私は誰ですか?
チュンチュン
鳥の鳴き声で目が覚める。
「うーん、いい天気」
座って眠った為に、体が痛い。それを改善しようと小屋の入り口に立ち、勢いよく伸びをした。
昨日残しておいた、青林檎もどきを食べながら、今日の予定をたてる。
「何はともあれ、なんとかして森から出ないとね、近くに村とかあればいいんだけどなー、富士の樹海とかじゃないことを祈るのみよね」
独り言を言いながら、朝のストレッチをする。もし、途中で動物に出会ったら、全力で逃げなければならないので、いつもより念入りに体をほぐしていく。
近くの大木の下で青林檎もどきを2つ頂戴して、準備は万端だ。
「ホントはもうちょっと予備の食糧がほしいんだけどな。ポケットしか入れるとこないし、仕方無いか。よし、しゅっぱーつ!」
ザクッザクッ
歩くたびに枯れ葉を踏む音がする。
木々の隙間から日が差し込み、聞こえるのは鳥の囀りと、葉を踏む音だけだ。
「のどかだね~。歩けば森を抜けられると思ったけど、まだ先は長そうだなぁ」
もう体感的には1時間程歩いただろうか。未だ森の先は見えず、ひたすら歩くことしばらく、単調だった音に変化があった。
立ち止まって耳をすませてみると、確かに水の音が聞こえる。
音が聞こえるほうに進むと、森のひらけたところに小川があった。
「やった!水だ!」
小川を見つけるや否や、小走りで川縁まで急ぐ。昨日から水を飲んでいないのだ。カラカラの喉を潤すため、手で水を掬い一口、口に含んでみる。
「おいしい!飲める水でよかった」
何度も水を掬いあげ、喉を潤し、顔を洗おうと思って水面を見た瞬間、動きがとまる。
「え、ちょっと待ってよ!これ誰?」
水面にうつる自分の顔を見て思わず零れる驚愕の言葉。
それもそのはずだった。水面に映し出された顔は、馴染みぶかい自分の顔ではなかったからだ。
おそるおそる水面に顔を近づけ、もう一度観察してみる。確かに自分の顔ではない。だが、全く知らない顔でもない。
頭の中では答えは出ている。ただ、そんなことはあり得ない、と認めていないだけ。
「フィー」
力なく無意識に言葉が零れ落ちた。




