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新釈古事記伝  作者: りんたろう


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7/24

7.きざし

 スサノオが白鰐族の門番たちに厳重なチェックを受け高天原に足を踏み入れたとき、オモイカネが大きな花束をいくつか抱えてにっこり笑って立っていた。

 いつも胡散臭いと思っていたその笑顔にホッとした。


「オモイカネ様、奥方様への花を摘まれにいらっしゃったのですか?

 相変わらずの愛妻家ぶりですね。俺もそのような相手が欲しいものです。」


 気力を振り絞ってにこやかに話しかけたスサノオに、オモイカネは抱えていた大きな花束を半分持たせた。

「丁度良いところで会えたね!

 運ぶのを手伝ってくれたら我が家でお菓子をご馳走しよう。

 妻と子どもたちが朝から張り切って作っているんだよ。」


「それはそれは。

 ぜひともご相伴に預かりたいものです。

 いっぱい食べてしまいそうです。俺に声をかけたことを後悔するかもしれませんよ〜?」

 陽気に声を張り上げてオモイカネを覗き込むように顔を近づけ

「今お会いできてとても嬉しいです。」と小さく囁いた。

 オモイカネは子供にするようにスサノオの頭をぐしゃぐしゃとかき回すと、

「妻と子どもの菓子作りへの情熱を見くびってはいけません。

 泊りがけで食べる羽目になるかもしれませんよ。」

 といって背を向けてさっさと歩き出した。

 その服の裾と靴はずいぶん汚れ、いつもきっちりと整えられている髪も少々乱れていた。

 かなり長い時間このあたりをウロウロしていた様子のオモイカネに駆け寄った。




 オモイカネ邸に到着すると人払いがされた応接室に父と兄姉たちも勢揃いしており、スサノオは皆に抱きしめられた。

「すまなかった。お前が葦国中原に向かった後、

 スサノオがスサオミの体調を気にしていることをオモイカネに話したら、

 ”双子の彼らは特別なのだから重視するべきだし、私に報告すべきだった”と厳重注意を受けたんだ。

 オモイカネに言われるまで平和ボケしている自分に気が付いていなかった。

 心細かっただろう?本当に済まなかった。」

 イザナギが言うと、アマテラスとツクヨミも口々に謝った。


 驚いてスサノオがオモイカネを見ると

「双子は我々にはわからない感覚の共有があると言われている。更に君たちは天津神の双子だ。

 その感覚を重視しないなんてありえないだろう。

 まったく、ニセの平穏に慣らされすぎたのか、危機感が無さすぎる。

 ・・・まぁこれも恐ろしく気が長い誰かの戦略なのかもしれないな。」

 苦虫を潰した顔でオモイカネが言った。

 どんなときもイザナギを怒ったことがないオモイカネの苦言に、イザナギも心底後悔した顔をし、

 ツクヨミとアマテラスも泣きそうな顔をしていた。


 重苦しい空気を変えるように気持ちを切り替えるように手を叩くとオモイカネは言った。

「だが、こんなことで遅れを取る我等ではないはずだ。

 私と同類のスサオミがいるんだ。つまり2倍の知力だ。

 そうであろう?スサノオ。」


「なんで俺とスサオミとの会話を・・・?」

 驚くスサノオにオモイカネは言った。

「なんでって、私達は同類なのだろう?

 当然私も同じように感じ、考えなんてツウツウだよ。

 あ、羨ましいのかい?

 大丈夫、もちろん互いにいけ好かない奴認定している。

 味方でいる間、これ以上に心強い相手はいないけどね。」

 ・・・スサノオがオモイカネに少々嫉妬を感じて見ていると、同じような目でオモイカネを見ていたイザナギと目があった。


 いつも通りイザナギの隣にオモイカネが座り、机を挟んで姉兄弟が座った。


「では聞かせてもらおうか。」

 オモイカネが促すとスサノオはスサオミの状態と会話を伝えた。

「横にはなっていたけど普通だったのに、いきなり無表情になって俺に早く帰れと。」

 最後の様子を伝えると滲む目元を袖で強くこすった。


「薄桃色の花だと?」黙って聞いていたイザナギがつぶやいた。

「なにか知っているのか?」オモイカネの問に

「イザナミを訪ねたとき会った黄泉国の王の髪に飾られていた花が薄桃色だった。」

 イザナギの言葉につなげるようにスサノオが言った。

「そうだ!母上の神力が暴走して渦巻いているとき、たくさんの桃色の花びらが舞っていました!

