激闘2
悲痛な叫びが止み、ミナミは虚ろな目でブツブツと話し始めた。
その様子に攻撃していた姐御とカイルの手が止まり、私たちの方を向く。
戸惑いが隠せない様子の二人に目で注意を促しながら、私たちもミナミの動向をうかがっていた。
「…るさない…許さない!!人間ども!カナタを…私の愛する夫を!殺した罪をその身に刻めぇぇ!!」
私達が動向を見守る中、徐々に大きくなる声で憎しみを露にしたミナミの体周辺にどす黒いもやのようなものがかかる。
「まずいっ!狂人化です!」
ルマンさんの叫びにも似た言葉に、その場にいた全員が驚きを露にする。
「狂人化だと!?」
「はい!これも試験的な物でしかなく完成していないはずだったのですが…」
「ルマン!ご託はいい!説明を!」
「狂人化は言うなれば捨て身の最後の策…いえ、説明している暇はなさそうです」
ユースケとルマンさんの会話に耳を傾けていた私達はミナミの動きに気付くのが遅れた。
「主様!!!」
ルミナスの呼び掛けに答えようと振り向いた私の脚に走ったのは痛みよりも熱さ。
そこからとめどなく流れているのが自分の血だと気付いたのは、狂気ののぞくミナミの台詞を聞いてからだった。
「ふはははは!!王…いや、元王といった方が正しいのかしら?よくも私の夫を殺してくれたわね!死に逝く中で後悔なさい」
ミナミが何処からか出した黒い大鎌が私の目の前へと迫る。
(駄目だ、防げない…)
恐らく脚の腱を斬られたと思われる私は立つことすら出来ず、来るであろう衝撃に固く目を閉じる。
だが、予想に反して衝撃はいつまでたっても襲ってこない。
不思議に思い、目を開けた私が見たのはカイルとユースケがミナミと私の間に立ち塞がって、大鎌を結界と剣で防いでいるところだった。
「ユースケ…カイル…」
「フィー、喋るんじゃねぇ!ルマン!フィーに治療を!」
「やってます!ですが、傷が深く時間が掛かります!」
「何分だ?」
「え?」
「何分だと聞いている!何分止めればフィーは助かる?」
「あ、はい。血液、体力、魔力全て、20分程あれば完全に治すことが可能かと」
「ならばその時間、全力でフィーを守る!ユースケいいな?!」
「当たり前だ!リリス、姐御、サポートだ!」
「当然ですわ」
「わかってるよ!」
「わかってると思うが、20分ルマンからの回復は得られない。死ぬなよ!誰一人としてだ!」
「妾の主様を傷つけた罪、償ってもらうぞ!」
ルミナスの言葉に呼応するように色とりどりの強い光が集まり…そこで私は血液の流しすぎによって気を失った。
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Side ルミナス
「主様を傷つけた罪、償ってもらうぞ!」
怒りが妾の体を駆け巡る。
主様を守れなかった妾自身にも、目の前のミナミという魔族に対しても。
数えるのも億劫になるほど永い時を生き、ここまで怒りを感じたことはない。
空気中のマナが震え、妾の気が世界に満ちている気すらする。
それに呼応するかのように、知っている気配が4つ、此方へ向かっているのを感じた。
もう数秒ほどでここへ着くであろう。
「ユースケ殿、増援を呼んだのじゃ。もう着くであろう。」
そう妾が言い終わるかというところで強い光が妾の横へと現れた。
緑、青、水色、漆黒。
その光はすぐに人形へとかわり、姿を露にした。
地のフォレス、風のウィンディ、水のアクア、闇のダリア。
「精霊王たち…か…?」
ユースケ殿がそう言えば、全員がペコリと頭を下げる。
「ユースケ殿、回復はアクアに頼むがよい。」
「助かる…っっ!!」
そう言ったユースケ殿の顔が苦痛に歪む。
結界が破られそうなのであろう。
「アクア!」
「はーい。」
アクアがユースケ殿の魔力を回復すれば結界は強固なものとなり、戦況が持ち直したところで妾は皆に向き直る。
「皆の者、今、妾たちが敵対しておる相手は精霊の谷の大恩人でもある妾の主様を傷付けた。」
妾の言葉に主様を見る精霊王たち。
気を失った主様の痛々しい様子を見て、全員が怒りへと表情を変える。
「おねぇちゃんをきずつけるなんて!」
「…赦せない」
「主様を!何て事を!」
「……」
「ここにはフレイもおる。皆、持てる力を全て敵へと向けよ!これは光の精霊王ルミナスとしての命である!行け!」
妾の言葉に全員が力を発揮するべく動き出した。




