婚約キャンセル界隈〜婚約破棄されたおかげで素敵な友人ができました〜
「なんかつまんない女なんだよな。愛想もないし。ということで、婚約破棄したい」
とある舞踏会の夜だった。私は貴族界隈の作り笑いにウンザリしつつも、将来の伯爵夫人になるわけだから頑張って口角を上げていた。それなのに、婚約者のアルバルトにそう言われた。まるで、近隣の図書館に行ってくるみたいな軽いノリで。
「え?」
「というわけで婚約破棄だ、ベレニス・バイエ。二度と会うことはないだろう」
頭の中は真っ白だった。これといった理由もなく、婚約破棄されるなんて想像もしていなかった。
その後、貴族界隈にこの婚約破棄の噂が流れた。見事にデマばかり。私が浮気したとか、金を使い込んだとか。元々さほど裕福でもない男爵令嬢の私、どうすることもできず、毎日泣いていた。
そんな時だった。一通の手紙が舞い込んだ。メイドから渡されたが、見知らぬ名前が書いてある?
「アレッシア・バルゲリー? どなた? なんでわたしへ手紙?」
便箋は繊細なすみれ色だ。悪意があるようにも思えず、中を開けると……。
「え? 婚約破棄おめでとう? 婚約キャンセル界隈にようこそって何?」
手紙を読み進めると、婚約破棄された令嬢のグループがあるらしい。月に数回、お茶会を開き、婚約破棄ライフを楽しんでいるという。その名前も婚約キャンセル界隈。主催はアレッシアだというが。
「婚約破棄ライフを楽しむ? 私の気も知らないで……」
この手紙もイタズラかと思ったが、メイドに聞くとアレッシアは語学や乗馬も優秀な伯爵令嬢らしい。メイドたちの噂では、アレッシアは優しく人望もあるので、彼女に家に行きたがるメイドも多いらしい。
そんな話を聞くと気になるじゃないか。毎日泣いて過ごすわけにもいかないし、婚約キャンセル界隈をこの目で確かめに行こう。
場所は王都で一番大きなティールームだ。なかなか予約が取れないことでも有名だが、とにかく行ってみることにした。
「おめでとう、婚約破棄!」
なぜか拍手で出迎えられて面食らう。何この会合。アンティークのテーブルの上にはケーキやお茶が並び、本当に何かのお祝いみたいだ。勘違いしそう。
三人の令嬢がいた。一人はアレッシア。すぐにわかった。一人だけ背が高く、目立っていたし。
「アレッシア・バルサリーですわ。この会合の主催者です。なんと婚約破棄は三回も受けていますの。もう名誉だわ」
あっけらかんと笑っている。今まで泣いていた私、なんだったの?
「初めまして。私はブリジッタ。隣国の伯爵令嬢だけど、面白いから参加中」
ブリジッタは色が白く、妖精のような雰囲気だ。こんな美人も婚約破棄されたの? 信じられない。
「私はカリーナ。毒物や化学の知識があるわ。元婚約者に復讐したかったら言ってね。毒物の知識は教えてあげる」
なんて物騒なことをいう。思わず引くが、冗談だったらしい。みんなケラケラ笑い、お茶やケーキを楽しんでいる。
それに初対面の私にもみんな優しい。同年代の令嬢ってマウント合戦ばっかりだったのに。ここでは「今夜破棄」という共通点しかないのに。
「さあ、ケーキを食べてお茶も飲むわ。見て、このケーキ。綺麗なマスカットのケーキよ。お茶もいい匂い。クズみたいな元婚約者のことは忘れましょう」
アレッシアに励まされ、ケーキの味はさらに甘く感じられる程。
「嬉しい。みんな、こんな良くしてくれるなんて!」
思わず歓喜の声を上げた時だった。なぜかアレッシアがニヤリと笑ってる。アレッシアだけじゃない。ブリジッタやカリーナも。特に毒物マニアだというカリーナがニヤっとすると少し怖いのだが。
「あなたの元婚約者、私たちもちょっと調べてみたわよ」
カリーナはさらに続ける。
「大変な浮気性らしいわ。うちのメイドもちょっかいかけられたって」
「私も〜。うちの国でも庶民の女と遊んでるって」
ブリジッタもニヤっと笑って教えてくれた。見た目は妖精みたいなのに、目はやたらと黒々しているのは気のせい?
「これが私たちが調べた情報のまとめたものね。あの男、ひどいわ〜。過去に女を妊娠までさせて捨てたみたいよ。隠し子もいるって」
アレッシアから教えてくれる情報も、どれも衝撃的だった。
「ま、まさか……。そんな男だったなんて……」
「ね、良かったでしょ。婚約破棄されて。おめでとう」
アレッシアの声は優しく、別の意味で涙が溢れそうだった。
その後、元婚約者の噂が流れ、私の評判も回復していった。婚約キャンセル界隈のみんなが噂を流してるという話も聞いたが、そんな証拠は見つからなかった。婚約キャンセル界隈は限られた令嬢しか入れない秘密の倶楽部だから。
私はすっかりこの倶楽部を気に入り、毎回アレッシアたちとお茶会を楽しんでいた。貴族界隈の情報を交換しつつ、お茶やケーキを楽しむだけ。
そんなある日、舞踏会に参加することになった。アレッシアやブリッジト、カリーナも参加するという。
「みんな!」
婚約キャンセル界隈のみんなと会うと嬉しい。今日はみんなの為に着飾ってきたようなものだ。
「ベレニス、今日は一段と美しくない?」
アレッシアに褒められると、顔が真っ赤になってしまうぐらい。
その時、背後に視線を感じた。くるりと後を向くと、元婚約者がいた。一応着飾ってはいたが、顔に疲労が濃く、ちっとも幸せじゃなさそう。しかも私を見て悔しそうに歯軋りまでしていた。
「そ、そんな着飾って、本当は美人だったのかよ……」
小さな声が聞こえたが、気のせいかもしれない。何はともあれ、今日は素敵な友人たちと優雅に踊りたい。




