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新釈古事記伝  作者: りんたろう
9/14

9.天岩戸伝説

ツクヨミが高天原の入口に着くといつも通り白鰐の一族の若者が門番をしていた。


「ご苦労さま。

 アマテラス様はお出ましになられたかな?」

とツクヨミが声をかけた。

 三貴神のツクヨミに労われた若者は嬉しそうな顔をして答えた。

「いえ、まだです。

 ただいまアメノウズメ様が舞台衣装にお着替えになられているとのことです。

 ウズメ様の踊りでより盛り上がってアマテラス様をおびき出そうとオモイカネ様がご提案されまして。

 皆様お酒が回り始めたようで盛り上がり、ウズメ様のご準備ができるまで

 我らの姫の剣舞をねだられ、ただいま舞われております。」


「ああ、白鰐のミヤビ殿は剣もお強いが舞も素晴らしいものな。

 あの可愛らしい見た目からは本当に想像ができないと、私の部下の因幡もよく言っていたな。」

 ツクヨミの返答に若者は意気込んで言った。

「本当に姫の剣舞は素晴らしいのです!お急ぎ行かれて、是非御覧ください!」

スサオミを早く貝から出してやりたいツクヨミが内心葛藤しているとオモイカネが門番の後ろから現れた。

「スサノオの付き添いご苦労さま。

 アマテラス殿がお出ましになられるように、弟君の貴方のお力も借りたいと思ってお待ちしていました。一緒にいまいりましょう。」

 オモイカネの言葉になにか考えがあるのだろうと、ツクヨミは岩穴前の大宴会に向かうこととした。


 人気のないところまで来たところでオモイカネが話しかけた。

「貝から早く出してあげたいのは私も一緒だが、流れ的に仕事を終えた君がアマテラスの一大事に駆けつけないのは変だろう?

 試しに私も貝の中に入ってみたが、結構快適だし、応接セットとお茶とお菓子と流行りの本を入れておいたから。もちろん御不浄もある。」

「ぐふっふっ・・・御不浄!!


 流石ですね。流行りの本がなんだかが気になりますが・・・。

 では、傷心の姉を気遣う弟を精一杯演じてくるといたします。」

 

