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新釈古事記伝  作者: りんたろう


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43/44

42.地上の混乱 その2

 昼食の席に着いたスサノオ、ニニギ、因幡、オオクニヌシの4人は黙々と食べていた。

「いろいろなことが起きすぎると何も話せなくなるんですね。」

 最後に出されたお茶を前にニニギがぼそっと言った。

「まったくだ。」

 スサノオは椅子の背にもたれて天井を見上げた。因幡とオオクニヌシは窓の外をぼーっと眺めている。

「ニニギ、あの女とその取り巻きたちの魂魄は回収できたか?」 

「はい、根の国にたどり着いたところを回収できました。全く抵抗を見せませんでした。」

「因幡とオオクニヌシはこの辺を見回ってくれたんだろう?

 なんか見当たったか?」

「いえ、怪しい物どころか見慣れない物もありませんでした。日中だからかもしれません。また夜に二人で捜索を行う予定です。」

「そっか・・・。

 ・・・今晩さ、鏡通信での打ち合わせの日なんだ。タイミングが良いっていうか、悪いっていうか。

 俺、ちゃんと話せるかな。」

 高天原のオモイカネたちとの鏡通信は、第3者による傍受を防ぐために、通信の最後に日時を決める形で不定期に行われていた。奇しくもそれが今夜であった。

「そうでしたね。ウワハル様とシタハル様は今回ご参加何ですか?」

「・・・そうなんだ。魂魄の転生に関して途中経過を聞きたいからウワハル様が参加と、前回オモイカネ様から伝言があった。なんて言ったらいいんだろう・・・。」

 因幡の問いにスサノオは机に突っ伏しながら答えた。

「そのままお伝えするしかないかと思います。」

「キビヒコとナガスネヒコの魂魄が見つからないこともか?」

「はい。ひょっとしたらオモイカネ様が何かご存じの可能性もあるかもしれないです。ウワハル様の動揺も想像できますが、いずれは分かってしまうことです。大切な人の一大事を知らされないほうがつらいと思います。」

「すまん、因幡(因幡と白鰐の姫に互いのことを知らせてないんだよな・・・)。」

「なにがですか?

 僕もオオクニヌシも参加できないので、スサノオ様の心労をおそばで支えられなくて申し訳ございません。」

「おまえ、本当にいい奴だな。」

「そうなんですよね!本当に因幡はいい奴なんです。義父上、普通なことしか言えませんが、皆で難局を乗り切りましょう。」

 オオクニヌシの言葉にニニギも机から顔を起こし、うんうんと頷いた。


 ◇


 早めの夕食を皆で食べた後、捜索に出かける因幡とオオクニヌシを見送り、スサノオとニニギは異空間貝の鏡の前に座った。

「こんばんは!スサノオ殿。皆、元気かしら?」

 明るい声で鏡をのぞき込むウワハルが映し出され、後ろではオモイカネたちの楽しそうな笑い声が聞こえた。

「あら?随分硬い表情ね。畏まっちゃって。ひょっとして魂魄の転生で何か失敗があったのかしら?キビヒコは大丈夫でしょうね?」

「あの!ウワハル様!!申し訳ございません。席についていただいてよろしいでしょうか?

 スサノオ様より皆様にきちんとお話ししたいことがございます!」

 ウワハルになんと返してよいかと言葉が詰まっているスサノオに代わり、ニニギが平伏しながら言った。

「あ、あらごめんなさい。申し訳なかったわ。」

 いつにないニニギの切羽詰まった声にウワハルも驚いたようで、不安げな顔をしてそそくさと席に座わりオモイカネたちも一様に黙った。

「昨夜、ニニギが人間により傷つけられ血を流しました。怪我自体はすぐに癒えましたが、その血より発生した黒い稲妻のようなものが地上の生き物を襲いました。キビヒコによると、国津神の間では”神の呪い”として伝承されている事象だそうです。」

「ま、まさか!」

 オモイカネが顔をこわばらせ真っ青になった。

「オモイカネ様、ご存じなのですね。

 その稲妻に襲われた生き物は黒い霧となるのですが、その黒い霧がさらに別な生き物に襲い掛かり、凶暴な何かに変化させたそうです。俺は見てないのですが、後を追ったウマシマジ殿とナガスネヒコが確認しました。」

「室内での流血だったのですが、部屋を閉め切ったことで外に出て稲妻は一部のみ。それもある程度の生き物を襲い、黒い霧に変えた後消滅したそうです。黒い霧で変化した何かも今は隠れているのか消滅したのか確認できません。因幡とオオクニヌシで捜索をしております。」