 ケガレの記憶に残っています。」

「確かにそうだった」ツクヨミとアマテラスも頷きあった。


「なるほど、黄泉国の王は少女だったと聞く。

 黄泉国はほとんど花が咲かないが、カタバミの仲間が何種類か咲いていたらしい。

 薄桃色の花は、おそらくコミヤマカタバミだな。」

 オモイカネの言葉に皆驚いたように凝視した。

「何を驚く?私は知恵の神だぞ。

 さらに私の妻は草花が大好きだ。その方面の知識を深めるには十分な理由だろう?

 ちなみにカタバミの花言葉は 輝く心、喜び、母の優しさ、貴方とともに だ。

 ・・・なんとなくイザナミを思わせるな。」

 オモイカネの知識にざわついた一同だが、最後の一言に胸を突かれたように黙った。


「では、やはりスサオミの言うように黄泉国が動き始めたということでしょうか?

 スサオミは大丈夫なのでしょうか?俺達はどうするべきなのでしょうか?」

 矢継ぎ早なスサノオの問に

「結界をかけている黄泉国の岩に花が偶然咲くなんてことはありえないから、敵側の行動であることは間違いないと思う。

 ただ、我々が動かないことにしびれを切らしたか、敵の計画のうちか・・・。

 油断はできないが、恐ろしく気の長い敵が動いたこの機会を、最大限に利用しなくてはならない。」

 さらにオモイカネは怒涛の勢いで話し始めた。


「敵はスサオミの存在と役割に気づいており、そのスサオミを弱らせたということは黄泉国の岩の封印を弱め破ろうとしていると考えられる。

 さらにスサオミから何らかの精神を操る物質を発生させ、周囲の者たちが影響を受けている。

 私としては、スサオミを回収し、異空間に隔離しつつ治療を行うべきだと考える。

 そうすると封印が心配になると思うだろうが、実は黄泉国が大人しくしている間が長かったので、

 もしもの時のためと思い私の神力をためた玉を作っておいたのだ。

 あとは、スサオミをどうやって回収するかと、その玉を誰が持っていって封印の力を行使するかが考えどころだ。」


 そう言ってオモイカネはきれいな玉を見せた。

 それを見たイザナギ、ツクヨミ、アマテラスは何故自分たちにもやらせてくれなかったのかとオモイカネに詰め寄った。

「いや、君たち他の天津神たちの前に立つこと多いでしょ?玉に力を込める作業すると一時的だけど結構神力目減りするんだよ。

 気をつけてみたら神力減ってるのわかっちゃうからね。敵に知られるのも威厳的にも問題でしょ?」

 ワーワーと言い合っているのを見つつ、同じようなセリフを根の国で聞いたことをスサノオは思い出した。

「オモイカネ様!

 スサオミが全く同じことを言ってました。自慢しておいてって。」

 スサノオの言葉にオモイカネはやっぱりと顔をしかめた。

「やはりスサオミは玉を作っていたか。

 まったく本当に食えない子だね。

 自慢しておいてっていうからにはスサオミの神力の玉は私よりかなり優れているのだろう。」 

 若干ふてくされつつオモイカネが言った。


「それはさておき、スサオミの回収方法と隔離する異空間をどのように致しましょうか?

 異空間については、貝の神であるキサガイヒメに作っていただくのが適任かと思います。

 彼女の作る空間は始まりの神であろうと干渉できないことから、我らの基地としているぐらいですから」

 とツクヨミが言った。

 ツクヨミは、嘘を見破る能力を買われて、今ではオモイカネの参謀兼秘書のような役割を担っている。


 更にツクヨミは続けた。

「我等の仲間以外には存在を隠しているスサオミを回収するのは秘密裏に行わねば。

 ヘタをすると黄泉国の反乱が明るみになって、世界が混乱に陥ります。

 さらに、神力の玉の力を使いこなし、封印を継続する者を送らねばなりません。

 玉を使いこなすには、其の者自体もそれなりに強い神力が必要と思いますがいかがでしょうか?」

「ツクヨミが言うように異空間については我等の仲間であるキサガイヒメにご助力をいただくのが最適であろう。 

 玉の使い手についてもツクヨミの言うとおりだ。

 とくにスサオミの玉を使いこなすとなったら、それなりに名の通った天津神でなければ難しいだろう。

 そうなると、こっそり地上に下ろすのはかなり難しく、公に地上に常駐させるのはそれなりの理由が必要となる。」


「では、スサノオとスサオミとを交代させますか?

