運命1(リリス視点)
この世界に来てから再会した仲間、そして一緒に戦った仲間と離れるのはとても辛く、何日も枕を濡らす日々が続いたけれど、私には、なさなければならないことが残っているわ。
それは『命を紡ぐこと』。
不遇種族と呼ばれた吸血鬼はゲームだった頃、私を含めたった数人しか居なかった。
けれども、その数人がこの世界に居ないとは限らないでしょう?
それに、もしかしたら吸血鬼という種族がこの世界にも存在しているかもしれないわ。
だって、精霊王だっているのだもの。
可能性はゼロではないわよね。
だから魔族との戦いが終わってすぐに拠点から離れ、旅に出たわ。
同族を探す為に。
なぜなら吸血鬼という種族は他種族と子をなせないから…。
ユースケが言っていたのだけれど、なんでも吸血鬼と他種族は遺伝子が違うらしいの。
それを聞いたときに目の前が真っ暗になるような気持ちになったわ。
恋だの愛だの信じていなかった私だけれど、この世界に来て、色んな人と触れあうことで、自分でも気付かない内に少しずつ変わっていたみたい。
だって私はもう有栖川の令嬢じゃないんだもの。
権力や名前など何も意味を為さないこの世界ではたった一人の女。
だから望んだの。
人を愛したい。そして私が生きた証として子供が欲しいと…。
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そうして同族を探す旅に出てから早いもので4年の月日が流れていた。
「ただいま戻りましたわ」
「あぁ、嬢ちゃん、今日はどうだったんだい?」
「駄目でしたわ」
「そうかい…まぁ、そんなに急ぐことはないさね!こちらとしても嬢ちゃんが来てから助かってるんだ。魔物に怯えることもなくなったしさ!気が済むまでここにいたらいいさ!」
「ありがとうございます」
御礼を言ってから階段をのぼる。
ここは大陸の外れにある村。
豊かとは言えないけれど、活気のあるこの村の村長宅に滞在するようになってから一ヶ月がたとうとしている。
私がこの村に来たのは、ある町で聞いた噂からだった。
『大陸の外れにある村の近くに大きな城があるらしい。なんでも城主は昼が苦手らしくて夜しか外出しないんだとさ。まあ、城があるっていっても見たものはほとんどいないようだがね。ただの噂だよ!』
ただの噂。
そう片付けてしまう事が私には出来なかった。
どの国にも属していない村の近くに城があることがまずありえない。
国王や貴族の別荘かとも一瞬思ったけど、それにしては不自然すぎる。
国属ではない場所にわざわざ別荘など建てる意味がないのだから。
それに昼が苦手な城主?夜しか外出しない?
それはもしかして…。
そう思ってこの村へたどり着いたはよかったものの、いまだに城主どころか城すら見つけることが出来ない。
だから諦めかけていたのだ。
所詮は噂でしかなかったのかと。
その夜、私の目に飛び込んできた光景を見るまでは。
そう。窓から外を眺めていた私が見たのは、村に隣接する山の中に悠然とそびえる大きな城だった。




