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ここって異世界ですか?  作者: 瑠紆
王都編
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ドラちゃんの気持ち


遅めの昼食を皆で取った後カイルと別れ宿へ戻り、預けていた鍵を受け取ろうとすると、宿屋の娘さんから手紙も一緒に渡される。

不思議に思って封筒の裏を見ると、差出人としてクリスの名前が書いてあった。


部屋に戻って手紙の封をあけて中身を確かめる。


「ええっと…はぁ、耳ざといというかなんというか…」


封筒の中には一枚のカードが入っていた。


【親愛なるフィー様

明日の午後一時から、当家の庭でささやかな茶会を開きます。ご都合がよろしければ是非、お友達も誘っていらしてください。

あなたの友人、クリスティーナより 】


「まぁ、確かにクリスとはお茶しようって約束してたからいいけどさ。クリスの家ってことは当然カイルの家ってことでもあるんだよね……」


先程別れたばかりのカイルの顔を思い出しながら、溜め息を吐き出す。

カイルから何も聞かされていないことを考えれば、恐らくカイルは知らされていないことなのだろう。


「それにしても…お茶会って何着てけばいいんだろ。」


暫く悩んだ後、午前中にでもクリスの店に行こうと考えた私はそのままベッドへ身を預けた。



話し声に目をさました私はむくりと起き上がり部屋の中をうかがう。

ソファーではドラちゃんと実体化したルミナスが、何やら言い合いをしていた。


「これは妾が主様から貰ったものなのじゃ!そんなに食べるでない!」


『えー、あといっこだけー』


ルミナスが大事そうに手のひらに乗せているのは、精霊の大好物である、砂糖菓子。

それを狙っているドラちゃん。

どうやら砂糖菓子をめぐる戦いが勃発しているようだ。

その微笑ましい様子を見て思わず笑みがこぼれる。


「ルミナス」


私が声を掛けると、私が起きたことにやっと気付いたといった様子のルミナスがこちらへ駆け寄ってきた。


「主様!神竜が妾の砂糖菓子をいっぱい食べるのじゃ!」


「はいはい、またつくってあげるから怒らないの。ドラちゃんにもつくってあげるから、ルミナスの分を取っちゃダメよ?」


ルミナスの頭を撫でながら、ドラちゃんの方を向いて言うと『はーい』との返事が返ってくる。

ルミナスはまだむくれているが、ひとまずは解決したようだ。



私はふと思う。

こんな時間がとても幸せだ。

元の世界で感じたことのない親愛の感情が沸き上がってくるのがわかる。

でも、この幸せな時間はいつまで続くのだろう。

歳の離れた妹のようなルミナス、たどたどしい話し方から自らの子供の様に感じてしまうドラちゃん。

ずっと共にありたいと。


でも、少なくともドラちゃんは母親の元へ返してあげなくてはならない。

寂しくないと言ったら嘘になるが、短い期間一緒にいただけの私でも感じる感情だ。

母親はさぞかし心配しているのではないだろうか。

そんなことを考えながら、まだルミナスの持っている砂糖菓子から目が離れない様子のドラちゃんに目を向けた。


「ねぇ、ドラちゃん」


『なぁにー?』


私が話し掛けると、ドラちゃんの視線が私の目を捉えた。


「明後日、王都を出て大霊山へ向かおうと思う。」


『…うん。わかった』


少し考えた後の肯定の言葉。

その後、アイテムボックスに残っている食糧でささやかな夕食を済ませ、お腹が膨れたルミナスとドラちゃんは眠ってしまった。

私は大霊山行きを告げた時の、ドラちゃんの寂しそうな顔が脳裏にやきついてなかなか眠ることが出来なかった。





翌朝、いつの間にか眠ってしまった私が目を覚ますと、ルミナスとドラちゃんはすっかり起きていた。


「主様、おふろにいきたいのじゃ!」


『ぼくおなかすいたー』


私が起きたことに気付いた二人?から声が飛ぶ。


「ん、おはよ。じゃあ、ルミナスは一緒に大浴場にいこっか。ドラちゃんはとりあえずフルーツで我慢して?後で皆で朝御飯買いにいこう。」


ドラちゃんに精霊の谷で貰ったフルーツをアイテムボックスから取り出して渡すと、ルミナスと大浴場へ向かった。





大浴場から戻り、ドラちゃんと合流して朝市へ向かう。

市場でいくつかのフルーツとケバブのようなものを買って宿に戻って朝食を済ませた私達は、今日の予定について話し合った。



結果、茶会の洋服を買いに行く間、ルミナスはウィンディに会いに行く(砂糖菓子を持って訪問)。

ドラちゃんはお留守番。

茶会へは全員で出席。(念のためドラちゃんは見えないようにして、ルミナスは実体化)

ということで纏まった。




ルミナスとドラちゃんと宿で別れ、貴族街にあるクリスの店を訪ねると、私に気付いたクリスが抱きついてきた。



「フィー!久しぶりね。無事で何よりだわ!」


「ええっと、クリス?お茶会、お招きありがとう。それで、今日、お茶会で着る洋服を買いに来たんだけど…」


友達に抱きつかれると言う経験がなかった私は戸惑いながら言葉を発する。

あわあわとしている私を見たクリスは笑いながら私を離してくれた。


「ふふっ、ごめんなさい。嬉しくてつい。お茶会来てくれるのね!嬉しいわ。でも、普段着で構わないのに。」


「そうなの?でも冒険者としての服しか持ってないし…1着くらい普通の洋服も欲しいと思って。あ、あと、子供服ってある?」


そうなのだ。

私はカイルと食事に行くときにクリスにプレゼントして貰ったドレス以外は、動きやすい旅の服しか持っていない。いくら、普段着で構わないと言われても、お茶会にそれで行くにはなんだか申し訳ない。

