カイルの想い
恋愛色強め。カイルの独白です。嫌な人は飛ばしてください。
「くそっ!」
フィーを宿まで送った後、自宅へ戻り足早に自室へこもったカイルは、部屋の壁に拳を打ち付けていた。
宿の前で別れた時の戸惑ったフィーの顔が頭から離れなかった。あんな顔をさせたかった訳じゃない。
フィーが俺を男として見れるようになるまで待つつもりだったのに。お茶会の最後にフィーから言われた言葉に焦っていたのかもしれない。
公爵家子息として生をうけた俺は、楽しくもない人生に辟易していた。
思ってもいない事を平気で口に出来る周囲の人々、地位を望む婚約の打診。
貴族という地位に魅力を感じず、冒険者になった。
それでも色眼鏡で見られる日々。
どこにいてもルーネストの名前が付いて回るのが嫌で、脇目もふらず、危険な依頼を受けまくった。
その甲斐あって冒険者としてのランクはすぐに上がり、二つ名持ちのAランクになるのに時間は掛からなかった。
それでも俺は求めていた。
自分が生きる意味を。自分が生きる理由を。俺を一人の人間として扱ってくれる人を。
枯渇していたと言ってもいい。
そして俺は見つけた。
父親とも知古の仲のエルダー商会の護衛任務の道中だった。
あと二日も歩けば王都だろうかという所で盗賊の襲撃を受ける。
ただの盗賊ならば、俺一人でも事足りる。
だが、運の悪いことにそいつらは元Aランクが集まったお尋ね者の盗賊団だった。
戦闘に入った俺達は少しずつ体力が削られ、もうダメかと諦めにも似た空気が漂いはじめた頃だった。
森から少女が現れ、盗賊団をたった一つの魔法で殲滅した。
そして血を流しすぎた俺はそのまま意識を失った。
俺は先の見えない闇の中をさ迷っていた。
ああ、俺は死ぬのかと漠然と感じた。
その時、温かい光が差した。
闇を払拭するような強く穏やかな光だった。
目が覚めた俺は生きている事に驚いた。
聞くところによると、どうやらあの少女が蘇生魔法を使って治してくれたらしい。
御礼を言うために少女に会った時、俺の世界は変わった。
珍しい黒い長い髪に紫色の吸い込まれそうな瞳。
何より、無事で良かったと向けてくれる笑顔。
少女の一挙一動に、俺の魂は震えた。
フィーと名乗った少女を知れば知るほど、惹かれていく自分を止められなかった。
王都に着いてすぐに旅に出るという彼女に同行する事なって、彼女から聞いた真実は、にわかには信じられる物ではなかった。
だが、俺にはもうそんなことは些細なことだった。
彼女を失うことなど考えられなかった。
もう出会う前には戻れない。
あんなモノクロの世界には。
彼女さえいれば、俺の世界は鮮やかな色に輝く。
フィー、気付いているか?時折、自分が寂しそうな顔で微笑む事に。
フィー、気付いているか?一人で泣きそうな顔をしていることがあることに。
お前が甘えられないなら、俺が甘えさせてやる。
お前が信じられないなら、俺が信じさせてやる。
お前を傷つけるものは俺が排除してやる。
だから頼む。
一人で泣かないでくれ。
恋愛感情でみてくれなくてもいい。側に居させてくれ。
俺が守るから。
フィー、お前は俺の生きる意味そのものなんだ。