 ツクヨミ達が早足で岩穴の前に行くと可愛らしい少女が大きな剣を両手に持ち黒髪をなびかせて舞っていた。

 その剣筋は美しく、身軽で鋭くそして優雅であった。

 酒が回り始めた神々は音楽に合わせて剣の型が決まるたびに大歓声をあげていた。

 舞台の一番前で大柄な白鰐族の若者がうっとりした顔で舞を見上げているのが見えた。

「おやおや、あれはミヤビ姫の従兄弟殿ではないか。

 婿候補の一人と聞いているがゾッコンだな。」

 ツクヨミがつぶやきつつミヤビを見ると、彼女はチラチラと舞台の端の暗がりを気にしているように見えた。

 目を凝らすと先程門番との話に出てきたツクヨミの部下の因幡がいた。

 因幡は兎族頭領の三男で白銀の髪に赤い目の色男である。

 変化の術が得意で、表向きはツクヨミの部下としてこき使われ、裏向きは仲間として諜報活動を主に担当している。


 モテモテの彼は暗がりで女神たちに囲まれて、酒や食べ物を勧めてはキャッキャとはしゃぐ彼女たちの相手を優雅にしていた。

「おやおや、白鰐の姫は彼のことが気になるようだね。」オモイカネが小さく呟いた。

「幼馴染だそうですよ。姫は見た目は少女ですが、因幡と歳が変わらないとか。

 因幡はあの見た目ですがかなりの奥手で、仕事のために訓練した結果、あのような女慣れしたイケメンが出来上がりました。

 時々、自分のイケメン的な振る舞いを思い出して執務室の隅で羞恥にうめいているのを見かけます。」

 その時姫の舞が終わったようで、大歓声があがった。

 その瞬間、因幡が切ない顔でちらっと舞台を振り返っているのを、彼を見ながら話していたオモイカネとツクヨミは見てしまった。

「なるほど、両片思いってやつか。

 甘酸っぱいね。

 ・・・因幡くんじゃ姫の婿にはなれないの?」

「いえ、因幡は兎族頭領の三男なので、出自的にも婿入りという意味でも問題ないと思います。

 ただ、互いの気持ちは全く伝わってないかと。

 先日、姫に『この女ったらし!すっかり変わってしまったのね、最悪!!(ツクヨミの驚くほど上手な声まね付き)』と言われているのを目撃しました。

 後ろで、あの白鰐の従兄弟殿がうなづいていたので、彼が吹き込んでいるのかもしれません。

 まぁ、我々が振った仕事が元凶なので、我々のせいですね。」

「はは、我々のせいだね。

 でも彼がいないと困るんだよなー。

 アマテラスが出てきて落ち着いたら、彼の幸せと仕事が両立できるように対策練ろうか。」

「オモイカネ様が縁結びを買って出るとは珍しいですね。」

「いや、あんな顔見ちゃったらね。

 それに、門番の一族が仲間についたら、結界とか考えると、我々の有利になるからね。」

「なるほど、それが狙いでしたか。」

「誤解しないでくれよ!前半が本音だよ。

 やっぱり思いあった同士で結ばれるべきだよ。妻と結婚してつくづく思っている。」

 オモイカネの惚気にツクヨミが呆れた顔をしていると、舞台に新たな集団が現れた。

「どうやらウズメ様の準備が整ったようですね。」

「では、我々も行くか    

 姉を気遣う弟、期待しているぞ!」


 オモイカネとツクヨミは岩穴に小走で近づき、そばで待機していた力自慢のアメノタヂカラオに、

岩の扉に少しでも隙間ができたらこじ開けて、アマテラスを引っ張り出すように耳打ちをした。


 ウズメの舞が始まった。

 音楽も賑やかだが、神々の歓声も凄まじかった。

 まさに神がかったウズメの舞に岩穴の前の熱気はどんどん高まっていった。

「これは・・・。

 さすがウズメ様ですね。

 姉上はきっと本気で好奇心が抑えられなくなっていると思いますよ。」

ツクヨミが肩をすくめたその時に岩が動いてわずかに隙間が空いた。

 その瞬間、アメノタヂカラオが隙間に手を差し入れ押し開けるとアマテラスの手を掴んで引っ張った。

「きゃっ」と小さな声が聞こえたと思うと、世界に光が満ち溢れた。

「姉上!!」

 そう叫ぶと涙を浮かべてツクヨミはアマテラスに駆け寄った。

「心配いたしました。スサノオのこと、申し訳ございません。

 あのようなことをいたしましたが、私もスサノオも貴方が大好きなのです。

 もうお隠れになどならないでください。」

 そう言うとアマテラスを抱きしめた。

「・・・分っております。

 スサノオの振る舞い、今は許すことができませんが、いつか会える日が来ることを願っております。

 心配かけて悪かったわ。」

 そう言うとアマテラスはツクヨミの頰撫でた。

 そして音楽も舞もすべて止まり、岩穴の前で居並ぶ神々と、舞台の上で礼を取っているウズメを見やってうなづいた。

 

「皆様もご心配おかけして申し訳ございませんでした。

 ウズメ殿、貴方のお陰で表に出るきっかけができました。

 私はこれからツクヨミに事の顛末について聞かねばなりません。

 酒や肴もまだまだあるようなので、ウズメ殿がよろしければ舞と宴の続きを楽しんでいただければと。」

「私もまだ舞い始めたばかりです。

 是非続きをさせていただければ嬉しい限りです。

 皆様いかがですか?」

 ウズメの問いかけに、会場からは盛大な拍手と歓声が湧き上がった。

 

 その様にオモイカネは一つうなづくとアマテラスに言った。

「では私の館にいらしてください。

 アマテラス様がお隠れになった後、対策本部となっております。」

「まぁ!

 大変なご迷惑をおかけいたしました!

 奥様にも申し訳なかったですわね。

 ぜひ謝罪もさせていただきたいですわ・・・。」

 アマテラスはツクヨミを促すと、足早に歩き始めた。

「姉上、お待ち下さい!!」

 オモイカネは小走で追いかけるツクヨミを見送ると、神々の中で穏やかに微笑んでこちらを見ているタカミムスビに駆け寄った。

「タカミムスビ様、

 申し訳ございませんがこの場をお任せしてもよろしいでしょうか?