「部屋に閉じ込めた稲妻はどうしたのだっ・・・」

 かすれた声でオモイカネが訊ねた。

「キビヒコが国津神の血をささげることで”神の呪い”は静まると。

 ・・・俺が、キビヒコとナガスネヒコの首を刎ねました。」

 高天原の面々は目と口を開き固まった。

 ウワハルが気を失って椅子から崩れ落ち、隣にいたアマテラスが慌てて抱き起す。

「・・・なぜ人がニニギを傷つけたのだ。」

 オモイカネの問いにスサノオが経緯を語った。

「俺が・・・人間の感情に疎かったのです。」

「いえ、スサノオ様だけではございません。我ら神が侮っていたのです。我らを傷つけることなどできるわけないと。ナガスネヒコの妹は感づいていて、相談したようですが、すべて後手に回ってしまいました。」

「”神の呪い”は、人によって神が血を流した場合に起きる現象だ。だがそんなことが出来るわけないと考えられていたし、もしそんなことが起きたら人など滅んでしまえばいいとさえ考えられていた。だから、高天原では知られなくなってしまったのだ。

 ・・・国津神の間では伝承されていたのだな。キビヒコ達のおかげで人は命拾いをした。

 スサノオ、辛いことをさせてしまったな。」

「あの!オモイカネ様!

 実は・・・キビヒコとナガスネヒコの魂魄が見つからないのです。根の国にも地上のどこにも。なにかご存じないでしょうか?」

「なに!そうなのか!?・・・すまない。”神の呪い”が起きたことを私が聞いたのは今回が始めたなのでだ。私が目を通したことがある書物では、国津神がどうなるのかは触れていなかった。次回までにできる限り調べてこよう。」

 そこまで話した時、ウワハルが気が付いた。

「ねぇ、スサノオがキビヒコの命を奪ったの?ほかに方法がなかったの?」

 涙をながし、スサノオを睨んだ。

「本当にすまない。」

 スサノオはウワハルに頭を下げつづけ、すまないだけを繰り返した。

「ウワハル様!キビヒコ様たちは自害されようとしたのです。痛みや苦しみをなるべく感じられないようにするために、スサノオ様はつらい役目を引き受けられたのです・・・。」

「わかってるわよ!そんなこと!!

 だけど、なんでなの?あの時が、高天原に戻るとき見たのが最後なんて思わなかった!

 こっちに帰ってこなければよかった!!」

 ニニギの制止にそう言うとウワハルは泣き崩れた。

そんなウワハルの背中をなでながらアマテラスが言った。

「スサノオ、本当につらい立場にずっといさせてごめんね。心の機微なんで自分のことだってわからないときがあるのに、ましてや人のことなんて。そういうことが得意な人物は限られているわ。だから自分を責めないで。」

「これは我らすべての責任だ。この場にいないシタハル殿の悲しみも含めて。皆で背負って行こう。」

 ツクヨミも続けた。

「スサノオ、本日の打ち合わせはここまでと言いたいとこだが、次回がすぐ開催されるわけではない。今後のそちらの体制に関する考えを教えてほしい。あと、我々に望むことも。」

 スサノオは、アキヒコがキビヒコの後を継ぐこと、因幡とオオクニヌシ、ニニギでオオムカデ退治と共に神の呪いから生まれた何かを捜索すること、ウマシマジは引き続き表側を統括することを伝えた。

「わかった。その方向で良いかと思う。ウマシマジ殿もつらかろう。ニニギ、互いに支え合えると良いな。」

「オモイカネ様。そちらへのお願いごとなのですが・・・。

 心の機微に聡い者を此方に寄こしていただけることは出来ないでしょうか?我らの中で一番ましなのはオオクニヌシ、つぎは因幡なのですが、どちらも屋敷にいることはほとんどできないのです。」

「現在、高天原は完全封鎖の状態だ。なかなかに難しいことではあるが、努力しよう。」

「ありがとうございます。」

 オモイカネの言葉にホッとしたスサノオは深々と頭を下げた。


「では、今回はこの辺で「スサノオ!ごめんなさい!あなたが辛い思いをしたことは分かっているの。

 でも、どうしようもなくって・・・。」

 終わりを告げるアマテラスの言葉をさえぎってウワハルが言った。


「うん、わかっているよ。ウワハル殿。俺もキビヒコとナガスネヒコがいなくなってとても悲しい。また会いたくてたまらない。・・・二人の思い出話をいっぱいしたい。」

 スサノオの目から涙がぼろぼろとこぼれた。

「うん、うん。しようね。

あのね、スサノオ。ちゃんと教えてくれてありがとう。」

 ウワハルがしゃくりあげながら微笑んだ。


「では、今回はこれまでとしましょう。次回は33日後。時間は23時15分からよ。」

 そんなウワハルをぎゅっと抱きしめながらアマテラスが言った。

「また奇妙な日時設定だな。」スサノオが泣きながらくすっと笑った。

「あら、私のすぐれた感覚から導かれた数字よ。傍受なんて誰にもさせやしないわ。」

 アマテラスがにっこり笑って映像が途切れた。

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