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新釈古事記伝  作者: りんたろう
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6.大人になった3貴神

 大人になった俺達はそれぞれ神としての役割を果たすようになっていた。

 姉上は太陽と勝利の神として、兄上は月と夜の神として、そして俺、スサノオは海の神であることを隠し、地上の神として。スサオミの存在は秘匿されたままだ。

 秘密を共有し、協力をしてくれる仲間も少しづつ増えた。

 黄泉国は死者の輪廻の機能を果たせなくなっていたので、俺とスサオミの力で黄泉国と葦原中国の間に疑似の黄泉国をつくり、根の国と名付けた。

 そこに死者を送り、表向きは母上が輪廻の輪を回していることにして、スサオミが疑似輪廻の輪を回している。

 だが疑似であること、死者となった母上ではなく、生者のスサオミが代行していることから、国津神やその血を引くものを輪廻の輪から送り出すには母上より時間がかかり、多くの方々にまどろみの中で待っていただくことになってしまっている。

 ちなみに天津神は亡くなっても立場が少々変わるだけで存在し続け、輪廻の輪に乗ることはない。根の国にいらした後に、その方の立場に都合の良い場所で暮らしていらっしゃる。死者となったために変化した青白い肌も、新しい美しさとして捉えている。

 今の時代であれば、母上もあのように悲しまれずに父上とともに在れたのにと、時々胸が苦しくなる。


 仲間たち以外の皆は、根の国は黄泉国の別称だと思っている。


 大人になって良かったことは、地上の神としてたまに地上に行けることだ。

 高天原を出入りすることは、その隙に鬼たちが侵入する可能性につながることを意味する。

 オモイカネ様がなにか小難しい理屈をつけて、出入りの際の規則と手順を厳しくしたため、地上へ降りる許可が通ることは殆ど無い。

 地上の神と名乗っている俺ですら月に一度が精々だ。

 だがその時には根の国にも行きスサオミに会うことができる。


 スサオミも大人になった。

 母上のふりをするときは薄衣を被っているが、それ以外は母上の筆頭侍従という肩書で仮面をかぶって行動している。

 双子だから顔の作りはほとんど同じのはずだが、奴はイケメンだ。

 根の国に送られた死者の中で、魂魄が強く信頼の置ける数名がスサオミのもとに協力者として残ってくれているが、男にも女にも心酔されている。

 姉上は鏡の通信によく割り込んでくるが、弟相手に”麗しい〜!!”ってキャーキャー言ってる。

 っていうか、兄上や父上までキャーキャー言ってた。

 俺は山猿だそうだ。



 黄泉国の岩戸の封印の状況は変わらないらしい。

 オモイカネ様の指示によりスサオミ以外が黄泉国に近づくのを禁じられている。

 何かあったときの被害者は最小限にということだそうだ。

 今日は久々に地上に降りることができる。

 最近、スサオミの元気がないように感じる。

 父上たちに言ってみたが、そうかなぁ?と言われてしまった。

 直に会えば色々聞けるし、抱きしめて励まして、そして俺も安心できるに違いない。


 ・・・そう思っていたんだ。




 地上に降り立ち、形式に則って各地を見回って最終地として根の国を訪れた。 

 いつも出迎えてくれるスサオミの協力者であり侍従仲間でもある男の笑顔が硬い。

「イザナミ様のお部屋にご案内いたします。」

 表向きのスサオミのことを示す名を呼び案内をするが、いつもよりも早足だ。

 俺も笑顔を貼り付けて「楽しみだ」とかなんとか答え、変に思われない精一杯の速度で部屋に向かった。



 ”イザナミ”の部屋の扉のまえで侍従がスサノオの訪れを伝えると扉をひらき、スサノオに入室を促した。

「本日は、まずはお二人でお話されたいとのことです。お茶とお菓子のご用意もしております。

 私は扉の前で待機しておりますので、御用の際には鈴をお鳴らしくださいませ。」

 不安そうに瞳を揺らしながら素晴らしい速度で述べると、早く早くとスサノオを部屋に押し込んだ。


 ”イザナミ”の部屋は当然なのかよくわからないがかなり広い。

 これは根の国を作ったときに「女王の部屋はやっぱり大きくなくっちゃな!」とスサオミと面白がって作った結果である。




 扉が閉まると同時にスサノオは奥の長椅子と机のあるであろう場所まで走った。

 2つある長椅子の片方にスサオミが寝転がって微笑みながら手を振っていた。

 顔色が悪いが表情は穏やかで、スサノオは少しホッとした。

「寝台で寝ていなくて大丈夫なのか?」そばに跪き、手を握りながらスサオミに問いかけると、

「寝台のある部屋はまた遠いからな。少しでも早くスサノオに会いたかったんだ。」

 更に部屋の奥にある扉のほうを見て笑った。