 気丈に振る舞っておいでですが、アマテラス殿の心が心配です。

 早くにご説明したほうが良いかと。」

「ああ、あの子は強気に振る舞っているが、目の奥が泣いてるね。

 行っておやり。

 ある程度皆が楽しんだら解散させよう。」

 そう言うとタカミムスビは神々の方を振り返り

「さぁ、アマテラスの再降臨を喜び合おう!」と号令をかけた。

オモイカネはそれを見ると、誰にも気づかれないようにウズメに目配せをしてツクヨミの後を追った。


オモイカネが館につくとスサノオを軟禁していた部屋にイザナギ、ツクヨミ、アマテラスと、オモイカネの妻のウタヒメが集合していると家令から報告を受けた。

しんみりしているであろうと思いつつ部屋に足を踏み入れると、予想外の事態になっていた。

ツクヨミはスサオミが入っている貝を大事に抱えながら膝をつき、イザナギは床に転がり、

アマテラスは顔を真赤にして何やらわめき、ウタヒメに慰められていた。


「え、これってどういう状況なの?」

戸惑うオモイカネを、アマテラスがキッと睨みつけた。


「スサノオを根の国の入口に行かせるための口実であることはよく分っています!

 計画だって皆で立てたもの!!

 だけど、実際やってみたらもう恥よ、恥!

 スサノオはあのナリでマザコン発言しながら高天原を走り回って、私は私で、姉弟喧嘩で世界に迷惑かけた挙げ句、

 ウズメ殿に

『貴方のお陰で表に出る切っ掛けができました』

 って何よ!

 お前中心に世界は回ってんじゃねーぞって思われたっておかしくない案件よ!!

 もう、恥ずかしすぎる〜!!」

 アマテラスの言い分に、イザナギとツクヨミは笑いの追い打ちをうけ痙攣した。

 その様に苦笑しながらウタヒメはアマテラスを慰めた。


「ウズメ殿は我らの仲間ですから、そのような振る舞いをしなければならないアマテラス様やスサノオ様を心底気の毒に思いはしても、迷惑には思っていないですよ。

 まぁ、仲間以外は色々思うかもしれませんが、別にいいじゃないですか!

 太陽の神であるアマテラス様を中心に世界は回っているのは本当のことですし。」

 慰めと言い切れないウタヒメの言葉に、アマテラスは更に羞恥で顔を赤くし涙目になり、

 イザナギはとどめを刺されて動かなくなった。

 ツクヨミは震えながらオモイカネを見上げて言った。

 「た、たすけて、、、ください、、、ふた、、りを、だ、だまらして、、、。」



 アマテラスはまだ少々落ち込み気味だったが、皆が落ち着いたとところでオモイカネが言った。

「では、スサオミを新居に案内しよう。

 キサガイヒメにはこの異空間の部屋から更に異空間を作っていただいている。

 この部屋の姿見が出入り口となっている。」

オモイカネが手をかざすと姿見の表面が揺らいで入口が現れた。


鏡を通り抜けるとその先は緑を基調とした落ち着いた部屋となっていた。

どうなっているいるのか、窓の外には庭が広がっており、外にも出られるようになっていた。

「ではツクヨミ、スサオミを貝から呼び出してくれるかな?」


「わかりました。


 スサオミ、スサオミ、その時が来たよ。

 姿を見せておくれ。」

 ツクヨミがそうゆうと貝の蓋が開き、ツクヨミと同じくらいの雲の塊が出てきたかと思うと一度光り、青年の姿となった。


「スサオミ!」

イザナギ、アマテラス、ツクヨミはスサオミに抱きついた。

「父上、姉上、兄上!」


抱き合う四人にオモイカネが言った。

「スサオミ、君の身体の結界は解除して大丈夫だよ。

 姿見を通り抜けるたびに強力な結界で、呪いや悪しき者は弾き飛ばされるようになっているから。

 こちらの異空間とあちらの異空間では理が異なるので、弾き飛ばしがえげつないレベルで行われるらしい。

 ただ、君の姿を見られたり、攫われたりしたら困るので、申し訳ないがここから出ないでほしい。

 ただし、こちらはの空間では君の想像力で様々に形態を変え、モノが作り出せるとのことだ。

 ここを拠点に我々と力を合わせて行ってほしい。」

「オモイカネ様、ありがとうございます。

 スサノオと再び触れ合える日を目指して頑張ります!」

「ちっとも休ませてあげられなくて申し訳ないが、

 今までの経緯と、現状、今後について早速話し合いたい。」

「大丈夫です!貝の中でしっかり休みましたし、

 姿見をくぐったときに私にかけられていた呪いが弾き飛ばされたようで身体が楽になりました。」

 にっこり笑ってスサオミは言い、父上達も大丈夫ですよねと微笑みかけた。

「うちの弟が麗しい・・・。」アマテラスとツクヨミはうっとりとし、イザナギは妻の面影を見て涙目でうなづいた。

閲覧いただきありがとうございます。

帰省のため更新が不定期になります。

来年もよろしくお願いいたします。

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