新たな剣を手に入れろ
驚きすぎて食べた気のしない昼食を済ませ、私とカイルは二人でホールに向き合って座っていた。
カイルは「教えを乞うのだから」と真摯な目で私を見つめてくるが、私はというと…完全に困っていた。
何故なら、私ははじめからスキルを使えたからである。
それもそのはず、『そういうもの』だと思い込んでいたからだ。
ゲームだったのだから。
それを、ゲームなどしたことのないカイルにどう教えろと?
(くっそー、ユースケめ、これを見越して丸投げしたなー!)
などと怒りの矛先をユースケに向けながら、とにかく悩んでいた。
どう説明したらいいものか…と。
自慢ではないが、私は教えるのが下手である。
ガーッとやってバッと出すイメージで!という、昔、どこぞの野球監督であった長○さんくらいには。
(考えても仕方ないか…まずは剣を作ることから‥うん。そうしよう!)
自分を無理矢理納得させ、カイルに向き直った。
「よし、じゃあ、剣を作ろう!」
うんうん悩んでいた私が一転、明るく話しかけた事で虚をつかれた形のカイルが「あ、ああ」と答えたことで、王都へと移動することになったのだった。
もちろん、行き先はイドさんが営む武器店である。
自室にこもっていたユースケを引っ張り出し、転移陣を発動させて。
「また帰りに呼ぶから!」と、ユースケに強制的に約束させ、降り立ったのは久々の王都の正門前だった。
正門前はまだ整地が終わっていないようで、戦いの傷跡が残っていた。
ユースケの魔法でできたと思われる巨大なクレーター、鮮やかな緑の草木があったと思われる場所には姐御の斧で作られたと思われる爆心地のような抉れ、リリスの扇子の風圧で作られたと思われる不自然な草の向き。
それを目にした私は強烈に胸が痛むのを感じた。
(私はここでカイルを…)
記憶に新しいカイルを刺した時の生々しい感覚がよみがえり、カタカタと震えが襲ってくる。
「フィー、大丈夫か?」
そんな私を案じるようなカイルの声で正気に戻る。
「うん、だいじょ!?」
大丈夫だと伝えようとした私に被さる暖かなぬくもりに驚いて言葉がでなかった。
カイルに抱き締められていた。
優しく髪を撫でる武骨な手も、耳に届くカイルの少し速い鼓動も、全てが私を暖かく包む。
「フィー、誰も…一人としてお前を責めたりしない。だからもう泣くな。心の中であろうと。」
上から降ってきたカイルの言葉が胸に染み渡る。
そっとカイルの腕から抜け出し、私は見上げるように視線を合わせ、微笑んだ。
「ありがとう。」
感謝の気持ちを表す言葉が自然と口からこぼれ落ちる。
「いや」
口数少なくそれに答えるカイルに愛しさが込み上げた。
この感情の名前を私はまだ知らない。
「行こうか」
「ああ。」
そう言葉を交わし、私達は二人、王都の門をくぐった。
暫く歩くと目的地に着いた。
相変わらず、人を寄せ付けない雰囲気を醸し出している一軒の店。
只でさえ裏通りという不利な条件なのに、これでいいのかと思うが、店主があれだ。
それでいいのだろうと一人納得し、扉を開く。
「イドさーん!居ますかー?」
私が声をかけると、予想と反してイドさんはニコニコ笑顔で奥から出てきた。
「よぉ!嬢ちゃん。今日はどうした?ん?なんだカイルも一緒か。けっ!」
笑顔だったイドさんは、私の隣にいるカイルを見ると表情をいつもの不機嫌顔に戻す。
けっ!と聞こえた気がしたが、幻聴だろう。うん。そうにちがいない。
「おいおい、イドじいさん、俺へとフィーへの態度が違いすぎる気がするんだが…」
「あったりめぇでぇ!何が嬉しくて男に愛想振り撒かなきゃなんねぇんだ!」
うん。幻聴ではなかったらしい。
まぁ、私は女としてより、レア物を運んでくれる人として重宝されている気がしないではないが…。
とりあえず、そんなことより、未だ子供の喧嘩のような言い合いを続けている二人を止めて用件を伝えなければ…。
そう思いながら、私は人知れず一人ため息をついた。




