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01

「めでたしめでたしの黒幕」の続編です。



さて。


困ったことになりました。



晴れて家主さんの元に帰り、受け入れてもらった私ですが、昨日まであったあるものが無いことに気付いたのです。



これまで私が使っていた簡易ベッドがありません。





もともと家主さんが一人で暮らしていたこの家は、そんなに大きくありません。


玄関から入るとまず土間兼作業部屋があります。


森で積んできた薬草たちで家主さんがお薬を作る部屋です。


真ん中に大きな作業台があって、周りには天井まである棚が並んでいます。


棚の中には古びた本や、道具やストックの薬草や薬が閉まってあります。


大体は午前中家主さんは薬草摘みにでかけ、午後からここで薬作りをします。


午後になると日の光が入ってとても気持ちのいい場所なんです。


なので、私も掃除が終わって時間を持て余すと、家主さんの隣で縫い物をします。


縫い物は、「ここに置いてもらう間何かしたい」と申し出た私が、家主さんから貰ったお仕事です。


せっせと縫い物をしていると、たまに隣から寝息が聞こえてきます。


寝顔が少年みたいな家主さんです。


本人には言えませんが、あどけなくて可愛いんですよ。


しっかり寝ているのを確かめたら、こっそり家主さんの髪の毛で遊びます。


日に透かすと綺麗な琥珀色で、うっとりします。



作業部屋の奥は、キッチンもダイニングもリビングも寝室も一緒になった大きな部屋があります。


所謂1Rというやつでしょうか?


家主さん曰く、一緒のほうが便利でしょ?とのことでした。


広いし、寝室に当たる部分は一応パーテーションで区切られているので、慣れてしまえば家主さんの言うとおり便利でした。


それに、


いつもどこかに家主さんの姿が見えるのが、嬉しかったり。



さて、その部屋の中にベッドは一つでした。


そこで家主さんが私のために、古くなった長椅子を使って簡易ベッドを作ってくれました。


当初は、家主さん自身がそちらに寝るつもりだったみたいですが、そんなこと恐れ多くてできません。断固阻止しました。





その、簡易ベッドがないのです。




確かに、私がいなくなれば無用の長物。


家主さん、のんびり屋さんに見えて、行動が早いです。


少し、チクリと胸が痛みました。


家主さんが作ってくれた簡易ベッド。


これまで毎晩お世話になっていて、愛着もあったんですが、


何より。

それがない、ということは、家主さんは私が戻ってくるなんて思ってなかったと言うことです。



そう思うと、胸がぎゅっと痛くなって、涙が出てきました。



家主さんは今お風呂です。


じゃんけんで私が勝ったので、今日は私が先に入り、今家主さんの番なんです。


よかったです。


この部屋だと泣いていたらばれてしまいます。



でも、と私は思いました。


私がこの家に帰ってきて家主さんが言ってくれた言葉。


『おかえり』


『ずっとここに居ていいといったよ』


そう言って、抱きしめてくれました。



家主さんは嘘つく人じゃありません。


もしかすると、簡易ベッドは老朽化とかそういう理由で撤去されたのかもしれません。




家主さんはここにいて良いといったんだから、良いんです。そうです。



ヨシ、と私は寝巻きの上に外套を羽織りました。



家主さんに、ここに居て良いというお墨付きを貰ったんですから、寝る場所は自分で確保しようと思うのです。



簡易ベッドはまた家主さんに手伝ってもらって作ることにして、今日はソファに寝かせて貰う事にしようと思いますが、上掛けがないとやはり寒いと思ったのです。


家主さんなら自分の分をと貸してくれるでしょうが、駄目です。


家主さんが寒がりなことは知っています。


親しき仲にも礼儀あり。良い言葉です。



この家の裏には小さな小屋があります。

たしか長椅子も最初はそこに閉まってあったんです。


もしかすると、そこに上掛けもまた閉まってあるかもしれません。


それを取ってくるくらい私にだって出来るはずです。



ガチャリ



扉を開けて外にでると、ひゅっと冷たい風に鼻がツンとなりました。



けれど屋根からぶら下がった橙の灯りに心が温かくなります。



以前外にでると真っ暗で怖い、と言ったら家主さんが用意してくれたものです。


この世界には電気はないですが、魔法があり、この橙の灯りも魔法の力を使った石のお陰だそうです。


本当に不思議な世界です。



さ、上掛け上掛け・・・


ぐい!


「ぅわ!」


仰け反ると、家主さんが。


ぎょっとしました。


まだ髪も濡れたままでお風呂上りの薄着の家主さんが、青い顔で私の手を引いていたんです。


「や、家主さん!」


「どこいくの?」


「ちょっと小屋に・・て、何してるんですか!」


「こっちの台詞だよ」


「風邪ひきますよ!・・あぁ髪からまだ水が・・」


家主さんの肩にかかっているタオルで髪を拭いてあげます。


家主さんってのんびり屋さんのようで、無鉄砲です。


「早くお部屋に入って下さい」


ぽかんとしている家主さんの手を引いて暖炉の前のソファに座ってもらいました。



「駄目ですよ。ちゃんと髪乾かさないと」



上掛け探しは一時中断です。まずは、家主さんの髪をしっかり乾かさないと。





「・・・・」


「え?」


家主さんの呟きは聞こえませんでした。


「・・そういえば、どうして小屋なんかに?」


「あの、上掛けをとりにいこうかと」


「上掛け?」


「・・はい。あのベッドが」


言いよどむと、家主さんはあぁと納得したようでした。 



「あのベッドね、もういらないかと思って捨てちゃった」



そう言って、家主さんはにっこり笑うとギュッとわたしの手を握りました。



私は、そんなあっさりとすてられるものだったのか・・とちょっぴり悲しくなってしまいました。


いやいや、ウジウジしないと決めたばっかりです。



「わ、わたしソファで寝ていいですか?」


「なんで?」


首を傾げて、そんなじっと見つめられると、恥ずかしいです、家主さん。


「え、と。だって、あの、ベッドが・・」


「駄目」


却下されました。


ではどうしたらいいですか、そんな気持ちを込めて家主さんを見ると、家主さんは楽しそうに笑っています。


「ベッドならあるよ?」


ぞくぞくぞく


耳元で囁かれて思わず私はビクリと震えてしまいました。


近いです、家主さん。ちゃんと聞こえます。





「一緒に寝ればいいでしょ?」



家主さんが爆弾を落としました。














のんびり続きます。



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