襲撃
様子を見に行ったカイルが戻ってきた。
心なしか顔が青い。
「どうしたの?カイル?」
私が尋ねると、カイルは真剣な顔で信じられない言葉を吐いた。
「魔物の群れが向かっている。あと10分ほどでここに到着するだろう。数はおよそ1000。視認出来たのはワイルドドッグ、リザードマン、ゴーレム、上空にワイバーン10体。他は暗くて分からなかったが草原が魔物に埋め尽くされるのも時間の問題だ。」
話を聞いていた私以外の人達の顔が絶望に染まる。
そんな中で私は違う事を考えていた。
「(ん?魔物が1000体、ワイバーンが10体?草原が魔物に埋め尽くされるってどっかで、あっ!新地区解放のクエストだ!)」
通称、鬼畜クエスト1000人斬り。レベル帯がバラバラの魔物1000体を1体も逃がさずに討伐すると新地区が解放されるという中級クエスト。
選ばれる魔物は平均レベルでランダム決定なので、スライム+ドラゴンとか、最弱モンスターと上位モンスターの組み合わせなども稀におこる。
あくまで1000体の魔物のレベルを足して1000で割った時にクエストの平均レベルになればいいのだ。
それが鬼畜クエストと呼ばれる由縁である。
中級者にドラゴンなどけしかければ早々に死んでしまう。運任せなところが大きいので、luckの値が高いプレイヤーを連れていないといけないだとか、とにかく不評なクエストで運営に苦情が殺到したらしい。
それはともかく、鬼畜クエストにこのメンバーでは正直辛い。
私もメインウェポンの剣がない状態では3割程しか力が出せない。
「あの、余ってる剣ってありませんか?」
「フィー!流石にこれは無理だ!」
「カイル、私は諦めない。行かないならカイルの剣を貸して。」
「くそっ、皆!迎撃するぞ!俺が先頭にでる!フィー、馬車の中に俺の予備の剣がある。」
「カイル待って!先頭には私がでる!剣があるなら本気で相手をするわ。じゃなきゃ勝てない。リクルさん!」
「はっ、はい!」
いきなり名前を呼ばれたリクルさんは肩をビクッと震わせて私を見た。
「上空への攻撃を魔法でお願いします。墜落させなくても構いません。地上の魔物の応援にまわらせないように、足止めをお願いします。行きますよ!」
ナージャさんが取ってきてくれた剣を受け取って私は走り出した。
草原には魔物が蠢いていた。
私はその中心点に魔法を放つ
「アイシクル・ブラスト」
「サンダーレイン」
氷で凍らされた魔物は、そのままパリパリと氷の砕ける音と共に動かなくなった。
雷の雨に打たれた魔物はそのままポロポロと使い終わった炭のように崩れ去った。
あと、800体。
「カイル!ワイルドドッグの群れを流すからお願い!」
「おう!こいつらなら何匹居たって大丈夫だ!一匹も逃がしゃしねぇよ!」
「お願いね!私は前線まで行ってくるから!剣借りるよ!」
「っておい!」
カイルの後ろでは冒険者メンバーの皆が剣や槍を片手に奮闘している。
その後ろには弓で迎撃するナスカさんと、魔法を打ち続けるリクルさん。リクルさんはフラフラしながらも必死に詠唱を続けていた。
「(まずい、魔力切れが近い?リクルさん!あともう少し頑張って下さい!)」
私は皆の戦う姿を目に焼き付けながら駆け出した。
残り500体。
前線。
数を半数に減らされた魔物たちからは、最初の勢いが無くなっていた。
「(ここで一気に畳み掛ける!)」
剣を構え、剣に魔力を纏わせる。
「桜花乱舞!」
ゴーレムやリザードマンの集団に突っ込み、剣舞を発動させる。
『桜花乱舞』は、魔力を纏わせた剣で剣舞を舞うエクストラスキルだ。高速で舞う剣の煌めきが、桜が乱れ舞っているように見える。
魔力を剣と自分自身の身体強化に使うのが、発動条件の一つなので、かなり魔力を使う。MPの値が高い剣士という、難しい条件をクリアしなければスキル獲得ができない。
魔物の集団のなかに桜の花弁が散る。
「よし、もぅいっちょ!」
同スキルをもう一度発動させて、さらに魔物の中心へと飛び込んでいった。
残り100体。
一旦カイル達の所に戻り戦況を確認すると、ちょうどリクルさんが崩れ落ちる所だった。
「リクルさんっ!」
急いで走り寄り支えると、リクルさんが真っ青な顔で笑った。
「フィーちゃん、僕、やったよ。正直ここまで魔力が持つなんて。ワイバーンはだいぶ弱ってるはずだから、後はお願いね」
リクルさんは私が頷くと同時に目を閉じた。
魔力が回復するまで休ませてあげないと。
私は馬車にいたエルダーさんにリクルさんを預け、カイルの元へ向かった。
「カイル戦況は?」
「ここにははもう殆ど魔物はいねぇ。あとはあいつらに任せて置けば大丈夫だろ。」
カイルが後ろで戦っている冒険者メンバーを差して言う。
「そっか。魔物はあと100体。リクルさんが頑張ってくれてワイバーン10体はだいぶ弱ってる。もう一回前線に行ってくる!」
走り出そうとすると、袖を掴まれる。
「待て。俺も行く。」
「わかった」
前線。
私とカイルは鬼神のごとく剣を振るった。もうスキルを使うだけの魔力はない。
ワイバーンとの戦いに残しておかなければならない。
純粋な剣技のみ。
残り30体。
「カイル!ワイバーン行ってくる!後お願い!」
「わかった!気を付けろよ!」
私は弱々しく旋回しているワイバーンを見上げた。
「フレイム」
上空を旋回しているワイバーンは1体、また1体と炎に焼かれて墜落していく。最後の1体が地面に落る。
「終わった―。あ、カイル!」
カイルの方はどうなったかと振り向いて名前を呼ぶ。
そこで見たのは、最後となった魔物から剣を引き抜き、仲間に駆け寄られるカイルの姿だった。




