旅の始まり
カイルに連れていってもらったお店はとてもおいしかった。
何故かカイルはお酒ばかり飲んでいたけど、最近ちょっとおかしかったから、何か嫌なことがあったんだろう。
レストランの帰り道、カイルは明日の準備があるからと、自宅に帰るようだったので、私はライオンさんなギルドマスターに明日から留守にすることを伝えようとギルドへ向かった。
Sランクが二人とも留守にすることをきちんと伝えなければいけないと思ったのだ。
宿をとるのを忘れていたので、ギルドでオススメの宿を教えてもらおうと思ったわけでは決してない。
ギルドの扉を開けてこの間の猫人族の女性のカウンターまで行くと、
「こんばんはですニャ、こんな時間にどうしたんですかニャ?」
と声を掛けてくれた。
「こんばんわ。えーっと」
「あ、私はミケと言いますニャ!」
「私はフィーです。ミケさん、あの、ギルドマスターは居ますか?お話したいことがあって」
「居ますニャ!呼んできますニャ!」
お礼を言おうとおもったのだが、凄いスピードで奥に入っていってしまった。
それにしても覚えやすい名前だなぁなどと考えていると、奥からギルドマスターがこちらへ向かってくるのが見えた。
「こんばんはギルドマスター、こんな時間にすみません。」
「いえフィーさん、かまわんよ。こんなところで立ち話もなんだから、奥へどうぞ。」
ギルドマスターに促されて本日2回目のギルドマスター室へ入る。
こんな'短い間に2回もここへ入った人はなかなか居ないだろう。
「どうぞ。かけてくだされ」
「失礼します。」
「それで、何かあったのかね?」
私に問い掛けながら、慣れた手つきでお茶を入れてくれている。
「いえ、明日から旅にでるんです。どうやらカイルも一緒に行きたいようで、二人で行く事になったんですけど、Sランクが二人とも留守にすることをきちんと伝えなければいけないと思いまして。」
「ふむ、なるほどなるほど。確かにランクの高い冒険者が王都から 居なくなることは不安ですが、私はどちらかと言えばルミナス様がお怒りになられた方が被害が大きいと考えていますのでな。」
発せられた言葉に、私がビックリして口をパクパクしていると、ギルドマスターはイタズラが成功した子供のような顔をして笑っていた。
「はぁ、全部ご存知だったんですね」
「いえいえ、実は先程までギルドマスター会議だったのです。フィーさんが手紙を持ってきたとあやつと話していましたら、どこからかウィンディ様が現れましてな、フィーさんの事を根掘り葉掘り聞くものですから、あやつが説明してくれたんですよ。」
なるほど。全部ウィンディのせいということだ。あやつというのはダンドルさんの事だろう。
「わかりました。では明日から暫く留守にします。帰ってきたらルミナスと一緒にご挨拶に来ますね。」
「なんと!ルミナス様にお会い出来るとは!楽しみにしております。お気をつけて」
「あ、ギルドマスター、この辺りにオススメの宿はありませんか?宿をとるのを忘れてしまって。」
「ふむ、そういうことならばギルドの二階が宿泊所になってますので案内しましょうか?」
「いいんですか?ありがとうございます。」
案内された宿泊所は綺麗で広かった。
ギルド職員もたまに泊まったりするようで、職員にも人気なんですよと、しきりにギルドマスターが宣伝していた。
確かにギルドの二階にわざわざ泊まろうという冒険者は少ないのかも知れない。
疲れていたようで、私はいつのまにか眠りに落ちていた。
翌朝、ギルドの隣の公衆浴場でサッパリしたあと、昨日クリスの店で買った下着とキュロット、シャツを着て、ローブを羽織り、カイルとの待ち合わせ場所に向かう。
待ち合わせ場所につくと、カイルはすでに来ていた。
「こめん、カイル待たせたかな?」
「いや、じゃあ行くか。」
この世界に来てから市場に来るのは初めてだ。
昨日カイルと街を歩いていて、ゲームの中の王都の街並みにと似ているところを探したが、見つけることが出来なかった。
そして朝市というものもゲームのなかにはない。
こうも一致しないものばかりだと、自分だけが150年前から時間が止まっているようで、強い孤独を感じた。
「おい!おいフィー!」
「あ、カイルごめん、ちょっとボーッとしてた。」
「そうか。」
「あ、あれ美味しそう!おばちゃーん、これくださーい!」
パスタや乾燥トマト、ニンニク、ハーブ類、鶏肉、野菜類、フルーツなど沢山買ってアイテムボックスに放り込む。
こういう時、時間の概念がないアイテムボックスは本当に便利だと思う。
アイテムボックスは珍しいものらしいが、魔法使いが使う空間魔法だと誤魔化している。疑われないということは以外と使っている人が多いのかもしれ
ない。
鍋やフライパンは錬金で作ればいいので、これで旅の準備は万端だ。
「でもカイル、ホントに食材買って貰ってよかったの?」
「ああ、フィーには食事を作ってもらうんだから、材料費は俺が出す。」
「そっか、なら、頑張って美味しいご飯作るからね!」
「ああ!楽しみだ」
私たちは王都を出て、精霊の谷へ向けて歩き出した。




