闇を溶かす
最果ての地への進攻までの僅かな間、私達は「どんなことになろうと後悔しないように」と、それぞれがやりたいことをして過ごした。
とは言え、一日は過酷になるであろう戦闘に向けての訓練で潰れたが。
斧の手入れをする姐御、瞑想するかのように目をつぶったままのルマンさん、私が昨日与えた血液を神妙な顔で飲むリリス、スキルの確認に余念がないカイル、そして久しぶりに見る完全武装に身を包むユースケ、そんな仲間の姿を見ながら、私は言った。
「そろそろ行こう」
もうすぐ日が暮れる。
「危険すぎる」との満場一致で留守番となった、ルナ以外の全員が転移陣へと乗り込み、再び目を開けたときには景色は全く違うものになっていた。
今や家である拠点から、荒れ果てた地へと。
「ここが…最果ての地…」
カイルの呟くような言葉は明らかに驚きを含んでいた。
姐御とリリスも呆然と立ち尽くしている。
それもそのはず、この地はゴーストタウンのように静かで人っ子一人見えないのだから。
ユーランにも負けないほどの広大な土地は枯れ果て、やっとのことで視認できるほどの距離に佇む城は、城なのにもかかわらず、栄華の欠片すら感じられない。
この地へ訪れた事がない三人が、こんな反応をするのも当然と言える。
ここは絶望が支配しているのだから。
「ルミナス、フレイ頼む」
「「わかった」のじゃ!」
ユースケに言われて二人が最果ての地を覆っていた結界を消し去った。
私から見ても綻びが見えていた結界。
この結界をもっと早く消すことができたなら…魔族は人を憎まずにすんだのだろうか?
幸せに暮らせたのだろうか?
そう思えてならなかった。
「フィー、考えるな。今は。」
(そうだ。今はこんなこと考えている場合じゃない!)
私の顔を見たユースケの言葉にしっかりと頷く。
全員の視線は、既に城へ向かっていた。
それを確認したユースケの一言が開始を告げる。
「行くぞ!未来のために!」
「「「「「未来のために!!!」」」」
心を言葉にのせた私達は大地を蹴って走り出す。
闇に溶けた私達を、闇夜に浮かぶ真ん丸な月だけが見ていた。




