41.地上の混乱 その1
夜が明けるよりも前に、因幡とオオクニヌシは鷹のナツヒコとアキヒコの娘たちに連れられ、スサノオの屋敷に戻ってきた。皆が待っているという部屋に駆け付けると、ウマシマジ、その母であるミカシヒメ、そしてスサノオとニニギがいた。部屋の隅では鷹のアキヒコがうなだれている。
「皆さま、ご無事ですか!?ナツヒコからは緊急事態としか聞いていないのですが、何がありました?」
「空からはあちらこちらで火の手が見られましたが、奇妙なことに騒ぎ声などは聞こえませんでした。」
スサノオは二人に座るように言うと、この夜に起きたことを話した。
「そんなっ!!キビヒコとナガスネヒコが亡くなったと・・・。」
「ああ、彼らの犠牲によって被害が最小限にとどめられた。ただ、キビヒコ達が消えた後、ニニギと共に外を見て回ったのだが、黒い霧によって化け物へと変化したという生き物たちが見つけられなかった。キビヒコ達と一緒に消滅したと思いたいが、何かが闇の中からこちらをうかがっている気配がした。おそらく隠れたのだと思う。」
「義父上たちはこの後どうされるおつもりですか?ウマシマジ様のことも含めて。」
オオクニヌシが問うた。
「悔しいことがだ、キビヒコとナガスネヒコには汚名を着てもらう。」
スサノオはナガスネヒコ達が提案した内容を伝えた。再びそれを聞くことになったウマシマジは泣き崩れ、初めて聞いたミカシヒメは絶句した。
「スサノオ様、申し訳ございません!私がもっと早くに兄に伝えていれば・・・。ニギハヤヒ様の方針とは言え、もう少しやりようがあったはずなのに・・・。」そう言うとウマシマジを抱きしめた。
「二人の遺志の通り、ウマシマジ派と称してこのような禍を引きを越した人間たちを根の国に送ろうと思う。これに関しては俺が引き受けよう。」
「ところでスサノオ様、キビヒコとナガスネヒコの魂魄は無事に根の国に向かったのでしょうか?記憶を持ったままかどうかは別としても彼らの転生を早めることができれば心強いと思うのですが。」
因幡の問いに、スサノオとニニギの動きがぴたりと止まり、スサノオが下を向いてボソボソと答えた。
「二人の魂魄が見当たらないんだ。ここから根の国は近いからすぐにでもたどり着いてるかと使いを出したのだが。何処かをさまよっているのか、それとも魂魄自体が消滅してしまったのか全く分からない。」
それを聞いたミカシヒメが何てことと小さく悲鳴を上げ、その場は静まり返った。
「わかりました。ここで悲しんでいる場合ではありません。キビヒコ殿とナガスネヒコ殿のご遺志を無駄にしないためにも、素早い行動が必要かと思います。
・・・皆さましっかりしてくださいませ!!」
オオクニヌシがパンと大きく手をたたき、その音にスサノオはハッと顔を上げ、ニニギ、因幡と顔を見合わせ頷いた。
「高天原は完全封鎖に入ってしまって、応援は当てにできない。キビヒコ殿たちはいなくなってしまった。その上で、ウマシマジ様とミカシヒメ殿はどうなされますか?我らと行動を共にされたいですか?スサノオ様としてはどうされたいですか?」
「僕は皆様と行動を共に「いいえ、わたくしたちはニニギ様の配下という立ち位置から今までと同様に表側を担っていきたいと存じます。」ウマシマジの言葉をさえぎってミカシヒメが言った。
「母上!僕はもう守られているのは嫌なのです。皆様と一緒に立ち向かいたいのです。」
ミカシヒメの肩に手をかけて訴えるウマシマジを払いのけ、さらにミカシヒメが言った。
「スサノオ様、ウマシマジはスサノオ様たちの目的や動きを理解しているわけではございません。察してはおりますが。それは彼の父であるニギハヤヒ様も同じでございます。彼はスサノオ様がたに対する勢力とご自身がどのような関係にあるかわからないことから、情報が流れることを恐れ、何も知らないことを貫いておりました。私自身もかつてスサノオ様の配下でしたが、ニギハヤヒ様の妻となってからは情報に全く触れないでいるよう言われました。決して保身のためだけではございません。今回それが裏目に出ましたが、長い目で見れば皆様の安全につながると信じております。
ウマシマジ、我らの行動を恥じてはいけません。何も知らないことを突き通すことで皆様の盾になってるのです。」
ミカシヒメに強く言われ、ウマシマジは黙って下を向いてしまった。
「ミカシヒメ、そなたやニギハヤヒ殿の気持ちはずっとわかっていた。感謝をしている。今まであいまいなまま役目を果たしていてくれて申し訳なかった。うるさい外野もいただろう?
