双剣
「双剣??」
「はい。双剣です。」
「双剣って誰が使うんだ??」
「カイルです。」
「……」
何とか二人の言い合いを「いい加減にしてもらえません?」と絶対零度の声音で黙らせ、本題に入ったが、何言か話したら、イドさんはポカンと口を開けてしまった。
それもそうだろう。
今まで一振りの剣で、冒険者をやってきて、『剣聖』とまで呼ばれるカイルが、なぜ今更双剣を必要としているのかと不思議に思うのも無理はない。
というか、スキルの内容がわからないので、私としても説明ができない。
結局、スキル主流で戦うか、スキルを控えとして戦うかの違いでしかないが、まずはスキルの威力を確かめなければ始まらない。
そんなことを考えていると、イドさんは「ちょっと待ってろ!」と言い残して、奥へと何かをしに行ってしまった。
カイルと二人きりになったところで、カイルに尋ねてみた。
「怖くないの?」
「何がだ?戦い方を変えなければならないかもしれないということか?」
「うん。」
「確かに今まで培ってきたものを全て変えなければならないかもしれないというのは怖い。だが…俺は嬉しいんだ。」
「嬉しい?何で?」
「フィーや仲間に並べた事がだ。」
「そう…なら、スキルを頑張って自分の力にしなきゃね!」
「ああ、頼むぞ!先生。」
先生と呼ばれ、何だか照れくさくなる。
それにしても、カイルがそんな風に思っていたなんて知らなかった。
仲間内でただ一人、この世界の人間のカイルはスキルを取得していなかった。
それで少しでも私達に引け目を感じていたのなら、それは間違いだ。
カイルは強い。
スキルなしで戦えるのだから。
でもそれを言うのは違う気がした。
喜んでいるのなら、少しでも答えてあげたい。
そんな気持ちで、私とカイルが微笑みあっていると、イドさんが大切な物を扱うように、大きな包みを持って奥から出てきた。
その包みをおもむろにカイルへ渡すと、開けてみろと言わんばかりの目で私たちを見る。
その包みを開けた私達は驚きで絶句していた。
その様子に満足したのか、イドさんが得意気に話し掛けてくる。
「これは対の剣だ。片方が欠ければ片方もガラクタ同然になっちまう。俺の最高傑作だ!カイル!お前にやる!」
その双剣は魔力で満ちていた。
いや、マナを纏っているといった方が正しいのかもしれない。
片方の剣には水色の精霊石が埋め込まれ、もう片方には赤い精霊石が埋め込まれている。
見る人が見れば、光を発しているのがわかるほどに眩く輝いていた。
「イドさん、これって…」
私が声をかければ、イドさんはニカッと笑った。
「おう!嬢ちゃんにもらった精霊石で作った武器だ!」
「やっぱり!いいんですか?こんな…」
「そうだ。イドじいさん、俺にこんな貴重なもの…」
「良いってことよ!それにそいつは人を選ぶみたいでなあ。なかなか売れなかったんだ」
「そうでしょうね。精霊が沢山宿ってますから。」
私がそう口にすれば、イドさんとカイルは驚きながらもどこか納得のいったような顔をした。
どうやら魔力が備わったカイルは少しだが剣が光を放っているように見えたらしい。
まぁ、それはさておき、目的は予想以上に早く達成することができたが、さすがにここまで完成された剣を無料で貰うのは気が引ける。
私はアイテムボックスから幾つかの素材を選び、イドさんへと渡した。
勿論、カイルの取り分からである。
それを、半ば無理矢理といった形でイドさんに押し付けた私達は武器店を後にした。
そんな私達の後ろ姿を見ながらイドさんが「死ぬなよ。二人とも…」と言ったのには気付かずに…。




