人認証と、魔法干渉無効、更に自動で電気が灯るハイテク?仕様である。
「おおー!実際に見るとこんな感じなんだ!凄い!」
ギルドに入った途端、姿が見えるようになったドラちゃんとルミナスを連れて奥へと向かう。
ホールに入った私の目に信じられない光景が飛び込んできた。
「え?」
私の視線の先ではホールの椅子に座ってパスタらしき食べ物を口に入れているお爺さん。
見覚えのありすぎる人物である。
「な、な、ゆ、ユースケ!?」
お爺さんはパスタを口に入れたままこちらへ視線を移した。
「もぐもぐもぐ、ごくっ。んぁ?ああ、フィーか。あ、ルミナス久しぶり!」
「うむ、ユースケ殿、久しぶ「フィーか。じゃない!なんであんたがここにいんのよー!?てか、ルミナスも普通に返事するんじゃない!」
ユースケことハイエルフの魔法爺のギルマスがそこにいた。この人物、中の人は大学生らしいが、魔法使いと言えば爺だ!と言う偏った考えの拘りがあるくせに、言葉遣いはそのままという常人には理解出来ない思考の持ち主である。
指を差したままぱくぱくと言葉にならない私を見て、ユースケは言った。
「そんなもん、俺も飛ばされたからに決まってんだろーが。」
ユースケを締め上げた結果、色々なことがわかった。
ユースケは四年前、この世界に来た。
恐らく他にも何人かこの世界に来たプレイヤーがいる。
飛ばされた時間はバラバラで統一性がない。
なにが理由かは不明。
元の世界に帰る方法は見つかっていない。
とのことだ。
「うん。わかったけどさ、なんで他のプレイヤーが居るってわかったの?」
「ああ、なんか最近、王都の方で千体撃破したやつがいたらしくてな。今の時代に出来るやつが居るってのは考えられねぇし、プレイヤーだろ、それ。」
はい。身に覚えがアリスギマス。
「それ私だわ。ごめん。」
「……」
「で、でも、ルミナスいわく、なんか火の精霊王の契約主が突然現れたらしいからプレイヤーが他にも居るって可能性はあるよね、うん。」
「…はぁ、まぁいいけど。あんま目立つなよ?厄介事に巻き込まれんぞ。ってもうおせぇか。」
私の頭の上に居るドラちゃんを見て、ユースケが溜め息をつく。
「ハイ。ご忠告痛み入ります。ところで、これから大霊山行くんだけど一緒に行かない?」
「はぁ、やっぱそいつ神竜だったか。大霊山、大霊山ねぇ、別にいいけど、お前その装備で行くつもり?」
「なわけないじゃん!だから、ここに寄ったんだよ!」
「そゆことか。じゃあ準備してこい。準備できたら発つぞ。」
ユースケのその言葉に頭からドラちゃんを降ろし、ギルドの倉庫へ急いだ。
倉庫へ着いた私は自分のスペースからありったけのアイテムを引っ張り出し、幾つかのアイテムを身に付け、その他のアイテムをアイテムボックスへ仕舞い込む。
装備したアイテムは、魔法耐性付きのローブにミスリル製の鎖帷子、その上にMP自動回復付きのシャツに物理攻撃無効のズボン、ギルド員専用の通信ピアス、予備の両刃刀。ドラゴン相手に喧嘩を売れるチート人間の出来上がりである。
急いでホールへ戻るとテーブルの上には湯気を立てている三人前のパスタが置かれていた。
ドラちゃんはユースケと何やら話しているようだ。
「ユースケ…」
「あぁ、来たか、神竜に聞いたが飯まだだろ?それ食ったら行くぞ」
どうやら、私とドラちゃんとルミナスの食事を作ってくれていたらしい。
だが、それよりも気になることがある。
「ユースケ!?ドラちゃんと話せるの?」
「あ?ドラちゃん?ああ神竜か。当たり前だろーが。一定以上の魔力があれば誰でも話せる。まぁ、今の世界にゃ少ないだろうがな。それよりも早く飯食っちまえ!」
衝撃の事実を聞きながら、私達は食事を始めた。
料理スキルを持っているから当たり前だが、ユースケの作ったパスタは予想以上に美味しく、なんだか釈然としなかったのは余談である。