 少々おもむきは違いますが、双子なので容姿が似ており、スサオミに少々がさつな動きと大げさな表情を伝授すれば親しくないものであれば見分けはつかないかと」

 ツクヨミが言った。


 失礼だろう!と膨れるスサノオを無視してオモイカネが答えた。

「いや、スサオミとスサノオを単純に交代させるということは、スサオミに高天原でのスサノオの席を与えることになり、表舞台に立つことになる。これは敵にとって都合が良いことになる可能性が高い。

 そこで、こちらは突拍子もない策を打ちたいと思う。

 スサノオを高天原から追放し、席は剥奪。

 根の国に居を構えそこを中心に葦国中原を守護する役目につけることにする。

 その際に追放の見届人として同行したものによってスサオミを回収させる」

 オモイカネの提案に皆驚き、目を見開いてオモイカネを見つめ、動きを止めた。


「た、たしかにその方法であれば、スサノオを地上に下ろすことも皆納得するでしょうし、

 スサオミの存在も隠したまま回収できますが・・・・。

 つまり、何らかの罪を我らのスサノオに負わせるということですよね?」

 混乱しながらツクヨミが返答した。


「そのとおりだ。

 私としては、高天原で軽く暴れてアマテラスの怒りを買うのが妥当かと思っている。

 仲間内で演じきれる上に、日の神のアマテラスを怒らせたとなれば、追放という罰は妥当と思ってもらえる。

 さらにアマテラスが許せば追放も解くことが可能になる。

 すべて我らで調整が可能になるからな。」


 オモイカネの返答にツクヨミが得心がいったといったように深く頷いた。 

「さすがオモイカネ様です。

 スサノオの高天原復帰の手段まで含めての計画とは!」


「しかし、表向きとはいえスサノオを追放だなんて可哀想ではありませんか!

 スサノオはこんなにいい子なのに、不名誉を刻むなんて!!」

 アマテラスの言葉に

「俺は全然平気だよ!

 スサオミと母上を取り戻すためだ。

 仲間はわかってくれるんだし。」

 とスサノオは答え、更に続けた。 

「どのように俺を追放するような状況にするんですか?

 神々集めるってのも兼ねて皆に俺の後を追っかけさせるような感じですか?」


「近いけどちょっと違う。

 スサノオには、”母上に会いたい!”って高天原で大暴れしてもらう。

 で、アマテラスがその大暴れっぷりに激怒して、”そんなに母に会いたいのであれば、葦国中原に追放する!根の国の入口でも見ておれ!!”

 って言って引きこもるんだ。

 ちょうど君の神殿の裏に岩穴があるだろう?そこに入って岩で蓋しよう。

 高天原も含めてすべてが真っ暗闇だ。

 そこで私の出番だ。

 すべての神々が集まって、アマテラスを説得するのが良いだろうと知恵を授ける。

 集まったところでスサノオは岩穴の前で謝って、何も見えないから夜目が効くツクヨミに根の国まで送ってもらう。

 それでも出てこないアマテラスのために岩穴の前で宴を開き、アマテラスをおびき出そうと提案する。

 みんなで大騒ぎしている間に、ツクヨミはこっそりスサオミを連れ帰って、私の屋敷に報告する体でスサオミを匿おう」


 オモイカネの筋書きに、

「オモイカネ様って劇作家にもなれますね。

 ただ、スサノオも私もずいぶん苛烈なお騒がせ者と刻まれてしまいますのね・・・。

 いや、オモイカネ様がいっぱいお考えになった結果の最善の方法なのだろうとは分っています。」

 アマテラスが思わずと言ったふうにゴニョゴニョ言った。


「いや、別な方法ももちろんあるんだど、スサオミも面白がってくれるかなと思って。」

「え、面白さって必要ですか?」

 オモイカネの返答にアマテラスが怒り気味にすかさず突っ込んだ。

 そんなアマテラスを遮って、オモイカネにスサノオが頭を下げた。

「オモイカネ様、ありがとうございます。

 きっとスサオミは今の状況に自分を責めてしまっていると思います。

 神々の馬鹿騒ぎの隙をついて入れ替わるなんて面白がってくれると思います。

 出来れば俺が大暴れして、姉上に激怒されるところから記録に残してスサオミ見せてやってください。」


「おまえって本当にいいやつだな!」

 イザナギは感極まってオモイカネの首根っこに抱きつき、肩に額をグリグリと押し付けた。


 思いがけないイザナギのスキンシップに嬉しそうにニヤニヤしたオモイカネにその他がスンとしてしまったのは致し方がないことであった。

投稿遅くなりました。

すみません!

明日も15時30ごろに投稿できたらいいなと思っております。

よろしくお願いします。

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