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新釈古事記伝  作者: りんたろう
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5.高天原のオモイカネ

 たどりついた高天原の門は平穏であった。

 いつものように白鰐(しろわに)の一族の者が門番として立っていた。


「おかえりなさいませ、イザナギ様。葦国中原はいかがでしたか。」


「ああ、あいかわらず美しいよ。

 ところで、オモイカネ殿は高天原におかれるのかな?」

 イザナギが問うと

「本日高天原からお出になられた方はおられません。」

 との答えが帰ってきた。


「ではご自宅かな?

 葦国中原の土産話をしにお伺いしてみよう。


 ありがとう、お役目ご苦労さま。

 引き続きよろしく頼むよ。」

 にっこりと優雅に微笑み、門番の肩をぽんと叩くとイザナギは歩みを進めた。


「・・・ちちうえ、門番だけではなく門近くの木々にも結界用の印をつけたほうが良いかと思いますよ。」


「さすがオレの息子だね!

 門番の一族にも悟られない高度の印だったんだけどね。

 では、ぐるっと散策してからオモイカネのところに行きますか。」

 ツクヨミのささやきにささやき声で返すと、


「お、あれはヤツの奥方が好きな花ではないか!

 少し摘んでいくか。」

 と大きめの独り言をいいながら、イザナギは木々に分け入った。


 広範囲に印を付けまくったため、かなり大きな花束を抱えてイザナギはオモイカネの邸宅の門を叩くこととなった。


「イザナギ!」

 家人に応接室へと案内されるとすぐに走ってくる足音が聞こえた。

 呼び声とともに勢いよく扉が開き、飛び込んできた人物はぎゅっとイザナギに抱きついた。


「無事に帰ってきてくれて本当に良かった!!

 君の気配が一瞬消えたんだ。

 すぐに星読をおこなったら無事戻ってくると出たのだが気が気でなかった…………。」

 イザナギと変わらない高身長の男神はイザナギの肩に額をこすりつけ涙声で言い募った。


「イザナギ様を探しに行かれようとするオモイカネ様をお止めするのが大変でした。」

 苦笑いしながらそう云う家人の顔をよく見ると目の周りにアザができていた。


「それはすまなかったな。


 お前の星読みは完璧なんだろ?

 どっしり構えて待っててくれればよかったのに。」

 鼻をすするオモイカネの背中を宥めるように軽く叩きながらイザナギが言った。


「それは難しいですわ。

 イザナギ様は夫の宝物なんですもの。」

 クスクスと笑いながら小柄な女性が入ってきた。

「夫の宝物であるあなた様は私の宝物でもあるのです。

 本当に無事にお戻りになってよかった。」

 女性の目も涙で赤く充血していた。


「ワカヒメ、ご心配をおかけして本当に申し訳なかった。

 あなた達のもとに戻れて本当に嬉しい。」

 心から喜んでくれている言葉にイザナギも声が湿った。


「ところで、ワカヒメのお好きな花をたくさん見つけたので摘んできた。

 申し訳ないが、活けていただいてよろしいかな?

 その間にオモイカネに今回の冒険談でもしていよう。」

 イザナギの言葉に、ワカヒメは一瞬真面目な顔し、イザナギの頭髪にすばやく視線を向けた後、

 机の上の大量の花を家人に一緒に持ってくるように伝えた。

「こんなに大量のお花、ありがとうございます。

 じっくり仕分けして、あちこちに活けさせていただきますので、人手も時間もかかりそうですわ。

 萎れるのがかわいそうなので、すぐに取り掛かりたいと思います。

 お茶とお菓子はご自分たちでお支度いただけますか?

 棚に入っておりますわ。」

 そう言うと家人と出ていった。


「あいかわらず察しの良い方だ。」

 イザナギの言葉に

「だろ?

 私の妻は賢くて優しいんだ。

 で、なにがあったんだ?」

 イザナギに抱きついていたオモイカネは顔を上げてにっこり笑ってから、真剣な顔になった。


「その前に、結界を張らせてもらう。

 

 これから話すことは他言無用だ。まずは、オレの新たな子たちを紹介しよう。」

 その言葉とともに、アマテラス、ツクヨミ、スサノオがイザナギの頭髪から飛び降り、もとの大きさに戻った。


「おお、これは!

 なんと高貴な御子たちだ!!」

 驚くオモイカネにイザナギは苦笑しながら返事をした。

「お前の奥方は気づいていたようだぞ。

 認識阻害の術をかけていたんだがな。」

 

「わが妻は察することに関しては始まりの神々より優れている。

 どんな術も効かないと思われるぞ。


 案ずるな!

 私が気が付かなかったのだから、妻以外に気がついているものはこの世にもあの世にもいない。」

 得意げにオモイカネが言った。


「まぁ、なんか悔しいが安心ってことなのか・・・?


