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新釈古事記伝  作者: りんたろう


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43.因幡君と白鰐ちゃん その6

 《因幡》

 すっかり身体も回復し、耳飾りに溜まっている神力を使うことにも慣れ、前と同じ速さでオニムカデがばらまいた毒素の浄化ができるようになった。僕はまたオオクニヌシとオニムカデ退治の旅に出ることになった。今度はニニギ様も一緒だ(あと、ニニギ様についている鳥人のゴーマも。鋼鳥のナツヒコは連絡係として葦国中原にお留守番となった)。ニニギ様は陽気な上に気遣いもできて、スサノオ様の甥御様とはとても思えない方だ。スサノオ様も勿論良い方だけど、なぜかいつも誰かが後始末をする必要があったり、ハラハラさせられたりする。ニニギ様は自分のことは自分でできる方だ。一緒に行くなら断然こちらのほうが良い。出発の日、スサノオ様は俺だけ置いてきぼりだと年甲斐もなく拗ね、ぶすっとした顔で気をつけてなと見送ってくださった。

 ニニギ様とオオクニヌシと共に様々な国をめぐり、オ二ムカデを退治するとともにその毒素を浄化した。ニニギ様の見た目は可愛い鳥を肩に載せた可愛らしさと凛々しさが混じった青年で、色気満載(自分で言うのも恥ずかしいが)の見た目の僕、優しそうな男前のオオクニヌシの3人でいると、性別年齢層すべてを網羅できるらしく、色々な情報が面白いように集まってくる。前は純朴そうな少女と姉御的な女性には避けまくられていたから・・・って、これって白鰐の姫みたいな人じゃん(だから嫌がられていたのか)。とにかく仕事が楽になるし質も上がるし、気が合う3人で楽しいしで良いこと尽くし(不謹慎であるが)の日々を送った。

 そんなある日、キビヒコ殿の管轄である転生した魂魄が住まう村にオニムカデが出た。ちょうど近くにいた僕たちは迎えに来てくれた鷹のアキヒコ達と共にすぐさまその村に向かった。突如として現れた神々である僕たちが、人にとって全く歯が立たないであろうオニムカデを簡単に粉砕する様に皆怯えた。まぁ、そりゃそうだよね。見た目は似てるかもしれないけど僕たちと人間は全く違う存在だ。ちょっと寂しい気持ちにはなるけどそれがあるべき姿なのだろう。そんな中、一人の少女がお礼を言いに飛び出してきた。前の生で僕たちが看取った子だった。怯えもせずに僕たちをキラキラした目で見つめていた。単に今回オニムカデを退治したことに感謝したのか、それとも前の生でのことを心のどこかで覚えていたのかはわからなかったけど、お礼の言葉は前の生での最後の言葉と同じだった。天津神でなくなった僕はいつか死んでしまうだろうし、記憶もどうなるかわからない。でもひょっとしたらこの子のように、心のどこかで覚えているような、そんな転生ができるかもしれない。そうしたら、いつか姫に会って、何か思いが告げられたら良いなと思った。

 それからすぐにキビヒコ殿が転生させた魂魄を守るために、その近隣にニニギ様が派遣されることになり、僕とオオクニヌシはまた二人で旅をすることになった。ニニギ様が一緒じゃなくなったことは寂しいが、たまにスサノオ様のお屋敷で会うこともできるし、互いにオニムカデの新情報を交換し合うのも有益だった。鳥を連れた格好良くて可愛いニニギ様は、最初はその圧倒的な力に怯えられていたようだが、あっという間に人間の英雄になった。一時期僕たちが一緒にいたことを覚えている人間がいたおかけで、僕たちはニニギ様の仲間と認識され、仕事がやりやすくなった。


 そんなある日の夜、僕とオオクニヌシが野営の準備をしているところへ数羽の鷹の鋼鳥たちが突如やってきた。驚く僕たちに緊急事態なので至急戻ってほしいと。そんなことは今まで一度もなかったので、すぐさま荷物をまとめて鋼鳥たちに運んでもらった。鳥たちは疲れるたびに運び手を替え、今までにない速さで飛び続けた。何があったか聞くこともできない速さだった。

 スサノオ様の屋敷に着くと、今度はスサノオ様の侍従たちによってウマシマジ殿の屋敷にすぐ連れていかれた。そこで聞いたことは僕たちを悲しみの底に突き落とした。キビヒコ殿とナガスネヒコ殿が死んでしまったなんて現実と思えない。その遺体を目にできないからなおさらだ。茫然とした僕は碌に言葉が出なかったが、オオクニヌシが皆を励まし、何とか今後の方針を決めることが出来た。

 だが不可思議な出来事が起こった。キビヒコ殿とナガスネヒコ殿の魂魄が見つからないのだそうだ。根の国にも地上のどこにも。僕は、ひょっとしたら高天原に行ったのかなと思った。本来国津神には立ち入ることが出来ない高天原。だけど魂魄になった二人はウワハル様とシタハル様のもとに行ったのかもしれないなと。僕も死んだら姫のもとに行けたらいいなと思った。まぁ、現実はきっと違うからスサノオ様には、高天原の皆様にきっちりご報告するように提言したけどね!・・・でも魂魄だけでも高天原に帰れるのだとしたら、死ぬのも悪くないな、そう思った。