それに、実体化した時のルミナスの洋服も何着か買っておきたかった。ルミナスの洋服は、何故か汚れたり破れたりしないようなので、完全に私の趣味なのだが。


「そうね、フィーは可愛いから女の子らしい洋服を来たほうがいいわ。絶対!それにその方がお兄様も喜ぶだろうし。」


「ん?なんか言った?」


最後のほうが聞こえなかったので聞き返すと、笑顔で返されてしまった。


それからの私は大変だった。

きせかえ人形のように何着ものワンピースやドレスを試着させられ、魂が抜けそうになる頃にやっと二着の服と一足の靴を買う事が出来た。

薄紫のシンプルなデイリードレスと、薄紅色のワンピース、ベージュのショートブーツだ。

きせかえ人形になってヘロヘロの体を引きずりながら、なんとかルミナスの洋服も選び、クリスと午後にまた会う約束をして店を後にした。




宿に着いて部屋に戻ると、まだルミナスは戻っていないようだった。

ドラちゃんはソファーの上で寛いでいる。


「ただいまードラちゃん」


『あ、おねぇちゃん、おかえり』


私が声を掛けるとドラちゃんが返事をしてくれる。

が、なんだが声に元気がない。


「ドラちゃん?どうかしたの?」


私が心配になってドラちゃんにたずねるが、ドラちゃんは私の目を見たまま答えようとしない。

私はソファーに座り、ドラちゃんを抱き上げる。


「ドラちゃん?」


『あのね、ぼくはいらないこなの?』


衝撃がはしった。

今、ドラちゃんはなんと言ったのか?

もしかして、昨夜、大霊山行きを告げた事に対して何か誤解をしているのではないか?私はすぐさま否定を口にした。


「ドラちゃん、私はドラちゃんの事が大好きだよ。いらない子なんかじゃない!」


『ぼく、いらないから、やまにかえるんじゃないの?』


「馬鹿言ってんじゃない!ドラちゃんがいらない子な訳ないじゃない!」


私はドラちゃんをきつく抱きしめて、言葉を繋いだ。


「あのね、ドラちゃんの事は大好きだよ?でも、ドラちゃんにはお母さんが居るでしょ?お母さんは今も必死でドラちゃんを探してるかもしれない。私だってドラちゃんが居なくなっちゃったら必死で探すもん。だから、早く帰ってお母さんを安心させてあげなきゃ。」


『うん。おかあさんにあいたい。でも、おねぇちゃんやかいるおにぃちゃん、るなちゃんや、るみなすともはなれたくない。ぼくがやまにもどったら、もうあえないの?』


私の腕の中から抜け出したドラちゃんが私の目を見て聞いてくる。

寂しさと不安が入り交じった色に瞳が揺れているのを見て、私は自己嫌悪に陥った。

知らない内に、こんなにも不安にさせてしまっていたことに、自分が嫌になる。


「ドラちゃん。不安にさせてごめんね。ちゃんとお母さんの元へ帰してあげるから。それに、また会えるから。絶対に会いに行く!約束するよ。」


『うん。ぼく、まってる。』


私は再度、不安が完全に消えるようにとドラちゃんをギュッと抱きしめた。


「主様!ただいま帰ったの…ん?お主、神竜!何をしておる!主様は妾のなのじゃー!離れろ、離れろと言うに!」


『やだもん。おねぇちゃん、ぼくのだもん』


帰ってきたルミナスが地団駄を踏みながらドラちゃんを引き離そうとし、私の腕の中にいたドラちゃんが私にしがみつきながらルミナスへと喰ってかかる様子を見て、私は笑みをこぼした。




「もう、そろそろ準備してお茶会行くよ!」


私が離れても、まだじゃれあっているルミナスとドラちゃんに声を掛け、アイテムボックスから取り出した薄紫のドレスに着替え、以前クリスにプレゼントして貰ったパンプスを履いたら、光の精霊石のチョーカーをつける。

なんだか静まり返った二人?の様子に怪訝に思って振り返ると、ルミナスもドラちゃんもこちらを見てポカーンとしていた。

その様子に不安になって思わず自分の格好を確認してしまう。


「どっか変かな?」


「主様!綺麗なのじゃ!ずっとそのままでいればいいと思うのじゃ!」


『おねぇちゃん、きれー』


「うん、この格好じゃ旅ができないから却下。んで、二人ともありがとう。あ、そうだ、これ、プレゼント。」


私はクリスの店で買った洋服と青い石の付いたネックレスを取り出して二人に渡す。ネックレスはゲーム時代に手に入れたマジックアイテムだ。

二つで一つのアイテムで、持っているもの同士は通信石を通して通話が出来る優れものである。

しかも、対象の大きさによって勝手にサイズも変わる。ドラちゃんにはうってつけだろうと、昨夜用意しておいたのだ。


「この洋服はルミナスのドレス、このネックレスはドラちゃんのね。」


「『ありがとう』なのじゃ!」


薄桃色のドレスに身を包み姿を隠したルミナスとネックレスをつけたドラちゃんと共に宿を出てクリスの家へと向かった。






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