ティナstory.見えなかった背中
正直に言うと――
わたし、めちゃくちゃ怖かった。
あのとき。
遺跡に続く森で、魔物が現れた瞬間。
ラオンはすぐ前に出た。
迷いも、躊躇も、声掛けもなく。
それが「正しい判断」だってことくらい、わかってる。
魔術師が前に出て、後衛を守る。
教科書どおりだ。
でも。
(……行かないで)
心の中で、そんなことを思ってしまった。
影が1歩近づくたび、
爆発音よりも大きく、心臓が鳴る。
ラオンは強い。
それは疑いようがない。
でも――
強い人が、無事で帰ってくる保証なんて、どこにもない。
(わたし、足手まといだよね)
走り出したら邪魔になる。
叫んだら集中を乱す。
近づけば、守るために余計な魔力を使わせる。
だから、わたしは動かなかった。
ただ、祈っていた。
(お願い。勝って。
……怪我しないで)
魔術が閃き、魔物が倒されたとき、
膝が震えて、その場に座り込みそうになった。
ラオンは、何事もなかったみたいに戻ってきて、
「怪我は?」
そう言った。
その声が、あまりにもいつも通りで。
ああ、この人は――
自分が怖かったかどうかなんて、
きっと、考えもしないんだ。
「だ、大丈夫……!」
笑った。
ちゃんと笑えたと思う。
でも、胸の奥では、
何かが少しだけ、ひび割れていた。
(この旅、わたしだけが怖いんだ)
ラオンは、怖くない。
感情がないから。
だから、
わたしが怖がる理由も、
きっと、わからない。
――それでも。
(それでも、隣にいたい)
この気持ちに名前をつけるのは、
まだ、早い気がした。
これは、片想い。
そういうことに、しておこう。