「スサオミ、やっぱり体調を崩していたんだな。鏡通信でなんで言ってくれなかったんだ。」

 スサノオは目をうるませながら言った。

「スサノオは相変わらず涙腺が緩いな〜。」

 スサオミはよっこらしょと起き上がるとスサノオの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

 そして真面目な顔になると

「あちらの国で動きがあった。」と言った。


 一瞬でスサノオも真面目な顔になった。


「前回のスサノオの根の国訪問のあと、黄泉国の岩戸の確認に行くと隙間に桃色の小さな花が一輪咲いていた。

 小さな花なのに当たり一面にどこか懐かしい香りを振りまいていた。

 とっさに危険と判断して花に結界をかけ、香りもすべて包み込んだが一呼吸分吸い込んでしまった。

 まずいと思ったので、現在私自身を結界で包みこんで、呼気が外に漏れないようにした。

 まぁ私はすごいから、食事もお風呂なんかも全く問題ないけどね。

 排泄物も結界に包んで封印してる。これって微妙に精神に来るね。


 3日後に夜眠ろうとすると母上の声が頭に響くようになった。

 楽しそうに父上や皆の名前を呼んだかと思いきや、すすり泣きながら恨み言を延々とつぶやくと言った感じさ。

 流石に毎晩となると寝不足になってくるし、自分が操られる可能性なんかも心配になってね。

 鏡通信のときに高天原が不利になる言動を取ったら、心配している分混乱するだろうと思って、通常と異なる言動は取れないようにさっきの侍従に呪いをかけてもらっていた。


 あとはスサノオが来るのを待っていた。

 ちなみに、私がスサノオに害を加えそうになったら拘束が発動するようにも呪いをかけてもらっているから安心して。」


「おまえ、相変わらずすごいな・・・・。

 その先を読んで潰していく感じ、オモイカネ様ばりだよ。」

 スサノオは自分を心配させないように、何でもないことのように話すスサオミの気持ちを感じつつ、苦笑いしながら言った。


「あ、それ私も思った!

 オモイカネ様とは鏡通信で数回お会いしたのみだけど、同類の匂いがした。」

 スサオミはニヤリと悪い顔で笑った。


「冗談はさておき、俺はこの後どうしたらいいのだ。

 スサオミやオモイカネ様と違って、俺には今後の予想どころか策略など、全く多い浮かばん。」

 スサノオの問に、スサオミは長くなっちゃうけどと言って話し始めた。

「スサノオの凄いところは、おそらく他からの影響をまったく受けないところなんだ。

 じつは私の仲間のうち、君を案内してきた侍従以外はちょっと行動が変になってしまってね。

 私の体調が非常に悪いと、高天原に伝えようとする者が続出したんだ。

 一見すると主思いに思える行動だけど、”我々の仲間”としてはありえない行動だよね。

 なのでみんな眠ってもらっている。

 私自身にこんなに結界をかけているのに、吸い込んでしまった香りが悪さをしたと考えた。

 で、なんで影響に差が出たのか観察してみたところ魂魄の色に違いがあることに気がついた。

 魂魄はいろいろな色が混じっているけど、侍従だけ稲光のようなきらめきが混じっているんだ。


 私はそうゆう魂魄を見たことがあってね。

 そう、スサノオのだよ。

 魂魄って、死者にならなければ見えないものだけど、私達は双子だから生を得る瞬間に相手の魂魄を見ることができたんだと思う。

 君の魂魄の稲妻は、侍従のものの数倍も数も多くて光も強かった。

 だから花の香の影響を受けないであろう君が来るのを待っていたんだ。

 さらに双子の片割れである君なら面と向かって話している私が異常かどうか感じられるはずだしね。

 だから、私の話をオモイカネ様に伝えて欲しい。

 私も君のような魂魄だったら良かったんだが・・・・。

 まぁ結界の力は誰よりも強いことを誇りに思ってるからな!」


 そこまで話すと、スサオミはいきなり長椅子に横たわった。

 額に手を当て、苦しそうに歯を食いしばりながら言った。

「そうそう、黄泉国が長い間大人しくしていたから余力が結構あってね。

 スサノオにあげたくて、すばらしくきれいな玉を作ったんだ。

 オモイカネ様に自慢しておいて。」

 そしてふーっと息を吐くと無表情になり

「もう帰ったほうがいい。」というと鈴を鳴らして侍従を呼んだ。


 突然のスサオミの変わりようにスサノオは呆然としていたが、

 侍従が「お早く。おっしゃられたように。」と手を引いて素早く部屋から連れ出された。


 ・・・・そして気がつくと高天原の門の前に立っていた。

閲覧いただきありがとうございます。

明日も15時30分ごろに続きを投稿する予定です。

また見ていただければ嬉しいです。

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