王都
魔物の大群を見事打ち破った面々は王都に向けて歩を進めていた。
討伐が終わったのは空が白むころ。結果、3時間弱程しか眠れなかったわけだが、皆の表情は疲れよりも今、生きているという歓びに溢れているように見える。
私はエルダーさんが勧めてくれた馬車を丁重にお断りし、冒険者の面々と馬車の護衛に当たっていた。
リクルさんも、既に元気そうで、後ろの馬車の護衛をしている。私はカイルと共にエルダーさんの乗っている真ん中の馬車の護衛をつとめていた。
王都まであと少しといったところだろうか。
急に真剣な表情になったカイルに声を掛けられる。
「な、なぁ、フィー!」
「ん?どしたの?」
「王都に着いたら話したいことがあるんだ!あの、だから、その、よ、夜にでも飯を一緒に食わないか?」
「べつにいいけど、カイルどうしたの?具合でも悪い?」
熱でも出たのかとカイルのおでこに手をあてると、茹で蛸のように真っ赤になって黙り込んでしまった。他の馬車の護衛をしているメンバーはこっちを見てニヤニヤしているし、リクルさんはアワアワしているし、何なんだろう?と首を傾げていると、前の馬車の護衛をしているナージャさんが、
「王都がみえてきたわよ!」
と皆に声を掛ける。私は王都の城壁を見ながら胸を高鳴らせていた。
王都に着いて護衛メンバー全員でギルドに向かう。
魔物の大群の討伐の報告と、護衛任務の終了報告だそうだ。
王都で護衛は終了らしく、エルダーさんにお礼を言うと、いつでも遊びにいらしてくださいと暖かい言葉をいただいた。
ギルドの入り口に着くと、その大きさに驚く。
「わぁ、おっきいねぇ、緊張する。」
「またかよ。戦闘中の度胸の1割でもありゃあな」
「良いのよ、フィーちゃんはそういうところがカワイイんだから」
「そうですよ。僕もそう思います!」
カイルには呆れられたが、ナージャさんにはウィンクされ、なぜかリクルさんまでもがナージャさんに加勢していた。
ギルドに入ると今までおしゃべりしていた人達がこちらのメンバーを見た途端に一気に静かになった。
皆はそれにかまわず受付へ一直線に歩いていく。
ボーッとしていた私は置いていかれないように急いで後を追いかけた。
皆が、報告をしている間に、 ギルドマスターから預かった手紙を渡そうと思い、空いているカウンターに向かう。
「あのー、すみません」
「はい、どうしましたかニャ?」
対応してくれたのは猫人族の若い女性だった。
「えっと、こちらのギルドマスターにお手紙を預かってきたのですが」
そう言って手紙を渡すと手紙を見たお姉さんは、
「ニャニャ?ニャニャニャ!」
と言って奥へ行ってしまった。
慌てていたのか、全く言葉が分からなかったのでそのまま待っていると、となりのカウンターからカイルの大声が聞こえてきた。
「だから、クプルの森の出口で魔物が1000体出たんだよ!ここにいる全員が戦って倒したんだ!」
「いえ、そういわれましても、剣聖はじめ、皆様がお強いのは分かりますが」
と困ったような声が聞こえる。
ギルドにいる冒険者達も殆どが聞き耳をたて、コソコソと話をしている。
と、カイルがこちらを向いた。
嫌な予感がする。
「そこにいるフィーが殆どの魔物を倒したんだ!」
はぁ、やっぱり。
ギルドにいる冒険者達の目線が私に集まる。
「静まらんか!」
まさに一喝。
ざわざわしていたギルドがシンとなった。
声の聞こえた方に向くとライオンなお爺さんがいた。
ライオンさんはこちらを向くと、
「あなたが手紙を届けてくださったかたかね?」
と優しそうな顔で聞いてきた。
「はい。」
状況についていけなくて辛うじてそれだけ言葉を返す。
「ふむ。剣聖たちと一緒にこちらに来てもらえますかな?」
その言葉に、私達は顔を見合わせて、ライオンさんの後を追いかけた。
ライオンさんはやっぱりギルドマスターだった。
「フィーさんといいましたかな?私はレオナルド、王都のギルドマスターをしておる。シュッペンのギルドマスターよりの手紙を届けてくれたこと、礼を言う。」
「シュッペン?あ、ああ、いえ」
町の名前を忘れていて一瞬どこかわからなかった。