オオクニヌシが今回改めて問うたのは、お互いの立ち位置を明確に認識したほうがやりやすいだろうという配慮だと思う。」
なぁ?とオオクニヌシを見るとうんうんと大きく頷いていた。
「ウマシマジ殿、あなたの父であるニギハヤヒ殿は命を長らえるためといったかもしれないが、それは”皆で”命を長らえるためという意味だと思っている。逆にニニギや因幡たちのような派手な立ち回りがない分、口うるさい奴たちがとやかく言うことが多いだろう?そのよう役目を担わせてしまい申し訳ない。」スサノオが頭を下げ、ニニギ、因幡、オオクニヌシが続いた。
突然のことにアタフタするウマシマジにスサノオが続けた。
「だが、この役割を担えるのはあなた様しかいないのだ。お引き受けいただきたい。」
黙ってしまったウマシマジの肩をミカシヒメが励ますように軽くたたいた。
「・・・畏まりました。謹んでお受けいたします。皆様が安全にお役目をこなせる盾となりましょう。」
スサノオは頭を上げるとウマシマジを抱きしめた。
そうと決まればこれ以上ここにいて話を聞くわけにはいかないと、ウマシマジとミカシヒメは彼らの館へと帰っていった。
残された4人は椅子にどさりと座りこんだ。
「・・・もう会えないかもしれないなんて思っても見なかった。」
10分だけ泣かしてくださいと因幡とオオクニヌシは涙を流し、スサノオとニニギもつられて泣き出した。
10分後、涙を拭いた4人は今後の方針を決めることとした。
まずはキビヒコとナガスネヒコの遺志を完遂するため、”あの女”とその取り巻きたちを根の国に送る。
しかし、ニニギ派と称する集団が過激化する恐れがあることから、派閥ではなく過激な行動をした結果として警告の意味を強く持たせることとした。
次に黒い霧によって変化した生き物については、現在オニムカデの対応をしている因幡とオオクニヌシ、そしてニニギに任せることにした。まずは存在の確認とその性質、そして滅する方法の把握だ。
最後に魂魄の転生による毒素の浄化だ。これはキビヒコが中心となって行っていたことから、だれも代わりを務められるず困ってしまった。
うーんと唸っていると、部屋の隅にいた鷹のアキヒコが声を上げた。
「あのよろしいでしょうか?」
彼はキビヒコの影に潜んでいたものの、キビヒコの首が落とされた瞬間、弾き飛ばされるような感覚にあい、気が付くと卵の部屋にいたそうだ。
「どうか、私に後を継がさせていただけないでしょうか。
私はキビヒコ様の影からずっと一緒に見守っておりました。鳥人や鋼鳥の特性も存じておりますしどのように采配すべきかもわかると思います。キビヒコ様とご一緒に逝けなかった理由をそこに見出したいのです。」
お願い申し上げますと深々と頭を下げた。
スサノオはニニギと顔を見合わせ、確かにと頷いた。
「だがアキヒコ、お前は人の手を持たぬ鋼鳥だから魂魄を覗く鏡の設定や手入れが出来ぬであろう?」
「はい、そこは考えております。
卵部屋で私に反応した3つの卵を覚えていらっしゃるでしょうか?私の実の子たちであります。
彼らは無事羽化いたしまして、わたくしと一緒にキビヒコ様にお仕えしておりました。
その3羽の鳥人を私につけていただければ人の手を必要とすることも熟せましょう。」
「なるほど!ではその3羽と話したい。今連れてこれるか?」
「畏まりました。」
そう言うとアキヒコは窓から飛んで行った。
「良い考えかと思います。」
アキヒコを見送りながら因幡が言った。
「確かに。いずれは鳥人や鋼鳥たちをいくつかのグループに分けて魂魄の追跡を担当させるのが現実的でしょうから。」オオクニヌシも大きく頷いた。
アキヒコが連れて帰ってきた3羽の鳥人は女、男、男でそれぞれモミジ、シイ、カツラと名乗った。
鷹の鳥人だけあって大きく、特にカツラは人の肩ほどの背丈があった。
「父より話は聞いております。キビヒコ様のためにも父のためにもどうかお役目をいただければと存じます。」非常に落ち着いたその振る舞いに一同は驚いた。
「ニニギ様のゴーマとはまた随分違いますね。」
因幡がぽそっと呟き、スサノオが大きく頷き、ニニギは膨れた。
「よし、ではアキヒコにはキビヒコの後を継ぎ、魂魄の転生の追跡を行うことを命じる。転生させる毒素を持った魂魄の数は現在と同じ5以下づつとし、その選定は俺と共に行うように。モミジ、シイ、カツラにはアキヒコの補佐を命じる。定期的な報告と共に、不審な点等、気にかかることは些細なことでもすぐに報告するように。」
「ありがとうございます!畏まりました!!」
そう言うと、鷹たちは恭しくお辞儀をした。
「これで一通りだな。もうずいぶん日が高いな。皆、腹が空いていたら適当に何か食べて休んでくれ。
また昼食を一緒に取ろう。」
スサノオはそういうと太刀をもって立ち上がった。
「どちらにいらっしゃるのですか?」
「ナガスネヒコの望みを叶えに行ってくる。ニニギ、根の国の者に伝えてくれるか?
ナガスネヒコの大切だった人間の魂魄が来たら印をつけて、すぐに封じ込めの入れ物に保管し丁重に扱うように。
・・・諸悪の根源と言っていたが、心のよりどころであったはずだ。」
「畏まりました。あと、スサノオ様がお戻りになり次第、過激な行動による成敗であった旨と、今後の行動への警告をすべての国に通達いたします。」
よろしく頼むと言って、スサノオは出ていった。
しばらく、不定期に更新になるかもしれませんが、
よろしくお願いいたします<(_ _)>