 ◇


 《白鰐の姫》

   「あ~疲れた!」

 因幡のためにと今日もお守りを一つ作った。地上にとんぼ返りしたというあいつに渡すことは出来ないから、毎日一個のお守りを作って、それらにやつの無事を祈る。出来上がったお守りをため込んでいるツボは大きく、父上の背丈ほどもある。たまったお守りは5分の一ほどぐらいになった。お疲れ様ですと侍女が運んできてくれたお茶とお菓子で一息つく。あれからガロはまだ見つかっていない。高天原の見回りにはガロの弟のガイが付いてきてくれるようになった。ガイもガロのことをずっと心配している。アマテラス様から聞いた話では、武力と警護の我が白鰐の一族が表立って探しているが、諜報が得意な因幡の一族も裏で尽力してくれているとのことだった。

 そして私の記憶が一部飛んでしまったままのこの状態、絶対におかしい。父上に聞いてもツクヨミ様のお薬が効きすぎてしまったのだろうと言うだけ。実際にアマテラス様にもツクヨミ様にも薬が効きすぎてしまったようで本当にごめんねとそれはもう丁重に謝られた。

 そんなある日、用事があって父上の執務室に行くが不在だった。そういえば先ほどオモイカネ様からの急な呼び出しとかで、大急ぎで出ていったなと気が付いた。ふと父上の机の上を見ると、色々なものが出しっぱなしだった。まったく私だからよいものの、悪用されれば高天原の一大事にもなりかねない(かもしれない)情報もあるだろうにと、机の上を整え始めた。

 そんな中、見覚えのある筆跡が目の端をかすめた。因幡のものだ。あの繊細な字を見間違えるはずがない!父上と因幡には申し訳ないと思ったが、絶賛因幡が不足しているのだから許してほしい。内容は見ないようにするから、字をちらっと見て因幡を供給するだけだからと紙束から顔をのぞかせていたそれを抜き取った。

 それはところどころ字が水で滲んだようになった手紙だった。字を眺めるだけと思っていたのに、泣きながら因幡が手紙を書いたのかと思って思わず読んでしまった。・・・それは私への思いをつづった手紙だった。高天原に帰った暁には思いを告げて私を大切にすると、義父上と呼べる日が来るのを楽しみにしておりますと、喜びがつづられていた。・・・なに~!!私は真っ赤になって硬直した。その時この部屋に誰かが早足で近づいてくる音がした。慌てて手紙を机に置くとカーテンの中に隠れた。

 入ってきたのは父上だった。忘れ物してしまった!!と大慌てで机の上を漁っていた。探し物は見つかったようだが、因幡の手紙にも気が付いたらしい。これはとつぶやいて手に取った気配がした。机のど真ん中においてしまうなんて、失敗だ!気づかれたと思ったが、因幡殿・・とつぶやく声と小さな嗚咽が聞こえた。しかしすぐさま、オモイカネ様をお待たせしているんだった早くいかねばと言って部屋から出ていった。

 足音が遠ざかるのを確認してカーテンから出た。また机の真ん中に置かれた因幡の手紙を見ると、新しい滲みが出来ていた。どうやらこの手紙の字をにじませまくったのは因幡ではなく父だ。手紙はじっくり読んだ。どうやら、因幡は私のことがずっと好きで、父はそれを知り、そしてなぜか私の気持ちも知って、帰ってきたら求婚する許可を与えたらしい(なんだそれ!恥ずかしすぎる!!)。で、因幡は喜びの手紙を出した。だが因幡は地上にとんぼ返りをした(と私は言われた)。で、父は因幡のことを思って泣いた。だが、地上にとんぼ返りぐらいで父は泣かない。因幡に何かあったんだ。父が泣くぐらいのことが。私が記憶を失うくらいのことが。

 ・・・アマテラス様に直談判に行こう!私は因幡の手紙を握りしめて父の部屋を出た。


 ◇


 《ガロ》

 もうどれくらいこの暗がりにいるのかわからない。俺は虫やコケを食しながら日々結界を操る鍛錬を行った。だが俺の神力の源を覆いつくすことがなかなかできない。大した神力でもないはずなのに。

 今日も上手くいかなかったとしょんぼりしつつ、腹が減ったので虫を探して地下を彷徨った。その時暗闇に細い光が差し込んだ。よく見ると地下に続く扉が細くあいたのだ。久しぶりに見る光がまぶしすぎて目が開けられない。

「誰かそこにいるのか?」聞いたことがあるようなないような声が聞こえた。見つかったら殺される!そう思った。神力を隠さなければ、俺だとばれてしまうかもしれない!!火事場の馬鹿力とでもいうのか、そう思った途端、神力の源を俺の結界の力がすっぽり覆ったのを感じた。すると文字通り地下のいや高天原の床が俺限定で消えた。

 ああ、地上に滑り落ちていく!!そう思った瞬間、その誰だかわからないやつが何かを投げ寄こしてきた。「これを地上の天津神に渡せ!私はっ・・」最後まで聞き取れなかったが薄目を開けてその何かをなんとか抱き留めた。

 高天原の床と思われる暗闇を抜けるとそこは空で、下には地上が見えた。肝が冷えた。とてつもない高さだ。誰だかに渡された何かをぎゅっと抱きしめた。落ちて死ぬかもしれない。でもこれだけは地上の天津神の手に渡りますように。そう祈りながら気を失った。

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