恥ずかしくなって顔を真っ赤にして俯いていると、ライオンさんはにこやかに微笑んでいた。
皆の顔を見回したライオンさんは話を続けた。
「さて、先程の魔物が1000体出たという話だが、信じよう。ここにいる全員で討伐したということで間違いはないな?」
「はい、ですが、殆ど倒したのはフィーです。」
簡単には信じてもらえないと思っていたのだろう。ギルドマスターの言葉に皆、唖然としている。
いち早く立ち直ったカイルがそう答えると、
「わかっておる。」
とギルドマスターからまさかの返答が返ってきた。
思わず何でですか?と聞いてしまったのも無理はないと思う。
「我々獣人は相手の強さがおおよそ計れる。動物の本能というやつかの。さ、この話はもう終わりじゃ。受付でランクアップをしておいてくれ。剣聖とフィーさんはSランクじゃ。SランクはAランクの上じゃ。現在Sランクはお主ら二人だけじゃ。今回の事は、遅かれ早かれ知られることになる。流石にフィーさんをCランクには置いておけん。すまんの。その代わり、困ったことがあればいつでも言ってくだされ。」
そう言われた後、受付へ向かい、ランクアップをしてギルドを後にした。
「カイル、なんか大変なことになっちゃったね。」
「ああ、すまん。」
「何でカイルが謝るの?それよりも武器屋さん連れてってよ!楽しみにしてたんだから!」
「ああ、わかった。よし、行くか」
早いとこ気持ちを切り替えたほうがよさそうだと思った私達は武器屋に向かうことにした。
「ばっかやろう!おとといきやがれ!」
路地裏に怒声が響く。
「ね、ねぇ、カイル、もしかしてあそこって」
「ああ、俺の馴染みの武器屋だ!」
「えっと、私大丈夫かな?」
「大丈夫だろ。入るぞ。おーい、イドじいさん。」
裏からひょっこり出てきたイドじいさんと呼ばれた人はまさに職人な不機嫌なドワーフのお爺さんだった。
「なんだカイル、剣の修理か?」
「いや、こいつの剣を選びにきた。」
「この嬢ちゃんの?」
ふーんと言いながら、じろじろと鋭い目線が飛ぶ。するといきなり笑いだした。
「ハッハッハ!、おいカイル、面白い嬢ちゃんを連れてきたじゃねぇか!こりゃお前より腕がたつぜ。」
「なっ!」
カイルが目を見開いてブツブツ言い始めた。
俺より強いなんて男として守ってやれねぇなんてそんなとかなんとか言っている。
とりあえずそっとしておこう。
「あの、イドさん、はじめましてフィーと言います。剣を見せてもらってもいいですか?」
「おう、いいぜ!嬢ちゃんの今の得物はなんだ?」
「あの、実は剣をなくしてしまって」
私は剣をなくしてから魔法で戦っていたこと、自分の戦いかたなどを詳しく話した。
カイルはまだブツブツ言っている。
「そうか、前に使っていたやつはどんな感じの剣だったんだ?」
「えっと、ミスリルとアマンダイトの合金でエンシェントドラゴンの鱗を合わせた細目の両刃の剣です。」
「………」
「あの、イドさん?」
「おいおいおい!流石にそんな素材はねぇぞ!」
「あ、素材はあるんです。ただ レッドドラゴンの鱗になってしまうんですけど。すみません。」
言いながらアイテムボックスからミスリルとアマンダイトの鉱石とレッドドラゴンの鱗を数枚出してカウンターの上に置いていく。
イドさんが完全停止していた。
「あのー、やっぱりレッドドラゴンじゃダメですかね?」
「いやいや!だが、これじゃ素材が余るぜ?あ、ナイフを一本だけ作っておくか。旅をするときに便利だろ!」
「はい、ありがとうございます!それでも多少余ると思いますから残りは差し上げます。まだ沢山ありますんで。」
「いや、嬢ちゃん沢山って…ま、まぁ、とにかく剣は最高の出来にしてやる!金は要らねぇ!」
「え?でも」
「いや、要らねぇ!こんないい素材を触れるんだ。金なんて取ったら御先祖さまにしかられちまう。」
「わかりました。実は明日から旅にでるんです。精霊の谷まで行くので、鉱石があったら取ってきますね!」
「おう、たのまぁ!帰ってくる頃には出来上がってるようにしとくぜ!」
「はい、お願いします!ではまた」
呆然としているカイルを回収して武器屋さんを後にした。




