失念と決意
人生にはままならない事が多々ある。
私は生い立ちも手伝って、日本でそれを嫌と言うほど経験してきた。
望みが叶えられる事の方が少なかった人生だが、こちらの世界に来てからというもの、何だかんだで苦難を乗り越えてきた。
何度、駄目だと諦めかけただろうか?
犠牲が全くなかった訳じゃない。
それでも結果的には、何とかなってきた。
だから失念していたのだ。
この世界であろうが、世の中にはどうにもならないことがあるということを…。
そして今、私はそれを痛感していた。
ユースケが部屋から出ていって、どれくらいだろうか?
私は同じ場所から動くことが出来なかった。
魔族に対して何も出来ないことが悔しくて、そして、ユースケにあんな顔をさせてしまった事が情けなくて、脱力感と自分を叱咤し叫びたい衝動にとらわれていた。
『神だか何だかの意思だ』
と言われたら、もう何も出来ないではないか。
神竜でさえ従える大きな存在。
白い空間で自らを管理者だと名乗ったあの声は、世界の均衡を望んでいる。
それに抗い、この世界を破滅に追いやることなど、私には出来ない。
心の中で、ミナミとカナタにもう一度謝ってから、私は自室を後にした。
迷いを捨て、最後となるだろう大きな戦いに備えるために……。
たどり着いたホールには全員が揃っていた。
ユースケが話をしたのだろうか?
私を気遣うような視線が、皆から飛んでくる。
その視線に若干居心地の悪さを感じながらも、空いている席へと腰をおろした。
「皆、混乱させてごめん。」
そう一言告げると、姐御から焦ったような声が上がる。
「フィー、あんたの考えは立派だったよ!じゃなきゃ私だって納得しなかったさ。あの後、リリスやルマンにも話したんだよ?そしたら二人とも賛同してくれたんだ。」
「そうですわ。お姉さま。」
「私もそうです。そうなれば一番被害が少ない。そう思っていました。ですが…」
「ううん。いいの。ごめんね。私は自分の理想を押し付けて、現実を見ようとしていなかった。ユースケから話を聞いて、それがわかった。だから….」
俯いていた顔を上げて、私は全員を見渡し、こう告げた。
「進攻しよう。最果ての地へ。魔族を葬る為に」
それが皆がこの世界に呼ばれた理由。
私の独断を止めるために、管理者は仲間を与えてくれたのだと。
今ならわかる。
それがこの世界を救うための最後の希望であったのだと。
ねぇ?そうだよね?神様?




