その先には
どんなときでも無情にも朝は来る。
テントの中で横になりながら一晩中考えていた。
カイルが何度もテントの中を心配そうに覗く姿も見えていた。
カイルの気配がするたびに寝たふりをするために目をつぶる。
私は逃げているだけだ。
そう、現実だと認めているのに考えないようにしていただけ。
ルミナスに会えば何か判るかもだなんて、何もわからなかったらどうするつもりだったんだろう。
次はどこにすがる?
誰に?何に?
「あー!!もうやだ!ウジウジ考えてても仕方ないよね!分からなかったら知ってるところを全部巡って150年前から生きてる人を探せばいいんだよ。エルフの人や、精霊、神獣、幻獣あたりなら何か分かるかもしれないし。分からなくてもこの世界で精一杯生きていこう!よし、決めた!そうと決まればちゃんとカイルに話そう。」
私がテントの外に出ると、木陰でカイルが座っていた。
私を見付けると気まずそうな泣きそうな色んな感情が入り交じった表情で、言葉を紡ごうとしては飲み込みを繰り返している。
「ふふっ、いい歳してなんて顔してるの?」
私が話しかけると、目を見張ってびっくりしている。その後フッと笑った。
「おい、いい歳ってなんだ!俺はまだ29だ!」
今度は私がびっくりする番だった。
「えーっ!私、35くらいかと」
「そりゃないだろぅ」
ガックリした姿が面白くて大声で笑ってしまった。
「フィー、無理しなくていいんだぞ?俺も昨夜は」
カイルの続けようとした言葉を自分の声で遮る。
「カイル、あのね、私もまだ何も分からないんだけど、話聞いてくれる?」
「ああ!」
私は今分かっていることを全て話した。
家で寝ていた筈が起きたら森の中だったこと。
自分の体と能力が3年前までやっていたゲームのキャラ(フィー)になっていたこと。
この世界はそのゲームの中だろうということ。
でも、この世界は現実だということ。
ゲームの世界というのがどういったものなのかという説明に時間がかかったが、おおよその事は理解してもらえた。
「つまり、精霊王と契約したのも、げーむの中だということか?」
「そう。ダンドルさんが今契約しているのが風の精霊王なの。私がこの世界から居なくなってどれくらいたってるかって聞いたら、ルミナスが私の魔力を感じられなくなってから150年だって。」
「そうか、精霊の谷にいけば何か分かるかもな。」
「分からなかったら150年生きてる人を捜そうと思うの。さすがに人族は無理だけど、エルフや神獣や幻獣ならって思って」
「分かった。俺も探してみる!」
「え?いいの?」
「ああ、それよりもお前は元の世界に帰りたくないのか?」
「あのね、私孤児だったの。親も居ないし仲の良い友達も居なかった。だから元の世界には未練はないの。もし、何も分からなくてもこの世界で精一杯生きていこうって思ってる」
「そうか、俺も協力するから、頑張ろう!よし、じゃあ出発するか」
「うん。」
何かが分かったわけでもない、現状は何も変わっていなくても、見上げた空はどこまでも青く、私の心を現しているようだった。




