とある盗賊団の悲劇
ある馬車を狙って盗賊達が動き出す。
数はおおよそ20人といったところだろうか?
明らかに貴族の持ち物だと思われる豪華な馬車。
そこそこ名の知れた盗賊団の頭と呼ばれる男は上機嫌だった。
護衛が二人しか付いていない豪華な馬車が現れたのだから。
(久し振りのカモだな。男なら金品を奪って殺せばいい…女なら…楽しませてもらうか!)
地獄を見ることになるとは知らず、盗賊たちはニヤニヤと馬車を囲むように近付いた。
**********************************************
Side ???
「全く王にも困ったものだ…急ぎで戻ってきて欲しいなど…マージもそう思わんか?」
「はい。ですが王で御座いますから…」
侍従であるマージにそう尋ねれば、なんとも簡潔な言葉が返ってきた。
確かに我が国の王は良くも悪くも自由人だ。
「思いついたら即行動や!」などと毎日のように言っていることから、こちらのことなどお構いなしに無理難題を吹っ掛けてくる。
それでも仕えるべき主だと思えるのは、最終的にその判断が国にとっても民にとっても良い結果をもたらすからだ。
わかってはいる。わかってはいるのだが‥…せめて護衛を探す時間くらいは与えてほしかった。
そんなことを思いながらため息をつく。
「はぁ…もうすぐ王都か…隣国からここまで何もなかったことが奇跡だったな…」
「主様!そんな悠長な事をいっている場合ですか!」
マージの言葉は理解できるが、この状況は詰んでいる。
馬車から外を覗くと沢山の盗賊。
それに引き換え‥…こちらは護衛の冒険者が二名。
どう頑張っても無傷で王都の地を再び踏めるなどとは思えない。
しかも私は文官だ。
剣の腕などたかが知れている。
マージもしかり。
そんなことを考えていると、馬車の外が更に騒がしくなった。
沢山の悲鳴。
命乞いの言葉。
(なんだ?何が起きている!?)
護衛の数は二名だ。沢山の悲鳴が聞こえてくることなどあり得ない。
マージを見ても、訳がわからないと首をふっている。
そんなとき、馬車の扉が開けられた。
「大丈夫かい?怪我は…なさそうだね!もうちょっと掛かるからそこで大人しくしてな!」
逆光にてらされた女性は女神かと思えるほど美しかった。
私達の無事を確かめ、踵をかえした女性が心配で馬車の小窓から外の様子を伺う。
そこで見たのは…斧を振るい盗賊たちを相手に戦う女性…と仲間だと思われる男たち。
(強い!なんて強さなんだ!盗賊はもう残っていないではないか!)
マージもその様子を覗き見て呆然としている。
それくらいに戦いぶりは素晴らしく…そして美しかった。
戦闘が終わったのを確認した私は、馬車から飛び降りるようにして外へ出る。
むせかえるような血のにおいに吐き気がする。
「ほら言わんこっちゃない。だから大人しくしてろって言ったじゃないか…」
私が口を押さえたのを見て、女性は苦笑しながらそんな事を言った。
マージが女性の不躾な物言いに何か言おうとしたようだが、私は一睨みしてそれを制す。
「この度は助けていただきありがとうございました。お礼がしたいのですが…」
私が何とかお礼を言うと、女性は困ったように眉を下げる。
「うーん、お礼って言ってもねぇ…特に何にも要らないよ。間に合ってよかった。じゃあね!」
礼など不要と去っていこうとする女性に私は慌てて声をかける。
「お待ちください!私はマイケル・ルーネストと申します。どうか貴女のお名前だけでも教えていただけないでしょうか?!」
気がつけば叫ぶように名前を尋ねていた。
女になど興味がなく『仕事の鬼』やら『冷徹な宰相』ともよばれる私が。
それに驚いたのは私だけではなかったようだ。
「ルーネスト?あんたカイルの弟かなんかかい?まぁいいや。私は『姐御』って呼ばれてるよ。カイルの親類ならまた会うこともあるかもしれないね!じゃ!王都まで気を付けるんだよ!盗賊や魔物は退治しておいたからさ!」
そう言いながらヒラヒラと手を振る女性の後ろ姿に私は見とれた。
周りの男たちからは牽制するような視線が送られてきたが、そんなことはどうでもいい。
「マージ!すぐに王都へ戻るぞ!行き先はカイルの家だ!」
「は?王命はよろしいのですか?」
「それよりもやることが出来た!護衛は無事か?」
「はい。無事なようですが…」
「ならばすぐに出発だ!」
私は馬車に乗り込み、姐御という女性の事を考える。
さらりと靡く黒髪に肉感的な体。意思の強そうな黒曜石のような瞳。
何もかもが私の胸を掻き乱す。
(カイルの知り合い…というよりは友のような口調だったな。すぐにでもあの女性の事を聞かなければ…)
私はそんなことを考えながら帰途を急いだ。
口元に微笑を浮かべながら…
カイルは老け顔なので、兄であるマイケルは弟に見えたようです。
カイル…憐れなりww