 紹介する。

 アマテラス、ツクヨミ、スサノオだ。

 もう一人スサオミというスサノオの片割れがいるのだか、

 ワケあって別の場所にいる。」

 イザナギの紹介にそれぞれがオモイカネに頭を下げた。


「父上、たしかにこの方は父上が大好きですね。

 父上へのお言葉には全く嘘がない。」

 ツクヨミが言った。

「君は月の神だね。

 ひとの嘘を見破れる能力持ちだね?」

 オモイカネの言葉にイザナギは驚いた。

「なっ、ツクヨミそんな能力のことを言ってなかったではないか!」


「オモイカネ様、大変失礼いたしました。

 父上よりお話は伺ってはいたのですが、万が一と思い我々の身を守るための奥の手と考えておりました。

 オモイカネ様のお心に触れて思い違いを痛感いたしました。

 お許しいただきたく存じます。

 そして、ご助力の程何卒よろしくお願いいたします。」

 目を白黒させているイザナギを放おって

 ツクヨミは片膝をついて頭を下げ、アマテラスとスサノオも続いた。


「なにが起きたかはこれから聞くが、父上思いの賢いお子たちだね。

 私のことを信頼してくれて嬉しいよ。

 妻の言うように、イザナギは私の宝物だ。

 その宝を大切に思っている君たちのことを、わたしも大切に思おう。」

 オモイカネの言葉にイザナギは感激しているが、兄弟たちはそれぞれの心のなかでちょっと引いた。


「・・・んんっ、父上をこんなに大切に思ってくださっているオモイカネ様にご助力いただければ、

 必ず勝利を得ることができますわ!」

 気を取り直してアマテラスが声を上げた。


「きみは太陽の神だね。勝利の女神だ。

 そして、スサノオ、君は海の神だね。もうひとりのスサオミくんは地上の神かな?

 まさしく、国生みの神であるイザナギの子どもたちだ。


 ところで早速で悪いがイザナミを迎えに行ったはずなのに、いったい何があったのだ?」


 オモイカネは円卓にお茶と茶菓子を机に並べ、皆に着席を促すと自分はイザナギの隣りに座った。


 イザナギは黄泉国を訪れてから追われて岩戸を閉めるまでの事柄を、子どもたちはイザナギに話した己のケガレの記憶をオモイカネに語った。


 オモイカネは黙って最後まで聞いていたが、徐々に怒りの気配を身体にまとわせ、

 語り終わった頃には身体周囲の空間が歪んで見えるほどとなった。


「イザナギを悲しませ、命を危険にさらしたヤツがいるってことだね。

 しかも私とイザナギの関係を利用してこの世界に禍を起こそうと。」

 オモイカネはしばらく黙ってうつむいていたが、大きく息をつくと顔を上げてにっこりと笑った。


 「私はいつの間にか思い上がっていたに違いない。

  私が利用され、そして世界の禍を望む者がいると現実的に思っていなかった。


  今回の手段を思いつくのは高天原に精通している者だと思われる。

 考えたくないが、天津神の中に主犯、又は協力者がいるのは間違いない。

 

君たちがいなかったら世界は壊滅して、もうイザナギに会えなかったかもしれない。

 助力をいただくのは私の方だ。」


 この人、目怖いわ、、、。本当にちちうえ第一なんだ、、、。と子供たちは心のなかで思いつつ

「何卒よろしく願いいたします!!」と深々と頭を下げたのだった。



 うなづいて皆を見渡したオモイカネが話し始めた。

「さて、

 先ほども言ったが、天津神の中に主犯、あるいは協力者がいる。

 私がイザナギを大切に思っていることを知っており、イザナギ以外に話していないにも関わらず、

 イザナミを迎えに行くことを提案するのを予測するような人物だ。

 現時点で不本意ながら心当たりが全くなく、悔しいことだがこの私が空恐ろしい気持ちだ。

 

 相手の目的は不明だが、黄泉軍が黄泉国から出ようとしたとのことから、ひとまず葦国中原や高天原を我が物にしようとしていると仮定しよう。

 そして、こちらの目的はイザナミとスサオミを取り戻すことだ。

 その過程において、黄泉国の正常化は必須となる。

 ただ、イザナギすら命の危機にされされたことから、黄泉国は非常に危険と思われる。

 高天原の大軍で黄泉国に行けば勝てるとは思うが、敵の天津神によって罠を張られる可能性もある。

 ・・・・間違えると、取り返しのつかない状況になることから、現状我らのほうが不利と考える。


 この状況をひっくり返すために知りたいのは、敵の目的だが、それは難しいと思われるので、まずは敵がどこまで高天原で情報網を張っているのか、どれくらい仲間がいるのかということだ。

 これを探りつつ、我等の仲間を増やし、計画を練り上げていきたい。

 そこで、君たちには大変つらいと思うのだが、まずは黄泉国にスサオミの封印を施した状況で敵の出方を待ちたい。

 今回外に出た黄泉軍は僅かであると思われることから、襲来が起きても高天原の軍で容易に抑えられる上に、怪しい動きを行う者も見つけられ、情報の流れも推測ができると思う。」

 現状を知ったばかりとは思えないほどにつらつらと話すオモイカネに皆驚いて目を白黒させながらただ頷いた。


 その中、スサノオが思わずと言った感じでポツリと漏らした。

「どれくらい待つのかな?」

 そしてあわてて続けた。

「すみません!!

 オモイカネ様がおっしゃることはとても良くわかりました。

 待つ期間なんて簡単に予想できないことも想像できます・・・・。」


 そんなスサノオをアマテラスが抱きしめた。

 オモイカネはスサノオに近づき、頭を撫でながら言った。

「君は本当に優しく愛情深い子だ。

 約束はもちろんできないが、なるべく短い期間で勝利することを私も心から願っているし、努力するつもりだ。」




 僕はオモイカネ様の言葉に本当にホッとしたんだ。

 すぐにスサオミと一緒にいられるようになる!

 ちちうえもははうえと一緒にいられるようになって、みんなで楽しく暮らせるんだ!!

 夜に早速スサオミに鏡の通信をしたんだ。会えるのもきっとスグだねって。




 …………………………。

 それなのにこんなに長い時間がたってしまうなんて・・・・。

 外に逃げたはずのオニ達も、黄泉国で神力を暴走させ続けているはずの母上も、その存在がないかのように沈黙し続けた。

 葦国中原や高天原が狙いではなかったのか・・・・。

 密かに調査を続けるが敵の手がかりが何も得られず、解決の糸口もつかめないまま不気味な平和な時間の中で、俺達は大人になってしまった。

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